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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第198話 黒崎和己-15

「えっ……?」


 須賀川と一ノ関は強い衝撃を受けた様子で、目を見開いた。


「俺は外から来た人間で、先生よりも力が弱いからな……。今にして思えば、もっと警戒するべきだったのかもしれないが……」

「……ちょっと待って! それって、つまり……先生に、力尽くで……!?」

「お前……俺が何をされたのか、詳しく聞き出すつもりか?」

「……」


 須賀川は、黙って俯いてしまった。

 代わりに、戸惑った顔をしている一ノ関が口を開いた。


「……少しだけ、確認させてほしいことがあるわ。思い出したくないでしょうから、答えられる範囲で答えてくれればいいんだけど……」

「何だ?」

「……嫌だったのよね?」

「ああ。俺ははっきりと断った」

「……それなのに、先生の方からしたのね?」

「そういうことだ」

「……ごめんなさい」

「疑わないのか?」

「ええ」


 一ノ関は、あっさりと頷いた。


 こいつは、出会った頃からこうだった。

 だが、すぐに信じてもらえたのは、俺の言葉に嘘がないからなのかもしれない。


 須賀川は、納得できていない様子で首を捻った。


「疑うわけじゃないけど……どうして、先生がそんなことを? 普通に誘惑しなかったの?」

「前に、先生から誘われたことがあった。その時に断ったからな」

「だからって……力尽くで、無理矢理……?」

「鈴……黒崎君は被害者なのよ?」

「いや、いいんだ。あの時、普通に誘われたら……応じたかもしれないからな。だが、先生の言動に腹が立って、はっきりと断ったことは間違いない」

「……ごめんなさい」

「謝らなくていい。疑われるのは仕方がない。そういう言動をしてた自覚はある」

「……」


 あえて、生徒会長に催眠術をかけられたことには言及しなかった。

 それを指摘して、こいつらや御倉沢を敵に回すのは得策ではないと思ったからだ。


 こいつらが、催眠術について黙っていたことを責めるのは簡単だろう。

 だが、神無月からも催眠術をかけられて、花乃舞が味方になったとは言えない現状では、俺に御倉沢まで敵に回す余裕はない。


 もちろん、俺に催眠術をかけて騙した御倉沢よりも、花乃舞の方が信用できるという考えだってないわけではない。

 それでも、俺は御倉沢を頼ろうとしている。


 結局のところ、俺は大河原姉妹のことを信用できないのだ。


 先生は、人間の良心のようなものを軽視しており、「迷惑な存在は悪」だと認定している。

 その妹である桃花は、気に入らない相手を強制的に排除しても構わないと考えているような女だ。


 価値観が普通の人間と違いすぎる。

 少なくとも、俺とは相容れないと言っていい。


 大河原先生は俺のことが好きなはずだが、妹のことも溺愛している。

 さすがに、俺を積極的に殺すことはないと思うが……桃花が俺を殺しても、その事実を黙っているかもしれない。

 どれだけ先生が美人で、スタイルが良くても、命の危険を覚えながらの生活なんて絶対に送りたくない。


「それで、お前らに頼みたいことがあるんだが……俺が生徒会長に会うことは可能か?」

「吹雪様に……?」

「あんた、まさか……先生にされたことを、吹雪様に訴えるつもりなの?」

「こんなこと、生徒会長じゃなければ解決できないだろ?」

「……悪いことは言わないから、やめておいた方がいいわ」

「どうしてだよ?」

「いくら吹雪様でも、あんたが被害を受けたことだけを理由に、大河原先生をどうにかできるとは思えないからよ」

「鈴……」


 一ノ関は咎めるような顔をしたが、須賀川は首を振った。


「吹雪様にだって、できないことはあるわ」

「この町では……男に無理強いしても、犯罪にならないのか?」

「そうじゃないわ。そういう行為を規制しなかったら、大変なことになるもの。魔力の多い男子が、年上の女性から迫られたり……」

「……」


 先生だけでなく、十条先輩も年下好きで、そういう女性は他の家にも多いらしい。

 そんな環境で、「男は自由にしても良い」などというルールにしてしまうと、若い男は餌食にされてしまうということだ。


 違法行為になっているのは当然だろう。


「だったら、俺には生徒会長に訴える権利があるはずだろ?」

「そうよ。でも……確実な証拠はあるの?」

「……」

「無いでしょ? それだと、結局は心証に左右されるのよね……」

「……つまり、俺が信用されてないから駄目だってことか?」

「さっき、自分でも言ったでしょ? 性的なことについての信用だと、厳しいでしょうね……」

「……」

「私達はあんたを信じるわ。吹雪様も、あんたが必死に訴えれば、信用してくださると思うけど……先生が否定したら、梅花様は信用してくださらないと思うわ。というより……もしも先生が否定しなかったとしても、処罰するほどのことじゃないと言われるのがオチよ」

「それって……酷くないか?」

「……ごめんなさい。でも、あんたと、普段から先生を避けていた男子とでは、被害による苦痛が違うと思われてしまうのよ」

「そうだとしても、先生を辞めさせることはできるんじゃないのか?」

「えっ……?」


 須賀川も一ノ関も、意表を突かれたような顔をした。


「少なくとも、教師が生徒と性的な関係になったんだ。教師を辞めさせられるのは仕方ないだろ?」

「黒崎君……この町では、教師と生徒の交際は禁止されていないのよ」

「……はぁ?」


 そういえば、この町の教師は公務員じゃないはずだ。

 とはいえ、生徒との肉体関係まで問題なしとされているなら、さすがにおかしいのではないか?


「もちろん、何の問題もないとは思われていないわ。だから、教師は全員が女性なのよ。男の子は、年上の女性を異性として意識しないから……」

「……ずっと疑問に思ってたんだが、それってどうしてなんだ?」

「どうしてなのか、私達にも分からないの。でも……女性の体臭が、年齢によって変化するからじゃないかと言われているわ。それによって、年上の女性を避けるようになるからだ、というのが有力な説よ」

「それって加齢臭のことか?」

「……」


 須賀川と一ノ関は、これ以上ないほどの冷たい目で俺を見た。


「……悪い」

「黒崎、あんた……年上の女性にそれを言ったら、殺されても文句を言えないわよ?」

「そんなにヤバい話なのか!?」

「当然よ。この町の女にとっては深刻な話だもの。特に、高校を卒業した年齢の人にとっては……」


 須賀川の言葉を、一ノ関も頷いて肯定した。


「私は結婚できる年齢になったばかりだし、黒崎君がいるからいいけど……結婚相手になる男性が制限されるのは、とても辛いことよ。精神が不安定になる人もいるほどだわ」

「……」


 そんなに辛いなら、町の外に行ってしまえば、20歳前後の女の相手なんて、いくらでもいるはずなんだが……。

 そう思ったが、この町の住人が外に行くことに同意してもらえないのは分かっているので、俺は何も言わなかった。

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