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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第206話 御倉沢吹雪-8

 生徒会長は、宝積寺の方を見ながら続けた。


「貴方が、そのような態度であれば好都合です。御倉沢と花乃舞の問題は、お互いに納得できる解決を図りますので、部外者である貴方は介入しないでください」

「……大河原先生のことは、処罰なさらないのですか?」


 宝積寺は、不服そうな態度を出しながら言った。


 やはり、妹である桃花よりも、姉である大河原先生に対して怒っているように思える。

 ひょっとしたら、先生と春華さんの関係が悪かったことも、影響しているのかもしれない。


「あら。自主的に退職しただけでは不十分だと考えているのですか?」

「先生は、黒崎さんに、身体の関係を強制したんですよね? その責任を、梅花様が黒崎さんを脅すことによって握り潰すのは、大変な問題だと思います」

「そうなる原因を作ったのは私です。貴方は、私のことも罰したいと思いますか?」

「……そういうわけでは……」


 宝積寺は口籠もった。


 こいつは、前々から、生徒会長には強気に出られないようだった。

 そんな相手に、「お前も罰を受けろ」などと言うのは難しいだろう。

 もちろん、宝積寺が望んだとしても、生徒会長を罰するなんて不可能なことなのだろうが……。


「和己に、どうしても先生のことを許せないという感情があるなら、この町から追放することもできます。先生の処遇については和己に任せるべきでしょう。和己、それで問題ありませんね?」

「それは……そうですね……」


 生徒会長の言葉を肯定した俺のことを、宝積寺は非難するような目で見た。

 だが、何も言わずに目を逸らした。


「本人が納得しているのです。貴方も納得するべきではありませんか?」

「……分かりました。ただ……」


 宝積寺は、俺の方を見てから言った。


「花乃舞は、条件を一切出さなかったのですか? 桃花ちゃんを叩いたことについて、黒崎さんに何もしないままで終わらせるつもりなのでしょうか……?」

「ちょっと待て。俺が桃花を叩いたのは、先生の許可をもらってやったことだ。そもそも、悪いのはあいつの方だろ?」

「黒崎さん……」


 宝積寺は、困っているような顔をしている。

 その顔を見て、とてつもなく嫌な予感がした。


「和己。今回のことが表に出てしまった時点で、当事者による解決は無効です」

「!?」

「とはいえ、大河原桃花が悪かったことは間違いありません。私としては、和己を罰することは承服できませんでした。ですが、梅花さんも簡単には引き下がりません。そこで……」


 生徒会長は、俺を見据えて、真剣な表情で言った。


「和己。貴方は学校を中退しなさい」

「!?」

「!」

「そして、美樹さんの屋敷に住み込み、弟子にしていただいて、修行すると良いでしょう」

「美樹さんの……弟子……?」

「お待ちください! 黒崎さんの行為がどれほど破廉恥であったとしても……それだけで、退学というのは……!」

「ここで中退させなくても、和己には卒業できるだけの能力がありません。貴方だって、よく分かっていることではないのですか?」

「……」


 宝積寺は、何も言わずに俯いた。


 やはり、いまだに小学生の勉強をしている俺には、高校卒業は至難の業らしい……。

 須賀川の反応で分かっていたことだが、かなりショックである。


「ですから、この機会に学校を離れて、少しでも良い肩書きが得られる立場になった方が和己のためです」

「あの……美樹さんに弟子入りすると、俺はどうなるんですか?」

「外でいえば、出家して、お寺で修行するようなものです。美樹さんは、世間から離れて生活していらっしゃいますから」

「……」

「安心しなさい。滝行のような修行をするわけでも、禁欲を強いられるわけでもありません。ただ、少し変わった仕事をするだけです」

「仕事……?」

「美樹さんの弟子になったら、花乃舞家の当主が書き残した書類をまとめる作業が生活の中心になります。歴代当主の考えを後世に伝えるための作業です」

「……それを、俺がやるんですか?」

「もちろん、御倉沢の人間である和己が、花乃舞の正当性を訴えるような作業をするのは面白くありません。ですが、美樹さんは中立的な立場を心がけていらっしゃいます。そして、暴力や争いを好まない方ですから、美樹さんのお屋敷であれば、避難場所としては適しているでしょう」

「避難……?」

「まさか、忘れたわけではありませんよね? 貴方は、花乃舞と神無月が合併するための協力を求められているのですよ? 誰に狙われても不思議ではありませんし、御倉沢では貴方を守り続けることなどできません」

「!?」


 御倉沢は……俺を守れないのか!?

 生徒会長があっさりと認めたので、しばらく言葉が出なかった。


「仕方がないでしょう? 誰が合併を阻止したいと思っているのか……それが分からないのですから。私達の戦力では、神無月や花乃舞の襲撃に常時備えるのは困難です。特に、現状では、御倉沢の中にも貴方への反発があります」

「……」

「それにしても……貴方が、神無月に合併を受け入れさせるような知恵を備えているとは思いませんでした。一体、大河原桜子に何を吹き込んだのですか?」

「いや、それは……」


 そんなこと、答えられるはずがない。

 特に、隣に宝積寺がいる状況では……。


 生徒会長はため息を吐いた。


「まあ、良いでしょう。貴方には、他の家に漏らしてはならない情報など、分からないでしょうから」

「……すいません」

「ですが、そのために、貴方は自分の身を危険に晒すことになりました。これからは、常に自身の安全に注意する生活になるのですから、その心構えが必要です」

「……」


 いよいよ、俺はテロリストのような存在になってしまったことを認識する。


 御三家による体制を破壊することは、この町においては、国を滅ぼすような行為なのだ。

 間違いなく悪行だと認識されるだろう。


「もしも、そこにいる貴方の彼女が、この場で貴方と結婚するのであれば、それが一番望ましいことだったのですが……」

「いきなり、何てことを言うんですか!?」

「当然の話です。さすがに、貴方の彼女と殺し合おうと考える者は少ないでしょう? 早見アリスのような実力があれば、それでも襲うかもしれませんが……あの子は、神無月が消滅する程度のことで、人を殺したりしませんから」

「……」


 御倉沢に守ってもらうよりも、宝積寺と結婚した方が安全って……事実だとしても、御三家の当主がそれを認めてしまってもいいんだろうか……?

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