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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第201話 蓮田香奈-11

「……とにかく、『闇の巣』の処理が片付いたら、私から吹雪様に面会のお願いをするわ。それまでは待っていて」

「分かった」


 話を終えて、平沢は忙しそうに帰っていった。

 事情を知らない蓮田は、俺達が何を話していたのかについて疑問に思っているようだった。

 だが、簡単に話せるようなことではないと察しているらしく、俺達に尋ねはしなかった。


「……まずは、買い出しに行きましょう」

「そうだな」

「じゃあ、皆で行こうよ。全員で食べるんだから」

「そうね。誰かに任せるよりも、その方がいいわ」



 結局、俺達は全員で買い出しに行くことになった。

 そして……。



「……」

「じゃあ、夕食の前に勉強しましょう」

「……ちょっと待て! 休憩もしないで始めるのか!?」

「休憩って、お店に行っただけなのに……あんたって、よっぽど体力がないのね」


 須賀川は呆れたように言った。

 蓮田と一ノ関も、戸惑った表情でこちらを見ている。


 もちろん、近くの店に買い出しに行っただけで、体力を使い果たすことはない。

 だが……こいつらの買い物は、野菜や肉を選ぶような買い方ではなかったのだ。

 服や靴を選ぶのであれば分からないではないが、食材を買うだけで、どうやったらあれほどの時間をかけられるというのか……?


「……とりあえず、黒崎君の勉強がどこまで進んでいるのかを見せてもらえばいいんじゃないかな?」

「そうね」


 俺は、須賀川に急かされたので、自分が授業で使っている物をリビングに持っていき、3人に見せた。


「えっ? 何、これ……?」

「何って……授業で使ってる教材に決まってるだろ?」

「……冗談でしょ?」

「……ほら、黒崎君って、外から来たから……」

「それは分かってるけど……これって、小学生用の教材じゃない」

「……!?」


 俺が使っている教材が……小学生用!?

 あんな難しいことを、この町では、小学生で勉強してるというのか!?


 そういえば……世界には、小学生の年齢で、大学を卒業するような天才がいると聞いたことがある。

 この町の連中は異世界人の遺伝子によって規格外の天才ばかりになっているのだから、そういうレベルの勉強をしていてもおかしくないはずだ。


 だが……俺と同じように外から来た桐生は、他の生徒と同じ勉強をしてるんだよな?

 一体、どれほど知能に差があるのだろうか……?


「これじゃ、麻理恵が教え方に困るのも無理ないわね……」

「きっと大丈夫よ。宝積寺玲奈にはできることだもの」


 一ノ関はそう言った。

 だが、須賀川はため息を吐く。


「宝積寺って、ああ見えて、意外と面倒見がいいタイプなのかしら?」


 平沢や大河原先生は事情を把握していたはずだが、宝積寺は、俺がどういう状況だったのかについて知らなかったはずだ。


 今にして思うと……「勉強を教えてくれ!」と頼み込んで教材を見せた時、宝積寺は戸惑った顔をしていた気がする。

 だが、俺が町の外から来たことは説明していたので、驚愕した様子はなかった。

 そうでなかったら、あまりにも恥ずかしすぎる……。



 結局、俺は主に一ノ関に教わることになった。

 だが、一ノ関も昔勉強したことを思い出しながら話しており、かなり戸惑っている様子だった。


 須賀川は、横から時々口を出してきたが、俺には何を言っているのかが理解できなかった。

 やはり、本人が勉強できるかということと、教えるのに向いているかということには、直接の関係はないらしい。


 俺が勉強をしている間に、蓮田は1人で食事の準備をしてくれた。

 4人分の食事なんて作り慣れていないだろうに、クオリティは安定しており、同じような物を食べ続けるのに飽きそうになっていたのでありがたいと思った。



 そして、夜。


 俺は、蓮田の部屋に行った。

 部屋には、こいつの家に置いてあった、手作りのぬいぐるみがあった。


「そんなことがあったなんて……」


 俺が、先生との間にあったことを話すと、蓮田は激しく動揺した。

 もちろん、話した内容は、一ノ関や須賀川に話したのと同じものである。


「俺達の様子、おかしかっただろ? 心配かけて悪かったな」

「そんな……ごめんね。まさか、そんなことがあったなんて思わなくて……」

「いや、お前が気にすることじゃない」

「でも、大丈夫なのかな……?」

「何がだ?」

「花乃舞の人って、私達以上に仲間意識が強くて、誰かが責められた時に攻撃的になることがあるから……。先生を訴えたりしたら、逆恨みした誰かが、黒崎君を襲ったりするかも……」

「誰かって……例えば、大河原桃花か?」

「まさか! 桃花ちゃんは、そんなことしないよ。鈴はああ言ってたけど、普段はとってもいい子だよ? 私なんかに対しても礼儀正しくて、思いやりがあって……」

「……」


 こいつ……桃花の本性を知らないのか……。

 あいつは、普段は猫を被っているのだろう。


「まあ、俺は、どうしても先生を訴えたいわけじゃないからな……」

「そうなの?」

「ああ。生徒会長と話して、無理だっていう結論になるなら、それは仕方ないと思ってる」

「……」


 浮かない顔をする蓮田の頭を、俺は撫でた。


「……黒崎君?」

「お前が帰ってきてくれて良かった。俺達だけだと、困ることもあるからな……」

「……私がいなくても、それはそれで楽しかったんじゃないの?」

「いや。お前がいると、気が楽になるっていうか、落ち着くんだよな」

「そうなの?」


 蓮田は意外そうな顔をした。

 正直に言えば、こいつの良さは、いなかった時に初めて気付いたところもあるのだが……。


 須賀川は気が強い。

 一ノ関は嫉妬心が強い。

 だから、あの2人だけと一緒にいると、段々と疲れてくるのである。


「ねえ、それって……」

「何だ?」

「……夜のことも期待してたの?」

「……」

「……」

「……そりゃあ、まあな……」

「……」


 少し反応が遅れて、蓮田はショックを受けた様子だった。


「……こういうことを、はっきり言うのは気が引けるんだよ。これでも、ずっと期待して、待ってたんだからな?」

「……そう?」


 良かった……納得してくれたようだ。

 ここで機嫌が悪くなられてしまうと、ムードを盛り上げるようなテクニックの持ち合わせなどない。


 蓮田は目を閉じた。

 俺は、蓮田の唇に自分の唇を重ねた。



「……」

「……」



 翌朝、目を覚ましたときに、部屋には蓮田がいなかった。


 時計を見ると、既に10時近い。

 さすがに寝過ぎたかと思い、服を着て部屋を出た。

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