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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第207話 御倉沢吹雪-9

「黒崎さんは御倉沢の人です。私をアテにされても困ります」


 宝積寺は、少し怒っているような口調で言った。

 ひょっとしたら、照れているのを隠そうとしているのかもしれない。


「責めているわけではありません。ただ、『闇の巣』が閉じて、子供を作っても良い環境になるというのに、同棲を強く拒む理由が理解できないだけです」

「……理解していただけなくても結構です」


 顔を逸らしながら、宝積寺は呟くように言った。

 少し意地になっているように思える。


「そういうわけですから、和己を保護できるのは美樹さんだけだという結論になりました」

「美樹さんのところに行けば、俺は安全なんですか?」

「確実ではなくても、この町では一番安全だと言って良いでしょう」

「……」


 美樹さんは、俺に対して好意的だった。

 宝積寺との関係は比較的良好で、花乃舞のメンバーだけでなく、他の家の人間からも尊敬されている。

 確かに、あの人に保護してもらうのが、一番安全なのかもしれない。


 ただ……短期間で、またしても生活環境が大きく変わることに戸惑いを覚えた。

 宝積寺の家の隣から、今の家に引っ越したのは、つい最近のことなのである。


「あの……俺が美樹さんに弟子入りしたら、一ノ関たちはどうなるんですか?」

「貴方がどこで暮らすことになっても、あの子達との関係は継続してもらいます。今さら放り出されても困りますから」

「……あいつらは、それで納得しますか?」

「もちろん、心理的な抵抗はあるでしょう。ですが、時間が経てば落ち着くと思います。納得するのは難しいかもしれませんが」

「……」


 神無月と花乃舞の合併を手伝ったりしたら、少なくとも須賀川は怒り狂うだろう。

 その怒りを静めるためには、時間が解決してくれるのを待つしかないのかもしれない……。


「あの……美樹さんのお屋敷は、美樹さんがいらっしゃる時には安全なのだと思いますが……いらっしゃらない時は大丈夫なんでしょうか? 美樹さんのご体調は……?」

「美樹さんの体調は、花乃舞にとっては機密です。私にも分かりません」

「……では、美樹さんがこの町を離れる時には、黒崎さんの身が危うくなりませんか?」

「美樹さんって、外に行くことがあるのか?」


 俺が尋ねると、宝積寺は暗い顔で頷いた。


「……はい。この町にいると、魔素を取り込み続けることになりますから。普通の人には許されませんが、美樹さんだけは、定期的に外へ出かけているはずです」

「その点については、私も考えました。ですが、美樹さんには妹も弟子もいます。完全に無防備になるわけではないので、ある程度は安全だと言えるでしょう」

「雅ちゃんはともかく、美樹さんの弟子の方々は、黒崎さんを歓迎してくださるのでしょうか?」

「和己は、梅花さんの頼みによって、花乃舞に協力するのです。花乃舞の人間が拒絶することは考えにくいはずです」

「……美樹さんの弟子の方々は、全員が女性だと伺っていますが……」

「和己のことが不安ですか?」

「……」

「花乃舞のことは花乃舞が決めます。和己と大河原先生が男女の関係になるのであれば、先生の意見が考慮されるでしょう。そうでなければ、美樹さんは男女の関係を規制するような方ではありません。非難するなら、花乃舞ではなく和己を対象とするべきです」

「いや、花乃舞に行ってまで、相手をする女を増やしたりしませんよ!」


 俺がそう言うと、生徒会長と宝積寺は、こちらに冷たい目を向けた。


「そのような言葉が信用されると思っているのですか?」

「俺のことを、勝手に浮気野郎にしないでください! 先生の時は催眠術がかかっていて、それをかけたのは生徒会長じゃないですか! 一ノ関たちとの交際だって、俺に命令したのは生徒会長でしょう!? 俺は、自分から女を誘ったりしません!」

「……なるほど。その主張は一理ありますね」

「そうでしょう!?」

「ですが、貴方は、早見アリスとデートをしたと聞きました」

「あれはデートじゃありません! ただの訓練です!」

「しかしながら、貴方は私の胸にまで関心を……」

「ちょっと目が行っただけです!」

「そうですか。では、貴方の周囲が美しい女性ばかりになっても問題ありませんね?」

「……」

「花乃舞の女性の多くは、男に飢えています。特に、年下の男性が好みのようですから、貴方のことを熱心に誘うことでしょう。よほど意志が強くなければ、若い男性が耐えられる環境ではありません。ですが、貴方なら大丈夫なのでしょうね」

「男に飢えてるって……花乃舞は、貞操観念がしっかりしてるって聞いた気がするんですけど……」

「世の中には表と裏があります。花乃舞は、伝統的に、子供を作ることについての規制は厳しいものでした。ですが、子供を作らずに楽しむための行為については、むしろ推奨しているのです。若い男女の欲求を、発散する必要がありますから」

「……」


 そういえば……十条先輩は、淫乱のような発言をしたり、俺の前で胸の大きさをアピールしたりしていた。

 多くのメンバーがいれば、中にはそういう女性だっているのかと思っていたが……ひょっとして、あの人のような言動をする女性は他にもいるのか……?


「ついでに言えば、花乃舞の女性は胸が大きめな方が多いことで知られています。さすがに、大河原先生ほど大きい人は少ないと思いますが……触っても良いと言われても遠慮しますか?」

「……」


 自信を持って答えられるはずがない。

 もしも、十条先輩と二人きりにでもなって、ああいう言動をされたら……。


 そんなことを考えていたら、隣から、強い圧力のようなものを感じた。


 宝積寺が、澱んだ目でこちらを見ている……。

 こいつは、「子供を作らなければ遊んでもいい」などとは絶対に考えない女なのだ。


「まあ、和己が花乃舞の女性と遊んでも、私は特に困りませんが」

「……吹雪様……」

「和己を花乃舞に預けるのであれば、扱いは、基本的には花乃舞に任せるべきです。強要することは認めませんが、誘って応じるなら本人達の自由であり、私からは口出しできません。それが嫌なら、貴方が和己を守るべきです」

「……」

「ただし、子供が増えすぎたら、この町は和己の子孫だらけになってしまうおそれがあります。御倉沢は人数が多いので問題ありませんが、花乃舞の女性に何人も子供を産ませたら問題になるかもしれませんね。花乃舞が神無月と一緒になれば、そのような問題も解決するかもしれませんが」


 生徒会長は、他人事であることを意識しているように言った。

 宝積寺は、そんな生徒会長を睨むようにした後で、こちらのことも睨んでくる。


「……気を付けます」

「そうしなさい。外から来た人間である貴方の子供は、半分が男性になる可能性があります。最悪の場合には、ねずみ算式に子孫が増えるおそれがあります。そういう意味でも、子供が増えすぎたら問題です」

「……」


 そんなこと、考えもしなかった……。


 この町が俺の子孫だらけになったら、確かに問題である。

 当初は、俺が外の遺伝子の持ち主だから安全だ、という話だったのだが……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ面白いですね。 [一言] クソみたいな環境で主人公はよくやってると思います。 自分だったらストレスでとっとと外に逃げてますね。
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