表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

261/290

第260話 黒崎和己-18

 翌朝、目を覚ますと、俺は布団の中で寝ていた。

 そして、隣には十条先輩が寝ていた。


「おはようございます、黒崎さん」

「……おはようございます」


 身体を起こした十条先輩は、紫色の下着しか着けていなかった。

 分かっていたことだが……とても恵まれた体型をしている。


「一緒に寝ることができて、とても嬉しかったです」

「……何もできなくて、すいませんでした」

「構いませんよ。何かをしたいと思っていただけたのであれば、今後に期待できますので」

「……」


 服を着てから、あっさりとした態度で、十条先輩は帰って行った。

 しつこくしないことが、先輩が多くの男女と関係を持てた秘訣なのかもしれない。



「お兄ちゃん……やっぱり、若葉さんの匂いがするね」


 俺の部屋に来た桃花が、俺に抱き付いてから言った。


「匂いを確認するためだったら、そんな風に抱き付くな」

「私の匂いを付けて、誤魔化そうと思って」

「……やめてくれ」

「駄目だよ、今日は宝積寺先輩が来るんだから。若葉さんの匂いがしたら困るでしょ?」

「……」


 確かに、十条先輩と一緒に寝たことがバレるよりは、桃花の匂いがした方がマシな気がする。

 しかし……最近、桃花による俺への密着が、当たり前のことになってしまっている……。


 松島は、俺達の様子を笑顔で見守っているだけだ。

 桃花を止めることもなければ、俺達の関係に嫉妬する様子もない。


「お兄様、起きていらっしゃいますか?」


 部屋の外から、雅の声がした。


「ああ」

「失礼いたします」


 雅は、部屋に入ってくると、見慣れない器具の準備を始めた。


「何だ、それ?」

「お香です」

「そっか、それで匂いを誤魔化すんだね?」

「はい」

「……だが、いきなりお香の匂いなんてさせたら、俺の相手を知られないようにしてることが、宝積寺にバレバレじゃないか?」

「玲奈さんは、花乃舞の内部のことには干渉しません。意図に気付かれても、深く追及されることはないでしょう」

「……」


 今さら遅いような気もするが……俺の身体の匂いが何度も変わるよりはマシなのかもしれない。


「これは、美樹さんの指示か?」

「いいえ。お兄様の女性トラブルを防止するためです」

「雅ちゃんは気が利くよね」

「……」


 俺は、義理の妹たちに、変な気を遣わせているな……。



 朝食の後で、宝積寺を迎え入れた。

 宝積寺は、やけによそよそしい態度で、何かに怒っているように感じられた。


 勉強を教わりながら、ずっと不安だった。

 やはり、俺が、女の匂いを隠そうとしているからだろうか……?


「昨日は楽しかったですか?」

「……いや……」

「そんなはずはありません。アリスさんと一緒にいる時の黒崎さんは、いつも楽しそうな顔をしています」

「!?」


 宝積寺は、表情を変えないままで尋ねてきた。


 カマをかけている様子はない。

 どうして知られてしまったのか、恐怖を覚える。


「昨日、愛様の様子がおかしかったので、問い詰めたら白状しました。アリスさんと一緒に、プールへ行って遊んだそうですね?」

「いや、それは……」

「このような状況でも、アリスさんに誘われたら出かけてしまう黒崎さんには、呆れてしまいました」

「……」

「宝積寺先輩。お兄ちゃんが早見先輩と遊ぶことは、この屋敷に来る前から約束していたことなんです」


 桃花がそう言うと、宝積寺はため息を吐いた。


「桃花ちゃん……そういう時は、止めないと駄目です」

「でも、美樹さんは出かけることを許可してくれました。花乃舞としては問題ないと考えています。それに、お兄ちゃんが襲われないように、私がずっと警戒していたので安全だったはずです」

「……」


 宝積寺は、文句を言いたそうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。

 花乃舞の内部のことだと主張されると、宝積寺としては反論しづらいのだろう。


 結局、宝積寺は帰る時まで不機嫌そうだった。



「……まだ疲れてるの?」


 この実さんと一緒に風呂に入っていると、心配そうな顔で尋ねられてしまった。

 俺がこの実さんの身体に関心を示さなかったので、不安になったようだ。


「いえ……」

「ひょっとして、あの子が私達の関係を嫌がったの?」

「宝積寺のことを言ってるんだったら、俺達のことには口出ししないと思います。花乃舞の内部のことですから」

「……そっか。じゃあ、アリスちゃんのことなんだね?」

「……すいません。気を遣わせてしまって……」

「それはいいんだけど……和己君は大変だよね。3つの家の女性と、それぞれお付き合いするなんて……」

「……」


 本当に、どうして、こんなことになってしまったのか……?

 俺は頭を抱えたくなった。


「もしも、今夜、俺の女になってほしいって言ったら……軽蔑しますか?」

「えっ……?」


 この実さんは、思ってもみなかったことを言われたような顔をした。


「……すいません。忘れてください」

「和己君がそういう気分になったのであれば、拒むつもりはありませんけど……」

「……」


 まさか……こんな酷い流れで、受け入れてもらえるなんて……。

 現実逃避のような理由であることには、この実さんだって気付いたはずなのだが……。


「いいですよ、理由は何であっても。逃げたいからでも、癒やしてほしいからでも、たまたま近くにいたからでも。だって、今の状況が落ち着いたら、私はお払い箱になってもおかしくないですよね? だったら、せめて、思い出を作っておきたいじゃないですか」

「……」


 この人は、自分の立場を、誰よりも理解しているのだろう。


 俺としては、この実さんを軽く扱うつもりはない。

 だが、花乃舞と神無月が合併した後で、花乃舞の文化が残るのかは不確かだ。

 合併後には、宝積寺や早見、黒田原といった連中が、俺と現在の花乃舞のメンバーとの関係について文句を言うかもしれない。


 今のような関係は、すぐに終わるかもしれないのである。

 だから、衝動的な関係であっても構わないのだろう。


 その後、俺達の間には、気まずい空気が流れた。

 お互いに、相手の身体を意識していることは明らかだった。



 俺達は部屋に戻った。

 桃花と松島は出て行って、俺とこの実さんが部屋に残る。


 まだ、お香の匂いが残っている。

 決して、催淫作用があるものではないと思うが……抱き合ってもバレにくいことは意識してしまう。


「……明かりを消します」

「……」


 布団に入って、少し待った。

 それから抱き寄せても、風呂で言っていたとおり、この実さんは拒絶しなかった。


「お兄様、この実さん、起きていらっしゃいますか?」

「!?」


 外から雅の声がして、俺とこの実さんは顔を見合わせた。

 こんな時間に……どうしたというのか?


「夜分遅くに申し訳ございません。この実さんに、どうしてもお話ししたいことがございます」

「私に……?」


 無視するわけにもいかないので、この実さんは、部屋の外に向かった。

 俺だけが取り残されて、どうするべきか悩んでしまう。


 駄目だ……今さら、落ち着くのは……。

 この実さんが戻ってくるまで待てだなんて、無理に決まっている。


 そんなことで頭一杯になりかけたが、俺の頭の片隅に、わずかな理性が残っていた。


 一人で欲求を発散している場合ではない。

 部屋の前に雅とこの実さんがいるとはいえ、俺は襲われるかもしれない立場なのだ。


 さすがに、心配しすぎか……?

 そんなことを考えていると、俺の頭の後ろに、誰かが触れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ