表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

241/289

第240話 大河原桃花-17

「残念ながら、私は参加できません。明日は、他の用がありますので」


 雅は、表情を変えずに申し出た。


「あら。では、またの機会にしましょうね?」

「よろしくお願いいたします」


 そう言って、雅は頭を下げた。

 他の用があるという言葉が本当なのか、俺達の事情を知っているので遠慮したのかは分からなかった。


「あの……私がご一緒してもよろしいのでしょうか? せっかくのデートなのに、お邪魔ではありませんか?」


 松島は、本心から心配している様子で言った。


「ぜひ、いらっしゃってください。渚ちゃんは御倉沢の方ですから、バランスが良くなるでしょう?」

「……そうですか?」

「それに、黒崎さんは、渚ちゃんの水着姿をご覧になったら喜ぶと思います」

「おい! 変なことを言うな!」

「あら? 喜ばないのですか?」

「……お前は、肯定しても否定しても非難される質問をするのをやめろ」


 北上の時もそうだった。

 喜んでも喜ばなくても、本人か、周囲からの印象が悪くなるような質問は、する方がおかしいだろう。


「あの……ご期待に沿えるかは分かりませんが、黒崎先輩がお望みでしたら……」

「……まあ、桃花だけよりは、お前もいた方がいいだろ」

「では、私も参加いたします。黒崎先輩を守るために、できるだけのことをいたしますので」

「頼もしいですわ」

「……」


 松島の戦力的な価値はともかく、信用できる女が近くにいると安心できる。

 正直に言えば、こいつの身体を近くで見られたら、嬉しいことは確かだが……。


「では、話がまとまったところで、夕食にいたしましょう。アリスさんも、ぜひ召し上がってください」

「ありがとうございます」


 こうして、早見は花乃舞のメンバーと共に食事をした。

 その間、メンバーの多くは迷惑そうな顔をしていたが、早見が気にしている様子はなかった。



 食べ終えて、早見は楽しそうな様子で帰って行った。

 だが、その前に、桃花と何かを話していた。


「あいつ、お前に何を言ったんだ?」


 俺が尋ねると、桃花はため息を吐いた。


「早見先輩はお兄ちゃんの味方で、責任はなるべく取るつもりだから、北上先輩を責めないでほしいって」

「……そうか」

「ひょっとして、信用してるの? 私、今回のことについては、早見先輩は信用できないと思うんだけど」

「……そうだな」

「ご心配には及びませんよ」


 いつの間にか近くに来ていた美樹さんが、俺達の会話に口を挟んできた。

 桃花も察知できなかったらしく、ビックリした顔をしている。


「アリスさんは、決して他人から幻滅されるような言動はなさらない方です。今回のことにつきましても、責任を取ろうとなさっているのは確かです」

「そうなんですね!」


 桃花は、美樹さんの言葉を疑っていない様子だ。

 そのせいで、俺はかえって不安になった。


「そうなんですか?」

「はい。アリスさんが原因となって、今回のような事態を招いたのですから、さらに傷を広げるようなことは決してなさらないはずです」

「……」


 アテにしてはいけないと思うのだが、美樹さんには予知能力がある。

 少なくとも、俺が取り返しのつかないような状況に陥るリスクはないはずだ。


 それに、早見には美学のようなものがある、という話は事実のように感じる。

 とりあえず、安心しておくべきだろう。



 その後、俺と桃花と松島は、自分の部屋に戻って風呂に行く準備をした。


「お兄ちゃん。私と松島さんの、どっちとお風呂に入りたいの?」

「どうして選ぶ必要があるんだよ!?」

「そっか。じゃあ、3人で入るんだね?」

「入るわけないだろ! お前……やっぱり、宝積寺に頼まれたことを無視するつもりだったんだな!?」

「違うよ! お兄ちゃんって、やっぱり、女のことを舐めてるでしょ!?」


 桃花は憤っているようだ。

 松島は、桃花を宥めながら言った。


「あの、黒崎先輩……。花乃舞の方々は、早見先輩がいらっしゃって、少々気が立っているご様子でした。話の流れで、私達だけでデートに行くことになりましたが、納得していない方もいらっしゃるのではないかと思うのですが……」

「早見先輩に取られるなら、その前に自分のモノにしようと思う人がいても、おかしくないんだよ? 私達がいなかったら、誰かに襲われて、無理強いされるかもしれないでしょ? それでもいいの?」

「……」


 松島から見ても、花乃舞の女性達は苛立っていたのか……。


 あの人達について、貞操観念のようなものは期待できない。

 欲望は抑えるべきだという価値観は乏しいように思えるし、少なくとも1人は強姦魔かもしれないのである。


 それならば、こいつらと一緒にいた方が、まだ身の安全を守れるということだ。


 だが……こいつらと混浴して、正気を保てる男なんているのか?

 そんな俺の疑問に答えるように、桃花は言った。


「私、お兄ちゃんを守るためだったら、できることは何でもするから。必要なら、私が落ち着かせてあげる」

「いや、それはさすがに……」

「言っておくけど、既成事実が欲しいとか、そういうことじゃないよ? 私は、お姉ちゃんにも美樹さんにも恥ずかしくない、優秀な妹でいたいの。恩を着せたりしないって約束するから」

「あの……私も協力します。男の人なら、自然なことですから」

「……」


 あまり、物分かりがいいのも困ったものだ。

 こういう時、素直に甘えるべきなのか、いまだに答えが分からない。


「だったら、1人が男湯の前で見張って、1人が露天風呂で見張ればいいんじゃねえか?」


 我ながら名案だと思った。

 だが、桃花は首を振った。


「駄目だよ。松島さんの立場が悪くなるから」

「……どういうことだ?」

「松島さんは、今のところ、皆から好意的に迎えられてるんだけど、邪魔したら何をされるか分からないでしょ?」

「そんな、まさか……」

「早見先輩は、それぐらい、葵さんたちを怒らせたってこと。さすがに、その場で殴られることはないと思うけど……嫌われたら可哀想だよ」

「桃花ちゃん、黒崎先輩……私は大丈夫ですから」

「駄目。松島さんはいい子だから。お兄ちゃんだって、松島さんにリスクを背負わせるなんて、できないでしょ?」

「……ていうか、そんなことを言い出したら、俺と松島が混浴したって意味ないだろ?」

「お兄ちゃん……。この屋敷の人達だって、お兄ちゃんと誰かが混浴してたら、さすがに横取りしたりしないよ? 昨夜だって、私を押し退けたりしなかったでしょ?」

「それは、相手がお前だったからじゃないのか?」

「違うよ。花乃舞にだって、守るべきルールくらいあるんだから」

「……」


 よく分からないルールだ。

 無法地帯なりに秩序を維持するための、紳士協定みたいなものなのだろうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ