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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第243話 片岡深月-1

 以前もそうであったように、早見は朝早くにやってきた。

 その隣には、見慣れない金髪の女子がいる。


 早見と一緒に来たのが、北上ではなかったことは意外だった。


「おはようございます、早見先輩。片岡かたおか先輩もいらっしゃったんですね」


 挨拶をした桃花と松島は、早見の隣の女を知っているようだった。


「おはようございます。黒崎さん、こちらは片岡深月(みつき)さんですわ」

「お久し振りですね、黒崎さん」

「……お前とは、初対面じゃなかったのか?」

「そのように仰ると思いましたわ」


 早見は、呆れた様子でため息を吐いた。


「覚えていなくても仕方ありません。私と黒崎さんが会ったのは、愛様に会っていただいた時と、玲奈さんのお宅の前で待っていた時だけですから」

「……そうか」


 言われてみれば、どちらの時にも、見知らぬ金髪の女子がいたような気がする。

 神無月先輩と会った時に、その金髪の女子は、赤いネクタイを着けていたような……?


「お前……ひょっとして、俺達と同じ学年か?」

「そうです。それだけでも覚えていただいていたのであれば充分です」

「黒崎さんは、玲奈さんの交友関係に、もっと興味を持った方がよろしいのではないかと思いますわ」

「そんなことを言われてもな……」


 こいつらにとっては幼い頃からの付き合いでも、俺にとっては大半が見ず知らずの相手だ。

 容姿や言動が目立つ連中は記憶に残るが、片岡のように、金髪以外の特徴がないと難しいのである。

 この町では金髪が珍しくないので、他の特徴もないと覚えにくい。


「お兄ちゃん。片岡先輩は、宝積寺先輩にとっては、数少ない友達なんだよ? それぐらいは覚えてあげないと駄目だよ」

「数少ないって、お前……」

「宝積寺先輩が神無月でも嫌われてるって、お兄ちゃんも知ってるでしょ?」

「それはそうだが……」

「友達は、多ければ良いというものではありません。玲奈さんの素晴らしさは、分かる人には分かります」


 片岡は、かなり意外なことを言った。

 宝積寺を肯定的に評価している人物が、こんなところにいたとは……。


「片岡、お前……宝積寺に対して悪い感情を持ってなかったのか? その割には、俺が神無月先輩と会った時に、敵意を向けられてるように感じたんだが……?」

「敵意ならありました」

「!?」

「神無月の隙を突くようなタイミングで、玲奈さんを奪い取るなど、許されることではありません。黒崎さんのことは、御倉沢が神無月を滅ぼすために放った刺客なのかと思っていました」

「お前なあ……! 俺をこの町に呼んだのは神無月先輩なんだぞ? どうして、御倉沢の刺客になるんだよ!?」

「私は、愛様のミスについて知りませんでした。それに、黒崎さんは、玲奈さんのことを大切にしていないように見えましたので。玲奈さんの力か、身体にしか興味がないのかと思いました」

「……一応、俺なりに、大切にしようとしてたんだが……」

「そうでしょうか? 鈴さんや水守さんと、あれほど親しくしていたのが、御倉沢から強制されたためだとは思えませんでしたが? それに、今度は大河原先生……桜子さんとの交際も決まったそうですね?」

「いや、それは……」

「今も、貴方からは、知らない女性の体臭がしています」

「……!?」


 思わず、自分の身体を嗅いでしまった。

 そのタイミングで、早見が近寄ってくる。


「なるほど。この匂いは、この実さんですわね」

「お前……この実さんとは、ほとんど接点がないって聞いたぞ?」

「あら。美樹さんのお屋敷を何度も訪問すれば、すぐに覚えることですわ」

「……」

「片岡先輩。兄は、美樹さんの弟になったことで、女性から狙われかねない立場になったんです。安全な女性と一緒にいるのは仕方のないことです」


 桃花は俺を庇ってくれた。

 まあ……俺が女性と一緒にいることを求めたのは桃花なのだが……。


「意外でした。美樹さんが、イレギュラーの時に、共に戦ったメンバーを義妹にするのではなく、黒崎さんを義弟にするとは……」

「美樹さんなりに、様々なことに配慮した結果だと思います」

「そうですわね。黒崎さんを義弟にすれば、桜子さんと玲奈さんが義妹同然の存在となるわけですから、美樹さんといえど捨てがたい存在であるはずですわ」

「……」


 俺は、いつも、女のおまけとして扱われている気がする……。

 もう少し、俺自身の価値を考えてくれてもいいのではないだろうか?


「黒崎先輩が素晴らしい男性だと、美樹さんは認めていらっしゃると思います」


 俺の気持ちを察したのか、松島だけはそう言ってくれた。

 そんな松島の頭を、早見は愛おしそうに撫でた。



 俺達は、大きな施設に辿り着いた。

 ここが花乃舞のプールらしい。


「そういえば、ここには、花乃舞の人間も来てるんだよな? 一体誰なんだ?」

「ご安心ください。花乃舞の皆様は、美樹さんの弟とは親しくなりたいはずですわ」

「いや、そういうことじゃなくてだな……」

「早く参りましょう」


 一方的に話して、早見は先に行ってしまう。

 仕方なく、俺達は付いて行った。



 俺達は、1つの部屋の前に来た。

 どうやら、更衣室のようだが……部屋が2つないのはどうしてだ?


「では、先に私達が着替えます。黒崎さんは、こちらでお待ちください」

「……ちょっと待て。男子更衣室はどこだ?」

「あら。黒崎さんは、もう花乃舞の文化を理解していらっしゃると思いましたわ」

「……!」


 まさか……花乃舞のプールの更衣室は、男女一緒なのか!?


 そういえば、花乃舞で、風呂が男女で分かれているのは、美樹さんの屋敷だけらしい。

 つまり、男女が同じ部屋で裸になるのは、花乃舞にとって普通のことなのだ。


 ただ、早見や片岡は神無月の人間なので、俺の前で着替えたりしないのだろう。


「私は、黒崎さんと一緒にいます。本日は、プールに入る予定がありませんので」


 片岡はそう言った。


「あら、そうなのですか? せっかくですから、深月さんとも一緒に遊びたかったのですが……」

「申し訳ありません。ですが、気が進まないものですから」

「……そうですか。残念ですわね」

「だったら、私も残ります。お兄ちゃんを守るのは、私の務めですから」


 桃花は、警戒心を露わにして言った。

 さすがに、この態度はまずいのではないかと思う。


「あら。深月さんは、黒崎さんを襲ったりしませんわよ?」

「そうかもしれませんが、花乃舞の立場では、片岡先輩を完全に信用することはできません」

「当然だと思います。アリス様と松島さんは、先に着替えてください」


 幸いなことに、片岡には気を悪くした様子はなかった。

 促されて、早見と松島は更衣室に入った。

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