表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

250/290

第249話 早見アリス-30

「そういえば、今さらで悪いんだが……婚約した女が、そんな格好で男と遊ぶのはまずいだろ……」


 俺は、早見の身体を見ながら言った。


「本当に今さらですわね。ですが、私は、好きな格好をするだけです。束縛する男性と結婚する気はありませんわ」

「……」


 それは……どうなんだろうか?


 早見が肌を露出していても、性的な被害に遭うリスクは低いのかもしれない。

 だが……好きになった女が、自分以外の男の前で、こんな格好をしていたら……俺なら耐えられないだろう。


 こういう感情は、女を束縛していることになるのだろうか?


「夫婦の形は人それぞれです。黒崎さんが、後ろめたい気持ちになる必要はありません。私といたしましては、晴人様に、私に対する独占欲が芽生えたら嬉しいことだと思いますが」

「……そうなったら、俺の前で水着姿にならないのか?」

「遊ぶ時は、そうですわね。ですが、訓練はやめませんわ。私にとっても、魔力放出過多の人間を訓練して戦えるようにするなんて、二度とないことだと思いますもの。とても興味深いことですわ」

「……俺は実験動物かよ?」

「そうは思っておりませんが、新たな経験をすることには関心があります。ですから、私といたしましても、黒崎さんに訓練を続けていただきたいのです。そうでなければ、汗と砂にまみれた男性に、膝枕なんてしませんわ。脚が汚れるのは嫌でしたもの」

「……ひょっとして、膝枕の時に俺を突き飛ばしたのは、宝積寺についての発言に怒ったからじゃなかったのか?」

「両方が理由に決まっております。それで、どういたしますか? 決断するなら、この場が最後の機会です。断って、吹雪様に訴えるのであれば、ご自由になさってください。その場合、私が厳しく処罰されて、黒崎さんの溜飲は下がるかもしれませんが……私の肌は見納めになりますわよ?」

「……」


 早見の、俺の扱いには不満がある。

 訓練だって、大河原先生か桃花あたりに手伝ってもらえば、できるかもしれない。


 だが、断れば、早見との縁が切れてしまう。

 それは、本当にもったいないことだ。


 早見の表情からは、自信のようなものが感じられる。

 自分の提案を、俺が拒絶するはずがない。そう思っているようだ。


 俺は結論を出した。


「……分かった。俺との訓練を続けてくれ」

「ありがとうございます」


 早見は、両手で俺の手を取って、そう言った。

 俺は、顔を逸らしてから早見に告げた。


「ただし、1つだけ条件がある。それを受け入れてくれないんだったら、今回の話はナシだ。俺は、お前を生徒会長に訴える」

「まあ! 私を脅すのですか?」

「お前は、生徒会長の罰を受けたらプライドが傷付くって言ったな? だが、お前のせいで、俺のプライドは、とっくにズタズタになったんだ。簡単に許せないのは当然だろ?」

「……」


 早見は手を引っ込めた。

 それから、表情を消した顔で、こちらを見つめた。


「私に、どのような条件を呑ませるおつもりですか?」

「俺が、訓練で、お前のことを倒したら……俺が、お前の尻を叩いて罰する。お前は、文句を言わずに、それを受け入れろ」

「……」

「本当は、尻を丸出しにして叩く、と言いたいところだが……それは、さすがに可哀想だからな。制服でも私服でも、ショーツは履いたままでいい」

「つまり、私のスカートを捲って、気が済むまで叩くということですか? 私に、そのような、屈辱的な罰を受けろと仰るのですね?」


 早見は、笑顔を浮かべながら言った。

 だが、目は笑っていない。間違いなく激怒している。


「……そうだ」

「人妻のお尻を露わにして叩くなんて、黒崎さんは疑いようのないほどの変態ですわね」

「お前がやったことを考えたら、それで済ますのは慈悲深いだろ」

「私に罰を与えるために、黒崎さんが自らお尻を叩くというのは、全く理解できないわけではありません。ですが、スカートは捲らなくても良いのではないでしょうか?」

「エロい格好をさせるところまで含めて罰だ」

「そんなに、私の下着を見たいのですか?」

「お前なら、どうせ見せパンでも用意するだろ? 水着と大差ないはずだ」

「下着と水着は全く違う物だ、と仰っていたではありませんか」

「……まあ、最近は、花乃舞の連中のせいで、女の下着姿も見慣れてきてるからな……」

「嘘ですわね」

「……」

「黒崎さんが破廉恥な行為に及んだら、玲奈さんに絶交されるかもしれませんわよ?」

「当然、口外するのは禁止だ。二人だけの秘密にすれば、お前が尻を叩かれた事実が知れ渡ることはない。お前にとっても都合がいいはずだ。生徒会長に叩かれて、この町の全員に知られるのと比べて、どっちがマシかはお前が決めろ」

「そのような条件を付けて訓練するのであれば、私も本気にならざるを得ません。黒崎さんが事故死してしまうかもしれませんわね」

「おい! 俺は、美樹さんの弟なんだぞ!?」

「もちろん、充分に注意いたします。ですが、どれほど注意しても、事故は起こってしまうものですわ」

「……」


 何とも言えない、ピリピリとした空気が流れた。


 しかし、俺は妥協しなかった。

 本当なら、この程度の仕返しで済ませるなんて、納得できない気分だったからだ。


 やがて、早見はため息を吐いてから言った。


「……分かりました。私の条件を受け入れていただけるのであれば、黒崎さんに私のお尻を差し出す結果になっても構いません」

「条件?」

「天音さんを叩かないことです」

「……」

「天音さんは、黒崎さんに催眠術をかけたことを、とても悔いています。黒崎さんが百叩きにすると言っても、受け入れてしまう程度には……。ですが、愛している男性に叩かれるなんて可哀想でしょう? 天音さんを叩かないのであれば、訓練の時に、黒崎さんを壁や天井に叩き付けないように、細心の注意を払うことをお約束いたします」

「確かに、北上を叩くのは可哀想だよな……」

「あら。私を叩くのは平気なのですか?」

「そんなの、状況によるだろ」

「……」


 早見は不満そうだ。

 だが、催眠術をかけるように命じたのは、神無月先輩と早見なのである。

 神無月先輩の責任を追及できないのであれば、責任を取るべきなのはこいつだろう。


「私は、か弱い乙女です。叩かれて、平気なわけがありません。とても繊細で、打たれ弱いのですわよ?」

「そうなのかもしれないな」

「……真剣に受け止めてください。無防備な姿で男性に叩かれて、怖くない女性がいると思いますか?」

「……」


 いつも強気で、自信に満ちている早見が、珍しく不安そうな顔をしている。


 演技ではないかと思うが、本当に怖がっている可能性もある。

 こいつには、男に叩かれた経験なんて無いだろう。


「そうだな……。さすがに、尻を出してもらったら、手加減してやりたくなるかもしれないな……」

「……お優しいことに感謝いたしますわ」

「まだ、手加減するって約束したわけじゃないからな? 北上との話し合いの結果によっては、お前に責任を取ってもらうぞ?」

「……」

「これ以上の泣き落としは逆効果だ。まあ……訓練を続けて、思い出が増えていったら、怒りが収まっていくかもな」

「……分かりました。私の話はこれで終わりです。訓練が終わる前に、黒崎さんの気が変わることを期待しておりますわ」


 そう言って、早見は部屋から出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ