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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第202話 早見アリス-24

 リビングに行って、俺は衝撃を受けた。

 思いもよらないメンバーが、そこにいたからだ。


「……遅かったわね」

「きっとお疲れなのですわ」

「……」


 三者三様の態度でソファーに並んで座っているのは、平沢と早見、そして栗橋だった。


 これは……一体、どういう状況だ?

 どうして、「闇の巣」が閉じて忙しい時に、御三家の主要なメンバーであるこいつらが、俺なんかの家に来るのか?


 平沢だけなら分かる。

 栗橋が来るのも、大河原先生に関する話の展開によっては、分からないではない。

 だが、早見が来る理由については心当たりがなかった。


 これが、早見だけ来たのであれば、ただの気まぐれの可能性が高いのだが……。


 そもそも、大河原先生の問題について、平沢は「闇の巣」の処理が終わるまでの先送りを示唆していたはずだ。

 それなのに、どうしてだ……?


「どうぞ、お座りください」

「……ああ」


 ここは俺の家なんだが……と思いつつ、3人に向かい合う形でソファに座る。


「実は、黒崎さんにご報告があって参りました」

「報告? 俺に……?」

「お喜びください。このたび、神無月と花乃舞は合併することになりました」

「!?」


 合併……!?

 神無月と、花乃舞が……?


 俺は、思わず栗橋の方を見た。

 栗橋は、表情を変えることもなく、こちらをじっと見ている。


 まるで、俺の反応を確認しているようだった。


「あら、驚いていらっしゃるのですか?」


 早見は、何故か、俺のことをからかうように言った。


「……そりゃ、驚くに決まってんだろ」

「きっと、お喜びいただけると思っていたのですが」

「何でだよ?」

「黒崎さんは、前々から、御三家の合併を望んでいらっしゃったではないですか」

「それは……」


 言葉に詰まった。

 気軽に「一緒になればいい」などと言ったことはあるが、本当に合併するなんて思っていなかったからだ。


「貴方は、重大なことを、考えなしに言いすぎなのよ。これが、私達にとって、どれだけ重大なことか……!」

「麻理恵さん、落ち着いてください。これは、あくまでも神無月と花乃舞の問題ですわ」


 早見が平沢の肩に触れながら言うと、平沢は逃げるような動きをした。

 まるで、早見に触れられることを恐れているような態度だ。


「……私達だって、無関係じゃないわ」

「そうですわね。だからこそ、私達はここにいるのですから」

「……いや、お前ら、どうしてここにいるんだ?」


 俺は当然の疑問を発したつもりだったが、平沢はこちらを非難するような目で睨んできた。


「分からないの?」

「当たり前だろ」

「信じられない人だわ……」

「梅花様が、黒崎さんを必要としておられます」


 栗橋が、淡々とした口調で言った。

 あえて、感情を表に出さないようにしているようだ。


「花乃舞家の当主が……?」


 ますます意味が分からない。

 俺は、花乃舞家の当主とは会ったこともないのである。


 大河原先生を訴えた後であれば、花乃舞家に呼び付けられることもあるだろうが、現状では呼ばれる理由に心当たりがない。


「黒崎さんが混乱していらっしゃいます。私が、経緯をお話しいたしますわ」

「……頼む」

「昨夜のことです。御三家の当主の皆様は、本日に予定されていた会談に備えて、事前の話し合いを行いました。そこで、梅花様より、愛様と吹雪様に対して合併の提案がございました」

「御倉沢にも……?」

「はい。その後、梅花様は吹雪様と1対1で会談し、それから、梅花様と愛様が1対1で会談なさいました。吹雪様は回答を保留なさいましたが、愛様は合併に応じたのです」

「……それで、俺はどうして、花乃舞家の当主に呼ばれてるんだ?」

「個別に会談してから、改めて3人での会談が行われたのですが……その場で、梅花様より、吹雪様への要請がございました。神無月との合併を協議する場に、黒崎さんを同席させてほしいとのことです」

「……何のために?」

「合併を成功させるためのキーマンが黒崎さんなのだと伺いました」

「俺が……?」

「黒崎さんが大河原先生に伝えたアイディアが、合併を成功させるために重要な役割を果たす……とのことですわ」

「……アイディア?」


 俺には、先生にそんなものを伝えた記憶がない。

 一体、何のことだ……?


「心当たりがないのですか?」


 栗橋は、戸惑った様子で尋ねてきた。

 こいつも、花乃舞家の当主から詳細を聞いたわけではないらしい。


「無責任にもほどがあるわ! これほどの事態を引き起こしておきながら……!」


 イライラしている様子の平沢に、早見が今度は寄りかかるようにした。

 平沢は、悲鳴のような声を上げた。


「ちょっと、アリスさん……!」

「いけませんわ、麻理恵さん。そんなに怒ったら、せっかくの可愛い顔が台無しですわよ?」

「今、顔は関係ないでしょ!? あと、いちいちくっつくのはやめて!」

「あら。私は、麻理恵さんと触れ合うことができて幸せですわ」

「私は幸せじゃないわよ!」

「……悲しいことを仰らないでください。私達は、将来を誓い合った仲ではないですか」

「その話はしないでって言ってるでしょ!」

「お前ら……実は、そういう関係だったのか?」


 俺が尋ねると、平沢は首を何度も大きく振った。


「違うわよ!」

「仰るとおりですわ」

「ちょっと……!」

「……どっちなんだよ?」

「小学校に入学した頃の話よ! 私の人生で最大の汚点だわ!」

「……酷いですわ。神無月と御倉沢が一緒になった暁には、私を麻理恵さんのお嫁さんにしていただきたいと思い続けておりましたのに……」

「どうして、私が旦那さんの役割なのよ!?」

「まあ! つまり、2人でウエディングドレスを着ることをお望みなのですわね?」

「結婚式の話なんてしてないわよ! そもそも、合併するのは神無月と花乃舞でしょ!?」

「あら、そうでしたわね」


 早見はクスクスと笑った。

 平沢は、顔を引きつらせている。


 やはり、早見は幼い頃から魔性の女だったようだ。

 御倉沢では屈指の魔力量のある、平沢ですら落とすとは……。


「アリスさんは、女なら誰でも良いみたいですね」


 栗橋は、早見のことをジト目で見ながら言った。

 宝積寺に一途なこいつとしては、早見の態度が理解できないのだろう。


「まあ! 心外ですわ。私、求婚する女性は慎重に選んでおりますのよ?」

「自分の容姿に自信があるからといって、そういう言動を、大勢の女性に対してするのは不誠実だと思います」

「私、きちんと責任を取る覚悟がございますわ」

「相手の方が、アリスさんを独占したいと思ったら、どうするおつもりですか?」

「そのような方には、求婚などいたしません」

「……そうなのか?」


 俺の質問に対して、早見は頷いた。


「私は、自由を愛しておりますので」

「……」


 それは人としてどうなのか……と思ったが、間違いなく自分へのブーメランになるので、口には出さなかった。


「ちょっと待って。それだと、私が不倫をする人を許容しているみたいに思えるんだけど……?」

「あら。私が麻理恵さんと結婚したら、不倫などいたしませんわ。当然ではないですか」

「……アリスさんは、自由を愛しているはずでしょ?」

「麻理恵さんのためであれば、全てを犠牲にする覚悟ですわ」

「……」


 平沢は、納得していないような顔をした。

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