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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第262話 花乃舞梅花-1

「美樹。お前は、よりによって、こんなのを義弟にしたのか?」


 花乃舞梅花は、呆れたように言った。

 完全に、俺を馬鹿にした態度である。


「和己さんは、とても良い方ですから」

「よせ。こんな奴を招き入れたために、お前や私たちの評価が下がったらどうするつもりだ?」

「この屋敷にいらっしゃる方々も、桜子さんや若葉さんも、和己さんのことを、とても気に入ってくださっております」

「参考にならない。お前のことが好きか、年下の男が好きか、いかがわしい行為が好きかの違いがあるだけではないか」

「そのようなことを仰らないでください。皆様は、私たちの大切な家族なのですよ?」


 そう言いながら、美樹さんは宥めるように当主の頭を撫でた。

 花乃舞梅花は、顔の下半分を隠していても伝わってくるような不満を顔に出した。


「人前で私の頭を撫でるな」

「よろしいではないですか。梅花様は、いくつになっても、私の娘のようなものですから」

「……」


 当主に睨まれても、美樹さんは構わずに頭を撫でた。

 この人……物腰が柔らかいように見えて、意外と強引だよな……。


 そんなことを考えていると、花乃舞梅花は俺を睨んだ。

 それから、扇子を畳んで、それを俺の方に突き出した。


 ついに、顔の全体を見ることができた。


 赤い口紅を引いている。

 化粧をしていなくても、美少女であることは間違いない。


 てっきり、顔のどこかに、化粧でも隠せないほどの傷でもあるのかと思ったが、そういったことはないようだ。


「お前にも教えてやろう。ようやく、話し合いの日程と場所が決まった。3日後に、御三家の当主がこの屋敷に集まる」

「……御倉沢も、ですか?」

「そうだ。自分たちがいないところで、神無月と花乃舞が合併するのが嫌なのだろう。本当は、加えてやる義理など無いのだが……神無月は、御倉沢を招くことを希望した。参加者が増えれば、花乃舞の圧力を抑えられるとでも思っているらしい。馬鹿げた願望だ」

「……」


 御倉沢を参加させることは、神無月先輩にとって、ただの気休めではない。

 合併に反対してくれる可能性が高いから、参加させたかったのだろう。


 御倉沢にとって、2つの家の合併は、存亡の危機に陥るような事態である。

 できれば、阻止したいと思っているはずだ。


 そう考えると、御倉沢を参加させることは、神無月にとって有益な可能性がある。

 ただ、花乃舞の脅しを無効にする算段がなければ、無駄な足掻きのような気もするが……。


「喜ぶがいい。お前も特別に参加させてやろう」

「俺も……?」

「本当は、お前のような男が参加するべき場所ではない。だが、あの汚物のような日記を書いていた本人がいれば話が早い」

「いや、あの日記は……!」

「言い訳は無用だ。あれが、お前の本性だろう?」

「……」

「梅花様……和己さんを責めてはいけません。あの日記が流出したことによって、一番辛い思いをしたのは和己さんです」

「自業自得だ。あのような、頭のおかしいことを考えている方が悪い」

「異性への欲求があることは、非難されるべきではありません。多くの方々が、異性と遊ぶこと、そして楽しむことを望んでいるのです。梅花様も、いずれは、そういう男性が見つかると思います」

「冗談ではない」


 こいつ……花乃舞家の当主なのに、男が嫌いなのか?

 そんなことを考えていると、花乃舞梅花は、それを見透かしたように睨んできた。


「黒崎和己。お前は、花乃舞の人間は淫乱ばかりだと思っているな?」

「いえ、そこまで思っているわけじゃ……」

「誤魔化す必要はない。それに、御三家の当主には、子孫を残す義務が課せられていると思っているのだろう? 子を作るためには、そのための行為をしなければならない。人間だけでなく、ほとんどの生物が抱えている問題だ」

「……義務はあるでしょう? 家が途絶えたら困りますよね?」

「私は、人間の性欲や性行為を肯定しない。つまり、私の子が生まれることはない。家を存続させるためには、養子を迎えればいいだろう。それで構わないと思っている」

「……」


 驚くべき言葉だ。

 花乃舞は、外部の者は拒んでいるものの、内部では裸の付き合いなんて当たり前の暮らしをしている。

 その花乃舞をまとめる立場である当主が、性行為を拒絶して、家を途絶えさせようとしているとは……。


 まだ幼いから、大人の行為を汚いものだと思っているのか?


「誰であれ、望んでいない方に、そういう行為を強制してはいけませんね」


 さらに意外なことに、美樹さんは、花乃舞梅花のそういう感情を肯定しているらしい。

 だが、言葉とは裏腹に、美樹さんは寂しそうな顔をしていた。


「そもそも、この男は1人で楽しみたいだけだ。子孫を残すための性欲が罪でなかったとしても、この男の欲望は罪だ」

「そんな風に断罪されても困るんですけど……」

「お前は、生身の女を愛していない」

「……決めつけないでください」

「否定するならば、女の生理現象や妊娠で価値が下がる理由を答えてみるがいい」

「いや、それは……!」

「お前にとって、生きた女は、都合が悪いということだろう?」

「……あれについては、細かい文脈のようなものがあってですね……」

「苦しい言い訳だな。ついでに、1つ質問させてもらおう。女の価値を下げるのが、排泄ではなく排便になっているのは……」

「あああああぁぁぁ!」


 俺は、頭を抱えながら絶叫してしまった。


 今まで、あの日記を読んだ誰からも指摘されなかったのに……!

 まさか……こんなガキに、今まで誰にも気付かれなかったセンシティブな部分を……!


「その点にお気付きになるとは……さすがは梅花様です」


 雅は、珍しく表情を変えて、感心している様子で言った。

 どうやら、こいつは、花乃舞梅花が指摘した点について気付いていたようだ……。


 まさか、あの日記を読んだ他のメンバーも、同じことに気付いてないだろうな……?


「梅花様……それ以上はいけません。人は、誰にも言えない秘密を抱えていることだってあるのです」

「バカバカしい秘密だ」

「誰かに、見せることを強要したわけではないのですから」

「そんなことをする男は、八つ裂きにして処分する」

「いけません。脅かすようなことを仰っては……」

「ふん。下劣な話は、もう充分だろう? 美樹、雅。言わなくても分かっていると思うが、お前達も話し合いに参加してもらう。全ての家が、配下を10名ずつ連れて来る約束だが、美樹とこの男は数に入れないことにした。双葉と桜子、桃花は参加させるつもりだ。残りのメンバーは追って伝える」

「かしこまりました」

「皆でこの家に集まって話し合うだなんて、滅多にない機会です。とても楽しみですね」

「……子供の遊びではない」


 花乃舞梅花はため息を吐いた。

 どんなに偉そうにしていても、親代わりである美樹さんとの関係については悩んでいるようだ。



 俺と美樹さんと雅は、花乃舞梅花が帰るのを見送った。


 花乃舞梅花は、部屋を出る前に、再び顔を扇子で覆っていた。

 なるべく、他人に顔を見られないようにしているようだ。


 これも、花乃舞の文化の1つなんだろうか……?

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