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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第267話 花乃舞梅花-3

 花乃舞梅花は話を続けた。


「これは、宝積寺春華が外に行った後の話だ。宝積寺春華は、偶然にも、魔力を保有している人物に出会った。外でも、この町から比較的近く、微量の魔素が存在している地域で、その人物が魔素を吸収していることに気付いたらしい。その人物から話を聞き出したところ、家族関係が悪く、遠くへ行きたいと思っていることが判明した。宝積寺春華は、その希望を叶えるために、神無月愛に対して素性を調べるための申請を行なった。その人物が、神無月の人間の血を受け継いでいれば、この町へ連れて来ることができるからな」

「……」


 神無月先輩の反応は、心当たりがある人のものだった。


「宝積寺春華は、誤りのないように、念入りに素性を調べてほしいと伝えたそうだ。だが、申請を受けた神無月愛は、その人物のことを調べず、即座にこの町へ呼び寄せた」

「……何故ですか?」

「知らないな。だが、推測はできる。宝積寺春華が出て行って、後ろ盾が無くなったために、先行きが不安だったのだろう。宝積寺春華の希望を叶えれば、少しは自分の存在価値を発揮できるとでも思ったのだろうな」

「愛様……そのような、あやふやな理由だったのですか?」

「……」


 宝積寺に尋ねられても、神無月先輩は反論しなかった。

 花乃舞梅花の推測は、ほとんど当たっているようだ。


「だが、外から呼び寄せた人物について後で調べると、神無月とは無関係であり、御倉沢家の血を引いた者だった。その事実が判明してから、神無月愛は自身の過ちを隠すために、その人物の記憶を魔法で操作した。そして、宝積寺春華には『神無月の仲間を迎えた』という嘘の報告をした」

「まさか……その人物というのは……!」


 大河原先生は、何かに気付いた様子で声を上げた。

 花乃舞梅花は、頷いてからこちらに目を向けた。


「お前だ、黒崎和己」

「……は?」


 全く心当たりのない話題で名指しされて、俺は何も考えられなくなった。


 俺が……外で、春華さんに会った?

 家族と不仲で、遠くに行きたがっていた?


 一体、何の話をしてるんだ……?


「黒崎和己。お前の、外に関する記憶は偽りのものだ。それと、お前は、親からの仕送りを受けていると思っているな? だが、振り込んでいるのは神無月家だ。金の動きを調べたから間違いない」

「……」

「そして、お前が、自分は普通の家庭で育ったと思っていることは、事実に反している。ただし、記憶を改竄されたことに憤ったとしても、本物の親には会わない方が良いだろう。嫌な思いをするだけだ」


 ……駄目だ。何も考えられない。


 俺の記憶が、外にいた時点のものまで操作されていた……?

 だったら……俺は、本当は何者なんだ……?


「天音さん。黒崎さんの記憶を操作したのは貴方ですか?」

「違います! 私ではありません!」


 宝積寺から問われた北上は、頭を激しく横に振りながら否定した。


 良かった……。

 素直にそう思った。


 この話の記憶操作まで北上にやられていたら、俺はショックで死んでいたかもしれない。


「そのような話は、私も初めて伺いました。天音さんでなければ……記憶を操作したのは愛様ですわね?」

「まさか……! 愛様の腕では、失敗するリスクが……!」

「……仕方なかったのよ! あの時は、そうする以外なかったの!」

「貴方という人は……」

「愛……お前は、黒崎が御倉沢の人間だと知っていたのに、自分で記憶をいじって、そのことを隠しながら僕たちに訓練させたのか?」


 神無月先輩は、宝積寺だけでなく、早見や白石先輩にも軽蔑した目で見られた。

 どうやら、この件については、神無月先輩に近い人達ですら知らなかったらしい。


「あの、梅花様……。そのお話は、どのように把握なさったのですか?」


 あかりさんは、不思議そうに首を捻った。

 確かに、部外者である花乃舞が、こんな秘密を把握しているのはおかしい。


「神無月愛の返信を受け取って、宝積寺春華は不審なものを感じ取ったらしい。それで、何が起こったのかを把握するために、美樹に確認を依頼した」

「美樹さんに……?」

「神無月の人間に依頼すれば、当主に握り潰されるおそれがあるからな。だが、その時の美樹は、魔素のダメージを癒やすために外へ出ていた。美樹が外に出ている時には、連絡は全て私のところに届く決まりだ。宝積寺春華の依頼を受け取って、神無月で起こっていることを知った我々は、すぐに調査を開始した。結果として、神無月愛の嘘が判明したというわけだ。ちなみに、黒崎和己が御倉沢の人間であることを、御倉沢吹雪に報告したのは私だ」

「その件について教えていただけたことについては、感謝しております」


 生徒会長はそう言った。

 だが、その顔からは、少し不満そうな様子が感じ取れる。


「ですが、その件を理由として、愛さんを当主から引きずり下ろしてはいけません。もしも、神無月の人間が、和己のせいで当主の座を奪われたと考えたら、和己が恨まれてしまうおそれがあります」


 生徒会長に指摘されて気付いた。


 確かに、俺に酷いことをしたせいで神無月先輩が失脚した、という構図になるのは良くない。

 神無月を滅ぼした人物とみなされて、俺が狙われるかもしれないからだ。


「そのような心配は無用だ。神無月愛による、問題のある言動は、黒崎和己に関するものだけではない。代表的なものは、長町あきらを煽って、宝積寺玲奈を暗殺しようとしたことだ」

「……!」


 いきなり名指しされて、長町は怯えるような反応をした。

 あかりさんが、落ち着かせるように自分の妹を撫でる。


「ちょっと待って! 私は、玲奈ちゃんを殺せなんて言ってないわ! あれは、あきらちゃんが勝手に……!」

「指示はしていないだろう。だが、お前は、参加させる必要のない訓練に長町あきらを参加させてから、褒美として、イレギュラーの時の宝積寺玲奈について話したな?」

「それは……」

「あの時のことは話すな。伝えるとしても、宝積寺玲奈が恨まれないように注意しろ、と美樹から釘を刺されていたはずだ。にもかかわらず、お前は宝積寺玲奈の行為について、詳細に話した。そのようなことをする目的は明らかだ。長町あきらが、宝積寺玲奈に対する恐怖を抑えられなくなって、暗殺することを望んでいたのだろう?」

「……」

「もっとも、私は、お前が宝積寺玲奈を殺そうと考えたこと自体を非難するつもりはない」

「梅花様……」


 美樹さんは窘めるように言ったが、花乃舞梅花は続けた。


「お前も、宝積寺玲奈が異世界人を虐殺するところを見ているからな。危険視するのは当然だ」

「……!」


 思い出してはいけないことを思い出しそうになったらしく、多賀城先輩は頭を押さえた。

 大河原先生や桃花が、多賀城先輩を介抱するようにしている。


「だが、実力差や、長町あきらの性格を考えれば、訓練もせずに暗殺を試みるのは無謀だ。つまり、お前は、長町あきらの命を危険に晒しただけだ。しかも、お前の動機は、宝積寺春華を独占していた宝積寺玲奈への憎しみだろう? 配下の命を安易に捨てるような当主には、誰も付いて行くはずがない」

「……」


 神無月先輩は、反論できないようだった。

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