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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第228話 槻木この実-2

「お姉様は、お兄様を殺さずに排除することについても強く反対していらっしゃいましたが、花乃舞の人間にとっては想定外でした。今後は、皆様がお兄様のことを、大切に保護するべき対象だと認識するでしょう」

「それは、美樹さんがこの町からいなくなっても変わらないんだよな?」

「当然です」

「だったらいいんだが……」


 花乃舞の仲間意識が強い理由が分かった気がした。

 ここまで躊躇なく敵を排除する連中が、味方まで攻撃するのであれば、疑心暗鬼になって殺し合いになるだろう。

 味方は攻撃対象にならないことを約束しているから、こいつらは結束できるに違いない。


 だが、こういう組織って、逆らった者は容赦なく排除するのが世の常だよな?

 こいつらが書いている本を読み込めば、そういう闇の歴史についても書いてあるんだろうか……?


「お兄ちゃん、まだ話してるの?」


 外に通じている扉の方から声がして、そちらを見ると、引き戸が少し開いていた。

 隙間から、桃花がこちらを睨んでいる。


「兄の風呂を覗くな」

「だって、雅ちゃんが心配だから」

「心配って、お前なあ……」

「安心して、桃花。お兄様は、私を襲ったりしないわ」

「そうかな? お兄ちゃんは男だし、雅ちゃんって顔も肌も綺麗だから、ムラムラして触りたくなることだってあるんじゃない?」

「万が一、そういうことになったとしても、私とお兄様で解決するわ」

「ふーん」

「……」


 解決って……どうやって解決するんだ?

 気になったが、怖くて質問できなかった。


「では、お兄様。長い時間、お邪魔しました」

「いや……」

「失礼いたします」


 雅は外に出て行った。



 そりゃあ、俺にだって自制心はあるし、むやみに触ったりはしないが……目の前に裸の女がいたら、ムラムラするに決まっている。

 中学生の義妹相手にどうかと自分でも思うが、相手の身体は大人の女のものだし、生理現象なのだから責められても困る。

 雅だって気付いていたはずだが、俺のことを一言も責めなかったのは、当然のことだと理解しているからだろう。

 まあ……俺が混浴に慣れていないことを知っていて、自分から入ってきたのだから、責められるのは理不尽なのだが。


 俺は、少し身体を冷ましてから脱衣所に向かった。



 脱衣所に行くと、そこには小柄な女性がいた。


「えっ、和己君……!?」

「この実さん!?」


 目を見開いているこの実さんは、ピンク色のブラジャーを外したところだったが、自分の胸を抱くようにしながら、慌てた様子で後ろを向いた。


「ごめんなさい! まさか、和己君がこんなに長風呂だと思わなくて! 男の人って、お風呂はすぐに出ると思ってたから……!」

「……ていうか、どうして男風呂に来てるんですか?」

「前々から、男風呂を使っていたんです。女風呂には、他の人がいますから……。皆さん、スタイルが良すぎて嫌になっちゃうんです。しかも、桃花ちゃんまで来ちゃったから……」

「胸が大きいのは悪いことじゃないんですから、気にすることはないと思いますけど?」

「私の胸を、奇妙なものを見る時の目で凝視していた和己君が言っても、説得力がないです……」

「……すいません」

「……分かってるんです。身体は小さいのに、こんなに大きいのがいけないんです。私が憧れていた男性は、私のことをとても可愛がってくれていたのに、胸が膨らむにつれて、私のことを避けるようになりましたから……」

「それは、その男が悪いと思いますけど……」

「……その人が、私と疎遠になった後で萌ちゃんに言い寄ったと聞いた時には、いっそのこと消えて無くなりたいと思いました」

「……」


 それは……確かにショックだろう。


 だが、その男は、本物のロリコンだったのではないだろうか?

 客観的には、縁が切れて良かったと言えるだろう。


「この町の男って、勿体ないことをする奴が多いですね……」

「それって、和己君なら、おっぱいを触って満足するからですか?」

「俺は、女を胸だけで判断してるわけじゃないんですけど……」

「だったら、どこを見て判断してるんですか?」

「男って、やっぱり顔が大切なんですよ。他の部分も見ますけど」

「私の顔って、童顔で、そんなに綺麗じゃないでしょう?」

「充分に可愛いと思います」

「可愛い、ですよね……? まだ子供なら、それでいいのかもしれませんけど……」

「男は、女が可愛いと思うから、付き合いたいと思うんですよ。年齢は関係ありません」

「そうなんですか?」

「少なくとも、俺はそうです」

「……でも、やっぱり、大人の女性として扱われたいです。この歳になったら、『綺麗だ』って言われたいです」

「この実さんは、充分に大人だと思います。胸の大きさ以外にも、性的な魅力だってあるじゃないですか」

「……そうですか?」

「とりあえず、その格好は、男にとっては刺激的すぎます」

「えっ⁉ ずっと見てたんですか!? ちょっとは遠慮してください!」

「……すいません」


 しまった、怒らせてしまった……。

 花乃舞では混浴が普通なのだから、ピンク色のショーツしか着けていない女性の後ろ姿を眺めても、非難されずに済むのではないかと期待したのだが……。


「……いえ、いいんです。花乃舞では、混浴なんて当たり前のことですから。和己君だって、今は慣れていないから見たいと思うんでしょうけど、そのうち、見ても普通のことだとしか思わなくなります」


 そう言いながら、この実さんはこちらを向いた。

 だが、胸は、両腕で抱くようにしたままだ。


 やはり、コンプレックスだからなのだろう。


「この実さんの身体って……男が我慢できなくなるような身体ですね……」

「……それって、私を抱きたいってことですか?」

「そりゃあ……そうですけど……」

「……」

「……すいません。責任を取れないのに、こういうことを言うべきじゃないですよね」

「責任って……何の責任ですか?」

「だって、女を抱くってことは……楽しいだけじゃ済まないでしょう?」

「……和己君は真面目ですね。でも、本番でなければ問題ありませんよ。花乃舞では、大人の遊びが推奨されていますから」

「……」


 そういえば、花乃舞には表と裏があるんだった……。

 発散することは、非難されることではないのだ。


「……私でも、いいですか?」

「この実さんなら、願ってもないですよ」

「……」


 この実さんは、意を決した様子で、ショーツを脱いだ。

 そして、胸を隠すのもやめて、こちらに歩み寄ってくる。


「……」

「……」



「……ありがとうございます」


 浴室で、散々盛り上がった後で、この実さんは言った。


「礼を言うのは、俺の方だと思うんですけど……?」

「若い男の子と、こんな風に遊ぶなんて、諦めていましたから」

「……」

「後で、和己君の部屋に行ってもいいですか?」

「それって……つまり……」

「……肩を揉んでくれるんでしょう? それ以上のことは求めません」

「そうでしたね」

「……ムラムラして他のことをしても、怒りませんよ?」

「それは……嬉しいですね」

「……」


 きちんと礼を言ってから、俺は浴室を後にした。

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