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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第232話 大河原桜子-25

 生徒会長から質問されて、大河原先生は困った顔をした。


「それは……長時間、近くにいて、愛着が湧いたからです」

「なるほど。そういうこともあるでしょう。ですが、和己は、貴方の好みの男性ではありませんよね?」

「……」


 先生は黙り込んでしまった。


 そういえば……十条先輩が、同じようなことを言っていたような……?

 あの時から、気になっていたのだが……。


「聞いたことがあります。先生は、小柄で中性的で、女の子に見えるような少年が好みなのでしょう?」

「……楓からお聞きになったのですか?」

「どうでしょうね」


 そういえば、生徒会長と多賀城先輩は同じ学年だったはずだ。


 この人達でも、男の好みとか、そんな話をする時があるのか……?

 女同士であれば、そういうこともあるのかもしれない。


 生徒会長が、当主になる前に聞いたのかもしれないが……。


「先生の好みとはかけ離れた男である和己を、どうして選んだのですか? とても興味があります」

「それは……」

「この際ですから、正直に言ってください。本音を聞いておかなければ、許可するべきかを判断できません」

「……それは、黒崎君が、どうしようもない駄目人間だからです」

「!?」


 先生の口から吐き出された、あまりにも衝撃的な言葉に、俺は驚愕した。


「やっぱり。そう言うと思った」


 桃花は、そんな言葉を呟いた。

 こいつは、自分の姉が、俺のことを気に入った理由が分かっていたようだ。


 宝積寺は、驚いた様子で先生を見つめた。

 だが、それは、「事実だと思えないこと」を言われた顔ではなかった。

 心当たりのあることについて、「それだったの?」といったニュアンスの表情をしている。


 美樹さんは困っている様子だった。

 この人は、この話の展開について、予知していなかったようだ。


 先生は、気まずそうな顔をしながら、俺に頭を下げた。


「ごめんね、黒崎君。吹雪様に、嘘を吐くわけにはいかないから……」

「……」


 こんなことってあるのか?

 俺は、たった今、自分に対して好意を持っており、その前提で身体の関係になったはずの女から、信じられないほどの侮辱を受けたのだが……?


「とても興味深いですね。貴方は、和己が駄目人間だから好きになったのですか?」

「はい。黒崎君は、勉強はできないし、運動もできないし、魔力量も大したことはないし、身長は少し高いけど、顔立ちは平均程度です。しかも、すぐに女の胸を見たり、エッチなことを期待したりするんです。おっぱいやお尻が好きなのはともかく、変態的なプレイにも興味があるみたいですから、時々気持ち悪くなります。それに、女を支配したがる性質があって、人格に問題があるとしか考えられません。何よりも……」


 先生は、ため息を吐いてから続けた。


「最悪なことに、男は優れていて、女は下等生物だと根拠なく思っています。客観的に見て、ここまでろくでもない、クズみたいな男はなかなかいません」

「なるほど。それなのに、好きになってしまったのですか?」

「……最初は、こんなに気持ち悪い男はいないと思っていました。いつか、私がこの手で去勢してやろうと思っていたほどです。ですが……黒崎君と、ずっと教室にいるうちに、気付いてしまったんです。この子の本当の姿を理解しているのは、きっと私とアリスだけなのだ……と」

「そうでしょうか? そこにいる宝積寺玲奈は、貴方よりも、和己のことを理解しているのではありませんか?」

「それは違います。玲奈ちゃんの前では、黒崎君は本性を隠しているからです。玲奈ちゃんはエッチなことを許容しません。だから、玲奈ちゃんは、黒崎君に人並みの性欲や下心があることは理解していても、本当の気持ち悪さを知らないんです」

「……」


 宝積寺は、一瞬だけ、嫌悪感の籠もった目で俺を見た。

 それは、俺よりも、こいつが嫌っている先生の方を信用したことを意味していた。


「御倉沢の人間も含めて、他の女の子達は、玲奈ちゃんを射止めた黒崎君を過大評価してしまっています。そして、アリスは、思わせぶりな言動をして黒崎君を勘違いさせることはあっても、決して本当の意味での味方にはなりません。ですから、黒崎君の全てを理解して受け入れることのできる私が、一生隣にいてあげるべきだと思いました」

「それでは、まるで自己犠牲ですね。そのような関係が長く続くとは思えません。自分に酔っているのではありませんか?」

「違います。私、気付いてしまったんです。私が求めていた理想の年下の男の子……それは、本当は黒崎君のような男の子だったことに……」

「理想? そんな男が……ですか?」

「はい。外では『ヒモ』と呼ばれているような存在が、私の理想だったんです。黒崎君のような、どうしようもない男を、母親のように優しく受け止めて癒やしてあげることは、きっと私の生き甲斐になるでしょう」

「……なるほど。つまり、駄目な男を養ってみたい、という願望が貴方にあったのですね?」

「はい」


 生徒会長は、珍しいものを見るような表情を浮かべた。

 こんな性癖のある女性から話を聞いたのは、初めてだったのだろう。


 桃花は、全て分かっていた様子で、何度も頷いている。


 美樹さんは、気の毒そうに俺を見た。

 それから、青ざめた顔で俯いている宝積寺を、心配そうな顔で見た。


「私には、先生のような願望はないので、完全に理解できるわけではありませんが……そういうことであれば、和己と先生の結婚に反対する理由はありません。良かったですね、和己」

「良くありません! 良くありませんよ……!」

「そうですか? 先生の貴方に対する評価は、不当なものではありません。貴方のことを、ここまで理解して、それでも受け入れてくれる女性がいることは、とても幸せだと思いますよ?」

「……」


 美樹さんは、見かねた様子で口を開いた。


「吹雪様も桜子さんも、和己さんのことを悪く言い過ぎではありませんか? 和己さんは、女の子が抱えている問題を理解して、寄り添ってあげることのできる方です。なかなかできることではありませんよ?」

「それは、黒崎君に下心があるからです。性的なことを期待していない相手に、黒崎君は優しくしません」

「そのようなことはないと思うのですが……」

「美樹さん。お兄ちゃんは、お姉ちゃんが言ったとおりの人で間違いありませんよ」

「男の子には、多少は、そういうところもあるのではないでしょうか?」

「……」


 宝積寺は、表情を消して、何かを考え込んでいるようだ。

 どうやら、俺の人格を肯定的に評価してくれるのは、美樹さんだけのようだった。

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