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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第250話 黒田原飛鳥-5

 部屋を出たタイミングで、早見は誰かと言葉を交わした。

 それから、早見と入れ替わるように、黒田原と桃花が部屋に入ってきた。


「黒田原……?」

「私も、黒崎さんとお話ししたいことがあります。できれば、二人きりになりたいのですが……よろしいでしょうか?」

「……構わないが……」

「ありがとうございます。では、桃花ちゃんは、外で待っていてください」


 黒田原がそう言うと、桃花は不機嫌な顔をした。


「お兄ちゃん……女の人を甘く見たら駄目だからね?」

「それは分かってるが……」

「心配するのは当然のことだと思いますが、私は、黒崎さんに対して一方的な行為は致しません。お約束します」

「……二人きりにするのは、少しの間だけですからね? それと、時々、合図なしで扉を開けます。異変を感じたら、力尽くで止めますよ? 私には、お兄ちゃんを守る義務がありますので」

「心得ております」

「もちろん、扉には鍵をかけないでくださいね? それと、トラブルにならないように、接触することは禁止です。あっ、もちろん、脱ぐことも禁止ですよ?」

「分かりました」


 桃花は、黒田原を信用していない様子だが、渋々といった態度で部屋から出て行った。


 あいつ……さすがに、心配しすぎではないだろうか?

 俺が美樹さんの弟になったとはいえ、神無月の人間である黒田原が、俺を犯そうとするとは思えない。


 それよりは、神無月と花乃舞の合併を阻止するために、俺を殺そうとするリスクの方が高いように思える。

 しかし、そんなことを心配している様子は、一切なかった。

 そういうリスクは無い、と考えてもいいのだろうか……?


 俺が考えを整理できないうちに、黒田原は、早見と同じように、俺の隣に座った。

 今まで経験がないほど近くで、抜群のスタイルを露わにしている姿に、かなりの衝撃を受ける。


 こいつがビキニの布面積を小さめにしているのは、男を誘うためではなく、体型の魅力を最大限にするためだろう。

 矢板のものと比較すると、単純なエロさだけでなく、手足の長さや線の細さが強調されているように感じる。


「私の身体に、関心をお持ちですか?」


 表情を変えない黒田原から、ストレートに尋ねられた。

 こういう質問は、何回されても慣れない。


「そりゃあ……お前の身体なら、大抵の男は関心を持つだろ」

「……そうですか」

「言っておくが、身体にしか興味がないわけじゃないからな? 俺なんかに好きになられても、お前は嬉しくないだろうが……」

「嬉しいです」


 はっきりと言われて驚いた。

 こいつは、俺に好意を寄せられても、間違いなく嫌がると思っていたからだ。


「そうなのか?」

「はい。私の場合、純粋に、私だけに関心を持っていただける機会は少ないので」

「……どういう意味だ?」

「私と親しくなったら、アリス様や天音さんと親しくなる機会が増えます。そちらが目的である場合が少なくありません」

「それは失礼だな……」

「仕方のないことです。私の魔力は、それほど多いわけではありませんから」

「魔力はともかく、お前なら、北上や早見と比べても見劣りしないはずだ。他の女を目当てにした男が寄ってくるようなレベルじゃない」

「黒崎さんがそう思われるのは……私の胸が大きいからですか?」

「まさか。胸以外の部分だって、お前は最高のレベルだ」

「……そうですか」


 黒田原は、少し意外そうな顔をした。

 だが、俺はお世辞を言ったわけではない。


 黒田原の容姿は、早見を上回りかねないレベルで完成されている。

 大人っぽい雰囲気であることと、長身であることに抵抗がなければ、早見と比較したとしても、こいつを選んだって不思議ではないはずだ。


「褒めていただけるのは嬉しいのですが、私は男性と恋愛する気はありません」

「そういうつもりで褒めたんじゃない」

「分かっております。口説かれていると思っているわけではありません。ただ……私は、女性にしか恋愛感情を抱けないのです」

「……」


 こいつ……いきなり、何を言い出すんだ?

 俺とこいつは、そんな重大なことを相談される関係じゃないんだが……。


「天音さんも、麻理恵さんも、梢さんも……皆様、とても美しい方々です。幼い頃より、心惹かれておりました。ですが……やはり、アリス様は誰よりも美しいと思います」

「……話が逸れて悪いんだが、お前と宝積寺って仲が悪いのか?」


 名前が挙がらなかったのが気になって、以前から気になっていたことを俺は尋ねた。

 黒田原は、首を振ってから言った。


「それは違います。ですが、玲奈さんはいい加減なところのある方なので、恋愛感情は抱けませんでした」

「……」

「……玲奈さんがそういう方だと、ご存知だったのですか?」

「まあな」


 黒田原は、再び意外そうな顔をした。

 俺が、宝積寺の普段の様子を見て、勘違いしていると考えていたらしい。


「私は、幼い頃から、玲奈さんに隙がある時には、それを指摘してまいりました。脚を広げて座っているとか、袖が汚れているとか……。どちらかといえば、妹に近い存在だと感じております」

「そうか」


 宝積寺が、黒田原の前で、頭が上がらないような態度だったことを思い出す。

 あれは、こいつと宝積寺の関係を反映していたのだろう。


「お前は、きちんとした女が好きなんだな?」

「はい。アリス様は、指先にも毛先にも、常に神経を遣っていらっしゃいます。ですから、私もアリス様と同じように、隙のない、完成された女性を目指しております」

「……そうか。だから、お前は綺麗に見えるんだな」

「ありがとうございます」


 黒田原は、少し嬉しそうな顔をして言った。

 あまり表情を変えない女の、珍しい顔にドキリとした。


「アリス様も、私の容姿を気に入ってくださいました。そのことが嬉しくて、私は、常にアリス様に恥ずかしくない人間であろうと努力しました。実際には、アリス様の近くには、他の女性がいることの方が多かったのですが……」

「そうなのか? 早見は、お前のことを気に入ってるように見えたぞ?」

「ですが、私の家系や魔力量では、アリス様の隣にいるのは、おこがましいですから」

「そんなもん、気にする方がおかしいだろ。それに、家系なら、宝積寺だって同じようなもんじゃないのか?」

「それは違います。玲奈さんの家系は特殊ですが、格が低いわけではありません。それに……あの方は、春華さんの妹です」

「……」

「春華さんは、とても素敵な方でした。私も、あの時までは、心の底から尊敬しておりました」

「……あの時?」

「アリス様が、イレギュラーに対応するために戦っていると聞いた時です」

「……」

「私の愛している方が、危険な戦いに身を投じている……その事実が生み出す不安で、私の頭はおかしくなってしまいそうでした。私は、アリス様にお願いしました。戦いは他の方々に任せて、ご自分の安全を第一に考えていただきたい、と……」

「断られたんだろ?」

「……仰るとおりです。そもそも、アリス様が戦いに参加したのは、春華さんに誘われたからではありませんでした。利亜さんが1人で戦い始めてから、すぐに戦いに加わっていらっしゃったのです」

「そうか……」


 自分が気に入っている相手のためなら、躊躇なく動くのは早見らしいと思った。

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