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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第212話 尾久野双葉-1

「あの……私が来られない日に、黒崎さんの家庭教師は、どなたがなさるのでしょうか?」

「私としては、お願いしたいと考えている方がいらっしゃいますが……和己さんとご相談して決めたいと思います」

「……大河原先生ですか?」


 宝積寺は、少し強張った顔で美樹さんに尋ねた。

 美樹さんは、困った様子で言った。


「和己さんの意思に反することは致しませんので、玲奈さんにも見守っていただけると嬉しいのですが……」

「……」


 宝積寺は俯いた。

 美樹さんに逆らうのが難しいだけでなく、花乃舞のことに口を出すのは憚られるのだろう。


「俺は……先生との関係がどうなったとしても、家庭教師は他の人がいいんですけど……」

「そうですか。では、そのように致しますね」


 美樹さんは快くそう言ってくれたが、宝積寺は何かを言いたげな顔でこちらを見た。

 だが、結局、何も言わなかった。


「では、そろそろ玲奈さんにはお帰りいただきましょう。本日はありがとうございました」

「えっ……!?」


 雅が無理を言って引き留めたのに、今度は追い返すのは酷いのではないか……?

 そう思って声を上げてしまったが、よく考えてみれば、これからの話をするのに宝積寺がいるとまずいのか……?


 そういうことを、宝積寺は察したようだった。


「……分かりました」

「では、お見送りをさせていただきます。申し訳ありませんが、和己さんはこちらで少々お待ちください」

「いえ……こちらで結構です」

「そう仰らないでください。雅さんのことですから、強引に引き留めてしまったのでしょう?」

「……」



 結局、美樹さんは、宝積寺と共に部屋から出て行ってしまった。

 手持ち無沙汰になったところに、雅が1人の女性を連れて戻ってくる。


「黒崎先輩。こちらの方は、お姉様の一番弟子です。ぜひ、ご挨拶したいと仰ったのでお連れしました」


 雅がそう言うと、後ろに控えていた女性が進み出て、俺の前に正座した。

 その女性は、見覚えのある女性とよく似ていた。


「はじめまして。尾久野(おくの)双葉(ふたば)と申します」

「……十条先輩?」


 俺が女性の顔を見ながら呟くと、女性は複雑な表情を浮かべた。


「やはり、私はあの子に似ていますか?」

「はい。そっくりだと思います」

「そうですか……。実は、若葉は私の実の妹なんです」

「実の妹……? でも、苗字が……」

「……母親が違うものですから」

「……すいません」

「いえ……花乃舞では珍しいことではありませんので、お気になさらないでください。花乃舞は異世界人の血が濃いので、男性が10人に1人程度しか生まれないんです」

「そうだったんですね……」

「実は……私の母と若葉のお母様も、父親が同じ姉妹でした」

「……」


 親が姉妹で、本人達も姉妹ならば、似ているのは当然だろう。

 この姉妹は顔だけでなく、髪色や髪型も似ているし、体型も同じように見える。

 名前を似せたのも、おそらく意図的なことだろう。


 ただ、1つだけ……装いはまるで違う。

 この人は、十条先輩のような、派手で露出の多い格好はしていない。


 落ち着いた服装で、大人の魅力がある。


「あの……若葉がご迷惑をおかけしませんでしたか? あの子は、誰が相手でも誘うようなことを言うので、心配しています……」

「いえ、迷惑するようなことは何もありませんでした」

「……そうですか」

「あんな格好や言動をしなくても、十条先輩ほどの人ならモテると思うんですけどね……」

「……そうでもないと思います」

「そうなんですか? あれだけ美人で、人当たりがいいのに……?」

「この町の男性は、下品な女性を避けますから……。あの子ったら、学校でもネクタイを締めないで、胸元を開いたりして……」

「色気があっていいと思いますけど」

「……そうですよね。桜子ちゃんのことが好きなら、そういうのが好きですよね……」

「いや、あくまでも、十条先輩についての話ですよ……!」

「……男の子って、女の子がそういう態度だと、平気で馬鹿にするようなことを言うんです。好きでもないのに、性的な行為を要求をしたり……」

「それはいけませんね」

「周囲の女の子が、慌てて止めたりして……。本人がそれを問題だと思っていないのが、一番の問題なのですが……」

「……それって、十条先輩の身が危ないんじゃ……?」

「そうなんです。私も、何回も注意したんですけど……」

「いっそのこと、特定の男性と交際させたらいいんじゃありませんか?」

「……それは難しいと思います」

「……まあ、男は気が進まないですよね。浮気されそうな気がしたり……」

「それもあると思いますけど……そもそも、花乃舞の男性は、胸の大きな女性が好きではないんです。皆さん、平均的に大きいので……」

「……」


 確かに、藤田先輩のような例外はいるものの、花乃舞の女性の多くは、御倉沢の女性よりも数段大きいように見える。

 そんな女性ばかりだと、胸の大きさは魅力として認識されないということか……?


「でも……十条先輩みたいな人を好むのって、花乃舞の男じゃなくて、神無月の男なんじゃありませんか? 家が違うと、難しいんでしょうけど……」

「神無月の男性にとっても、若葉より萌ちゃんの方が好みだと思います。あの子のことは、白石さんが守ってくれていると思いますけど……」

「……」

「……申し訳ありません。私的なことで、愚痴を言ってしまって……」

「いや、構いませんよ」

「あの……できれば、貴方のことは『和己さん』とお呼びしてもよろしいでしょうか? このお屋敷に住んでからは、それが普通になっているので……」

「いいですけど……」

「ありがとうございます。では、和己さんも、私や皆さんのことを名前で呼んでください。皆さんの了解も得ておりますので」

「分かりました」

「それと、あの……和己さんは、年上の女性に抵抗がないというのは本当ですか?」

「本当ですけど……」

「では……胸の大きな女性をお好みだというのは……?」

「……まあ、否定はしません」

「……」


 双葉さんは、ちょっと嬉しそうな顔をした。

 やはり、この町で、年下の男性に好かれるのは珍しいことなのだろう。


「あら、双葉さん。丁度良いところにいらっしゃいましたね」


 部屋に戻ってきた美樹さんが、双葉さんに声をかけた。

 双葉さんは、美樹さんにひれ伏すようにした。

 また、無言のまま佇んでいた雅は、美樹さんに挨拶してから立ち去った。


 美樹さんは、元の場所に座ってから言った。


「実は、和己さんの家庭教師を、双葉さんにお願いしたいのですが……よろしいでしょうか?」

「それは……もちろん、私にできるのであればお引き受けします。ですが……百合香さんと同時に教えることになると思うのですが……?」

「双葉さんの能力があれば問題ありません」

「……かしこまりました」


 疑問は解消できていない様子だが、双葉さんは美樹さんの頼みを受け入れた。

 そういえば……この人を家庭教師にすると、またしても、俺が小学生の勉強をしていることを知られてしまうのか……。

 それを考えると、憂鬱な気分になった。

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