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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第214話 館腰美樹-6

「美樹さんって……その、誰のものか分からない声に言われたことを信じて行動してるんですか?」


 俺が尋ねると、美樹さんは頷いた。


「そうです。今まで、あの声に従って行動することによって、多くの危機を回避することができました。和己さんが誘拐された時だけでなく、桃花さんによって、記憶を消されそうになっていた時にも、声が聞こえたので駆け付けたのです」

「あの時にも……!?」


 そういえば……大河原先生は、俺達のところに突然やってきた。

 さらに、皆のところに戻ると、その場には美樹さんがいた。


 つまり……美樹さんが先生に、俺を助けるように言ったということか……?


「だったら、自分で桃花を止めれば良かったんじゃありませんか?」

「私は、皆様の問題の解決には関わらないようにしております」

「……どうしてですか?」

「私がいつ死ぬか、分からないものですから」

「……」

「皆様の問題に私が介入すれば、その場では解決するかもしれません。ですが、そうやって解決しても、私がいなくなったら不満が爆発するかもしれないでしょう? ですから、私がいつ死んでも良いように心がけております」

「……なるほど」

「ついでに申し上げますと、私は歳を取ることが嫌ではないのです。幼い頃には、自分は20歳まで生きられないと思っておりましたので。ですので、年齢を尋ねられても失礼だと思いません。お婆さんになるまで生きられたら、とても幸せだと思います」


 ヘビーな話だ。

 深刻な話を、笑顔でしないでもらいたい……。


 気分を変えるために咳払いしてから、俺は話を続けることにした。


「美樹さんに未来のことが分かるなら、どうして春華さんが倒れた後に、宝積寺をメンバーとして参加させたんですか? そのせいで、宝積寺の本性が知れ渡った上に、あかりさんが大怪我をしたっていうのに……」

「その件につきましては、本当に申し訳なく思っております。玲奈さんやあかりさんだけでなく、春華さんやあきらさん、ショックを受けた愛様や楓さん達……そして、殺されてしまった異世界人の方々と、自ら命を絶った雪乃様。全て私の責任です」

「いや、それは宝積寺の責任だと思いますけど……」

「私の責任です。玲奈さんを参加させたら、あのような結果になることは予測できたことですので」

「……だったら、どうして宝積寺を……?」

「玲奈さんがいないと、桜子さんが命を落とす……と言われたからです」

「大河原先生が……?」


 かなり意外な名前だった。


 先生の話を聞いた限りでは、死人が出るとしても、あかりさんの方がリスクは高かったはずだ。

 あかりさんを助けようとするならば、白石先輩あたりの方がしっくりくる。


 ひょっとして、先生の態度が攻撃的すぎて、異世界人の癇に障ったのだろうか……?


「私には、桜子さんを見捨てる決断などできませんでした。せめて……あの時、私が健康な状態であれば……」

「いや、体調が悪かったのは美樹さんのせいじゃありませんよ」

「ありがとうございます。和己さんはお優しい方ですね」

「そんなことは……」

「……ですが、私の判断のために、多くの方々の人生を狂わせてしまったことは事実です。そのことについては、私が一生背負うしかありません」


 そう言って、美樹さんは沈んだ顔をした。


「今さら言っても、仕方のないことですけど……宝積寺以外の助っ人を連れて行けば良かったんじゃありませんか?」

「それは、犠牲者を増やすリスクがあったので選べませんでした」

「でも、花乃舞には、魔力の多い人がいるはずですよね? 美樹さんが頼めば、協力してくれる人はいたんじゃ……?」

「魔力が多いからといって、全員が戦えるわけではありません。どれだけ多くの魔力があっても、使える魔法の種類が多く、併用と切り替えと出力の調整が上手い方でなければ、実戦の場に連れて行くことはできません」

「そうなんですか?」

「はい。もしも、対象を加熱する魔法しか使えない方が魔法を放ったら、相手を焼き殺してしまうだけでなく、自分や味方にも引火するリスクが高いですから。イレギュラーの時に参加したメンバーは器用な方々でしたから、異世界人と戦っても渡り合うことができました」


 そういえば、宝積寺が異世界人と戦った時、何種類もの魔法を同時に操っていた。

 あの時、宝積寺が炎を放つような魔法しか使えなかったら、俺もあいつも焼死していただろう。


 早見だって、いくつもの魔法を器用に操っていた。

 あいつらが強いのは、様々な能力を備えているからなのかもしれない。


「でも……桃花は、早見に匹敵するほど強いと聞きましたけど……?」

「桃花さんや雅さんは、当時はまだ小学生でした。アリスさんですら幼くて気が進まなかったのに、もっと幼い方々は連れて行けません。3年後には、再び『闇の巣』が開くことが分かっていたのですから尚更です」

「……」


 確かに、いくら非常時でも、小学生を戦わせるべきではない。

 外では当然だが、この町であっても、戦う女は13歳以上だと先生が言っていたはずだ。

 桃花や雅が、先生や美樹さんの妹でなくても参加させなかっただろう。


 ……妹。

 俺は大切な話を思い出した。


「美樹さんは……宝積寺と、血のつながりがあるんですか?」


 ついに……俺は質問した。

 すると、美樹さんは首を振った。


「分かりません」

「分からない……?」


 少し意外な答えだった。

 花乃舞の連中の反応から、明確に肯定される可能性が高いと思っていた。

 ひょっとしたら回答を拒否されるかもしれない、とも思ったが、曖昧な答えをされるとは思っていなかった。


「私は、父親がどなたなのか、存じ上げないものですから」

「……それって、花乃舞にとっても美樹さんにとっても、かなり重要な情報なんじゃありませんか?」

「私の親はお母様だけです。それで良いと思っております」

「……」

「ただ、雅さんと両親が異なることについては間違いありません。私にとっては、雅さんが妹であることが大切なのであって、血縁関係が従姉妹であっても違いはないのですが……」

「いや、血のつながりは重要だと思いますけど……」

「玲奈さんにつきましても、血縁関係の有無にかかわらず、私の妹だと思っております」

「……」

「ただ……玲奈さんの容姿が私に極めて似ている旨のご指摘は、これまでに、百名以上の方々から受けました」

「……そんなに、ですか?」

「はい。和己さんもお名前をご存知の方であれば、春華さん、あかりさん、あきらさん、利亜さん、アリスさん、天音さん、美咲さん、由佳さん、麻由里さん、麻理恵さん、双葉さん、若葉さん、桜子さん、桃花さん、楓さん、梢さん、円さん、そして愛様と雪乃様、吹雪様からは指摘されたことがあります」

「……」


 この人……どうりで、俺のイメージした春華さんに似ているはずである。

 8歳も離れているのに、それだけのメンバーから、宝積寺とそっくりだと言われたことがあるとは……。


 だが、宝積寺が、この人のような笑顔を浮かべることは考えられない。

 いずれは、この人のような顔で笑ってくれるのだろうか……?

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