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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第20話 宝積寺玲奈-4

「……ご結婚、おめでとうございます」


 俺を自分の家に招き入れた宝積寺は、淡々とした口調でそう言った。

 感情を抑えようとしているように見える。


「いや、何もめでたくないんだが……」


 俺がそう言うと、宝積寺は眉を寄せた。


「そんな風に言ったら、一ノ関さんたちが可哀想です。あの方々は、黒崎さんと結婚できたことを喜んでいたでしょう?」

「どこに喜ぶ理由があるのか、俺には理解できないけどな……」

「御倉沢は、跡継ぎを残すことを重視していますから」

「男に重婚させてでも、か……。どうして、そこまでする必要があるんだ?」

「それは……敵と戦い続けるためです」

「敵……? それは、あのワニの化け物みたいなやつのことか?」

「そのような敵もいますね」

「あいつらは、何なんだ?」

「異世界からやって来た、侵略者です」

「……異世界?」


 宝積寺の唐突な言葉に、俺は面食らった。


「そうです。私達は、異世界から襲来する敵と戦いながら、仲間を増やしているのです」

「……まあ、化け物や魔法をこの目で見たから、異世界だって、あってもおかしくはないか……?」

「異世界の人間は、黒崎さんにとっても無縁の存在ではありません。この町の住人も、黒崎さんも、異世界からやって来た人間が祖先です」

「俺も……!?」

「そうです。今まで隠していて、申し訳ありませんでした。この機会に、全てご説明します」


 宝積寺は、そう言ってから、異世界と黄門町について語り始めた。



 その異世界は、俺達が住む世界とは、全く異なるものである。

 まず、魔法が存在する。

 外見的なことをいえば、住人の大半が金髪で、欧米の白人に近い姿をしている。

 そして、原因は不明だが、男よりも女の方が産まれやすく、女が男の10倍以上は存在している。



「10倍……!?」

「そうです。そのために、異世界においては、一夫多妻制が採用されています」

「それにしても……3人ならまだしも、10人以上を相手にしろ、だなんて無茶だろ……」

「……やはり、そのように感じますよね」


 宝積寺は、少し安心した様子だった。

 こいつは、俺がそのような環境を羨ましいと思うのかを、確認したかったらしい。


「持て余すほどの女性と結婚することを強要されることは、男性にとって負担です。それに……女性だって、そのような環境を望むことはありません。もっと女性が少なければ、自分は今よりも大事にされるはずだ、と考えたとしても……仕方のないことだと思います」


 そう言った宝積寺から、一瞬だけ、殺気のようなものが感じられた。


 背筋が寒くなる。

 やはり、こいつは……俺の重婚について、激しく怒っているのではないだろうか?


「……すいません。黒崎さんに対して、怒っているわけではありませんから……」

「いや……。いいから、話を続けてくれ」

「……はい」



 異世界の女達は、様々な基準を主張して、男についての優先権を争った。

 それらの主張の中で、最終的に採用された基準……それこそが、魔力の保有量が多い女には、男に関する優先権がある、というものだ。


 これは、男達からも支持された。

 異世界の人間は、より魔力の多い者が魅力的だと、本能的に感じるのである。

 そのため、中心都市に大部分の男が集められ、魔力の多い女だけが、そこに住むことを許された。

 魔力量の少ない女は、中心都市から追い出され、地方で農作業や採集等の労働に従事し、収穫物を都市へ上納することになったのである。



「なあ、生徒会長の話を聞いた時にも、疑問に思ったんだが……誰がどれくらいの魔力を保有してるか、なんてことが、他人から見て分かるものなのか?」


 俺が尋ねると、宝積寺は頷いた。


「分かります。近付けば、呼吸をするように、人の身体が魔素を吸ったり吐いたりしていることが、感じられますから。その量が多ければ、魔力も多いと考えて良いでしょう」

「魔素って……吸い込みすぎると倒れる、毒ガスみたいなやつだろ?」

「……確かに、魔素には危険性もありますが……私達にとっては必要不可欠なものです」

「そうなのか」



 魔力量で劣る女性は、自分達が冷遇されていることに不満を抱いた。

 生まれ持った能力が劣るだけで、労働力として搾取されるからだ。


 さらに、子供を作ることが困難であることも、不満の原因だった。

 中心都市から追い出され、地方へとやってくる男の人数が少ないために、中心都市よりも遥かに熾烈な競争になったのである。

 加えて、地方に来る男は、魔力量が少ないことなど、何らかの問題を抱えていた。

 差別を受けている。そのような意識が、地方の女達に芽生えていった。


 おまけに、中心都市から遠い地方には、凶暴な魔物が生息している場所が多かった。

 そういった魔物を駆除する際に、魔力の豊富な者が手助けをするのかといえば、そうではなかったのである。


 多くの利益を得ている連中が、困った時には助けてくれない。

 そんな扱いに、地方に追いやられた女達は、被差別意識を高めるばかりだった。


 特に、ある地方は、極めて過酷な地域とされていた。

 それは、彼女達が「闇の巣」と呼んでいるものが存在したためである。

 その「闇の巣」は、同じ場所に定期的に発生して、近寄った人間を吸い込んでしまった。

 吸い込まれた人間は、二度と帰ってくることはなかったため、「闇の巣」は激しく恐れられた。


 さらに、「闇の巣」には、魔素を引き寄せる性質があった。

 それが影響したためなのか、「闇の巣」の付近には、数多くの魔物が集まるようになった。

 強力な魔物との戦いは、「闇の巣」に近い地方を疲弊させた。


 だが、時が経ち。

 次第に、「闇の巣」は楽園とつながっている、という噂が広まり始めた。

 その噂は、徐々に人々を惹き付けていき、ついには「闇の巣」が現れると、自ら飛び込む者が続出するようになったのである。



「何の根拠もない噂を信じて、死ぬかもしれない場所に、自分から飛び込んだりするか、普通……?」

「……結果として、死んでしまっても構わない、という考えはあったと思います。それほど、現実に絶望していたのでしょう。実際に、噂が広まる前から、『闇の巣』は自殺スポットとされていたそうです。この世界にも自殺する人は数多く存在するのですから、不思議なことではありません」

「まあ、公然と差別が行われてるような世界だもんな……」

「それに……その噂は、完全に間違っているわけではありませんでした。彼女達が『闇の巣』と呼んでいるものは、本当に異世界へとつながっていたのですから」

「じゃあ……『闇の巣』ってのは……」

「この世界へとつながっている場所です」

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