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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第241話 槻木この実-3

 少し悩んだが、俺は結論を出した。


「……分かった。俺は桃花と一緒に風呂に入るから、松島は女湯に行け」

「へえ。ちょっと意外。それって、私だけだと気楽だから?」

「あくまでも、花乃舞の混浴文化に慣れるためだ。そのためには、花乃舞の人間であるお前に協力してもらった方がいい。言っておくが、それ以上の、積極的な行為をするつもりはない。いきなり俺の局部に触ったりしたら、生徒会長に痴漢で訴えるからな?」

「大丈夫だよ。お兄ちゃんに頼まれるまで、そういうことをするつもりはないから。松島さんは、お兄ちゃんのことは忘れて、お風呂でゆっくりしてね」

「分かりました。私も、早く花乃舞の文化に慣れるために努力しようと思います」

「……お前は今のままでいてくれ」


 こいつ……やっぱり、ちょっとずれてるよな……。



 俺達が風呂に行くと、入り口の前で、2人の女性が言い争いをしていた。


「茜さん、この実さん……どうしたんですか?」


 桃花が尋ねると、茜さんは、桃花に迫りながら言った。


「ねえ、桃花ちゃんからも説得してよ! 和己君は、この実ちゃんとの関係を続ける義務があると思わない?」

「……そういうことですか」

「あの、私……和己君と、お付き合いをする約束なんてしてません……」


 この実さんは、泣きそうな顔をしている。

 茜さんの勢いに押されて、どうしていいか分からない様子である。


「他の家の子と遊ぶからって、この実ちゃんは終わりだなんて、納得できないわよ!」

「……茜ちゃんは誤解してます。神無月の子と遊ぶのは、和己君の自由だと思います。強要したら和己君に悪いです……」

「和己君は、もう花乃舞の人間なんだから、ちゃんと……」

「二人とも、落ち着いてください。お兄ちゃん、ちょっと来て」


 俺は、桃花に引っ張られて、二人から離れた場所に移動した。


「予定変更だね。私じゃなくて、この実さんとお風呂に入って」

「……だが、この実さんは望んでないって言ってるぞ?」

「むしろ、お兄ちゃんから頼むべきなんじゃないの? この実さんのこと、気に入ったんでしょ?」

「……」

「この実さんは花乃舞の人だから、混浴には抵抗がないから安心して」

「昨日は、裸を見られるのを嫌がってたんだが……」

「この実さんの場合、裸を見られるのが嫌なのは、相手が女の人でも一緒だよ」

「それって、結局、俺に見られるのも嫌なんじゃねえか」

「おっぱいを褒めればいいと思うけど」

「そういう問題か!?」

「そういう問題なの。この実さんって、背の低さと胸の大きさで、結構コンプレックスが強いから。承認欲求が強めで、他人から舐められるのが嫌いなところがあるけど、褒められたら嬉しいのは普通のことでしょ? それに、お兄ちゃんって自信のない女の子が好きだから丁度いいと思うの」

「お前なあ……」

「それに、この実さんだったら、今夜の添い寝もお願いできるでしょ?」

「添い寝って……」

「気付いてなかったの? お風呂で襲われることだけじゃなくて、夜這いを防ぐことも必要なんだよ? 誰もいなかったら、私がするつもりだったんだけど」

「……」


 そういえば、風呂を乗り切っても、夜に襲われるリスクはあるのか……。

 こいつ……そんなことまで考えてたんだな……。


「……分かった。一応、俺の方から頼んでみるが、この実さんの意思を尊重するからな?」

「それは当然だよ」


 俺達は、待たせたメンバーの所に戻った。


「とにかく、この実さんと二人だけで話をさせてください」

「……分かったわ」


 茜さんは頷いたが、俺のことを疑うような目をしていた。



「この実さんの本心を聞かせてください」


 俺は、二人で離れた場所に行ってから、この実さんに尋ねた。


「わ、私は……」

「昨日のあれは、お互いに納得して、遊ぶだけだと思ったんですけど……」

「私も同じです! でも、茜ちゃんが、和己君と子供を作れって……」

「……作りたいんですか?」

「そんなこと、今は考えられません……。この屋敷に来た時には、男の人とは、一生縁がないって覚悟しましたから……」

「……」


 そういえば、この屋敷に来るのは、出家のようなものだと言われていたな……。

 女性しかいなかったこともあって、本来であれば、男女の遊びなんて発生する場所ではないのだろう。


「一つだけ、どうしても信じてほしいことがあって……私が男湯に行ったのは、決してわざとじゃありません。芽里瑠さんから、和己君はかなり前にお風呂に入って行ったから、もう出てるはずだって言われて……」

「……脱衣所で、俺が脱いだ服に気付かなかったんですか?」

「気付きませんでした。誰かが来る前に、入浴を済ませようと思っていたので……。男湯を時々使うのは、私だけじゃないんです」

「……」


 芽里瑠さんって……ひょっとして、この実さんをわざと男湯に行かせたのか?

 非常識だし、犯罪になりかねない行為だと思うが、花乃舞ならあり得ることなのかもしれない。


「あの……私のことは、時々遊ぶ同居人だと思っていただければ、充分ですから……」

「いえ。この実さんが嫌じゃなかったら、ぜひお願いしたいことがあるんですけど」

「……何ですか?」

「できれば、今回の合併騒動が終わるまで、俺の近くにいてくれませんか?」

「それって……私が、和己君を守るってことですか? 私、この屋敷にいるメンバーで、魔力が一番少ないんですけど……」

「それは問題ないです。守ってほしいのは、外敵の襲撃からじゃなくて、俺の身体を狙ってる女からなんで」

「……」

「桃花から、花乃舞は、男を横取りしない文化だって聞いたんですけど……合ってますか?」

「……はい。でも、どうして私なんですか? 他の人に頼んでも、私は怒りませんけど……?」

「この屋敷で信用できる人が少ないからです。この実さんは、俺に身体の関係を無理強いしたりしませんよね?」

「……しませんけど……」

「だったら、一緒に風呂に入ってください」

「……分かりました」

「それと、これは、さすがに嫌だと思うんですけど……」

「何ですか?」

「……できれば、俺と添い寝してほしいです」

「……」


 この実さんは、真っ赤になって俯いた。


「もちろん、目的は、俺を夜這いから守ってもらうことです。でも……何もしないって約束できませんから、それが嫌なら断ってもらっても構いません」

「……子供を作っても良かったら、という意味で合っていますか?」

「そう思ってください」

「……すぐに答えを出せないです。外や他の家の文化はよく分かりませんけど、花乃舞では、男女が遊ぶことと、子作りすることは全く違う行為なんです。ですから……お風呂に入ってから決めてもいいですか?」

「分かりました」


 話し合いの結果、俺とこの実さんは混浴することになった。

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