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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第199話 黒崎和己-16

「だったら、先生は担任から外してほしい。それもできないなら、せめて、俺の授業の担当からは外してほしい。生徒会長なら、その程度のことはできるんじゃないか?」


 俺がそう言うと、須賀川は少し考えてから言った。


「……確かに、そんなことをした人と、マンツーマンの授業は嫌よね」

「分かってくれるなら、生徒会長に取り次いでくれ」

「まずは、麻理恵に相談しないと無理よ。あんたが、先生にされたことを、話すことになるけど……いいわね?」

「ああ」


 俺は須賀川に同意した。


 先生を訴えるのは、教師を辞めさせたいからではない。

 こうでもしなければ、俺なんかが生徒会長に面会するのは難しいと思うからだ。

 仮に会うことが可能だったとしても、俺の目的を追及される事態は防ぎたい。


 とにかく、生徒会長と話をしなければならない。

 肉体関係に及ぶ方の催眠術だけでも解除する方法があるなら、すぐにでも解除してもらわないと、いつ誰に迫られるか分からないからだ。

 大河原先生を信用できない現状では、そんな弱点はすぐにでも解消しておきたいところである。


 いや……脅威を感じるのは、先生以外の人であっても同じだ。

 神無月や花乃舞の人間の誰かがメールを見たら、俺に催眠術がかけられていることを察するかもしれないのである。

 最悪の場合、面識のない女性に行為を強制されることだって考えられる。

 それは絶対に防ぐべきことだ。


 もちろん、先生を訴えるからには、話の流れによっては、本当に教師を辞めてもらうことになるかもしれない。

 だが、そうなっても仕方ないだろう。

 先生には、俺と肉体関係になる方法以外にも、催眠術について告発する方法があったと思えてならないからだ。


 一応、事実を教えてくれた先生には感謝している。

 それでも、先生は以前から、俺を異性として狙っていた。教師としては失格だと言われてもやむを得ないはずだ。

 この町に教師と生徒の交際を禁止する規定がないのは、男子生徒が年上の女性に興味を持たないことが前提なのだから、外の価値観で先生を糾弾したとしても不当とは言えないだろう。


 さすがに、先生が路頭に迷ったら可哀想だが……この町の教師はただのボランティアなのだから、そういう心配はしなくても良い。

 ただし、先生が、教師という仕事に対する思い入れをどの程度持っているかは不明である。

 そのため、この話の流れで、大河原姉妹がどう動くか分からないのが恐ろしいところだ。


 特に、桃花がどの程度まで怒るのか、分からないところが恐ろしい。

 俺を殺しかねないほど怒り狂った場合には、先生か生徒会長に何とかしてもらうしかないだろう。

 いざとなったら、宝積寺か美樹さんに助けを求めることも必要になる。


 不安はあるものの、まずは須賀川から、平沢に話してもらうことになった。



 今夜は全員が1人で寝ることで話はまとまったが、一ノ関が不安そうな表情で俺に話しかけてくる。


「黒崎君……あと1つだけ、確認させてほしいのだけど……」

「何だ?」

「……胸の大きな女性のことが、嫌いになったりしていないわよね?」

「それはないな」

「……そう」


 俺は、安心した様子の一ノ関の頭を撫でた。


「……黒崎君?」

「お前、可愛いな」

「……」


 一ノ関は、顔を赤くして俯いた。



 自分の部屋に戻り、ベッドに横になって考える。


 ……これでいいだろう。

 問題は、すぐに生徒会長に会えるのかということ、そして、それまで先生や桃花に気付かれないかということだ。


 俺はもうスマホを持っていないし、パソコンは所有していない。

 催眠術は、俺に気付かれないようにかけられていたのだから、さすがに、一ノ関や須賀川のスマホを盗んで使ったりはしないだろう。

 訴えが表に出る前に、事態を収拾したいところである。


 それにしても、疲れた……。

 今日はもう眠ってしまおう……。



 翌朝、下の階で女子が騒いでいる声が聞こえて目を覚ました。


 ……誰か来ているのだろうか?

 そう思いながら下の階に行くと、そこには2人の女子が来ていた。


「あっ、黒崎君、ただいま!」

「蓮田……!」


 蓮田は、異世界人に襲われる前と変わらない様子だった。

 須賀川はとても嬉しそうにしており、一ノ関は感激して涙ぐんでいる。


「予定では、もっと様子を見てから退院してもらうつもりだったけれど、当分はこの家で静養してもらうことになったわ。よろしくお願いするわね」


 蓮田を送ってきたらしい平沢は、俺の方を見ながらそう言った。


「退院予定が早まったのか? どうしてだ?」

「実は、『闇の巣』が閉じたみたいなの」

「……!」


 予想よりも、かなり早い。

 これから生徒会長と話そうとしている状況で、俺個人の問題なんて差し置かれてしまいかねない、重大な出来事だと言えるだろう。


「それで、閉じたことの裏付けを取って、残った魔獣は駆除して、異世界人がいたら保護するわ。その作業に注力するために、来週は学校が休みになるから、貴方達はなるべく家にいるようにして。雫さんは、まだ病院にいるけど、渚が面倒を見てくれるから心配しなくていいわ」

「俺達は家に引き籠もってるだけでいいのいか?」

「そうよ。貴方達に戦ってもらう予定はないもの。代わりに、黒崎君にはやってほしいことがあるわ」

「……何だ?」

「勉強よ」

「……」

「当たり前でしょ? 学校に行かないんだから」


 それはそうなのだが……まさか、異世界がどうの、子作りがどうのといった話をしているような環境で、「勉強しろ」などという言葉を聞くことになるとは……。

 この町では、普通である方が異常なのだと改めて思う。


「……俺は、こいつらに教えてもらえばいいのか?」

「ちょっと、どうして不満そうなのよ……?」


 須賀川は、かなり不服そうな顔で俺を睨んだ。

 そういえば、こいつらに勉強を教えてもらうという話を以前したが……その必要性を感じていなかったため、実際にそういう機会があるとは思っていなかった。


「安心して。特に鈴さんは成績がいいから、きっと分かりやすく教えてくれるわ」

「……そうなのか?」

「あんた……まさか、私のことを馬鹿だと思ってたんじゃないでしょうね?」

「いや……」


 てっきり、学力と魔力量は比例するのかと思っていた。

 よく考えてみれば、各々に得手不得手があるように、魔力は少なくても勉強はできる人間だっているのだろう。


「麻理恵。忙しいのに悪いんだけど、少しだけ話したいことがあるの」

「……どうしたの?」

「ちょっと、こっちに来て」


 須賀川は、自分の部屋の方へと平沢を連れて行った。

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