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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第196話 大河原桃花-11

「……まあ、お兄ちゃんが土下座してプロポーズしても、美樹さんが受け入れるはずがないんだけどね」


 そう言って、桃花はため息を吐いた。


「以前、先生から聞いたんだが、美樹さんは妹に遠慮して、誰とも付き合わなかったらしいな?」

「そんなの、お姉ちゃんが話を合わせただけだよ。いくら相手がお兄ちゃんでも、美樹さんの機微に触れる話は気軽にできないんだから」

「……ずっと気になってるんだが、美樹さんって、御三家の当主以上に特別扱いされてないか?」

「当たり前でしょ? 美樹さんは梅花様の母親みたいな人だもの」

「母親……?」

「梅花様のお母様である藤花様が亡くなったのは、梅花様が1歳の時だから……。代わりに、美樹さんが母親の役割を担っていたの」

「なるほど……」


 御三家の当主の母親代わりというのは、かなり特殊な立場である。

 少なくとも、花乃舞の人間からは、花乃舞家の当主と同格以上の扱いを受けても不思議ではない。


「だが、それって、どうして美樹さんが任せられたんだ? 先代の当主から信頼されてたとか、そういう理由か?」

「もちろん、それもあるけど……美樹さんの血統が本家に近いことも理由の1つだよ。でも、何よりも、この町で一番魔力が多いのは美樹さんだからね」

「この町で一番……? 早見や生徒会長よりも多いのか?」

「その2人の魔力量を足して倍にしたって、美樹さんには届かないよ」

「それ……本当に人間か!?」

「ちょっと! それは酷いんじゃないの!?」


 桃花が、俺の襟首を掴んでくる。

 本気で怒らせてしまったらしい。


「……悪い」

「お兄ちゃんじゃなかったら、殺して埋めちゃうんだからね!」


 桃花は、そう言ってから俺を解放した。


 完全に本気の口調で、ヤバい言葉を発さないでもらいたい……。

 最も恐ろしいのは、この女にそれを実行する能力があることである。


「……だが、早見は、異世界人に匹敵するほどの魔力を抱えてるんだろ? それよりも明らかに多いって……いくらなんでも多すぎるだろ」

「確かに、美樹さんの魔力は、人間には多すぎるんだよね……。だから、常に大量の魔素を浴びている美樹さんの身体には、大きな負担がかかっているの。そのせいで、ちょっと無理をすると体調を崩しちゃうんだよ……」

「……」


 イレギュラーの時に美樹さんが倒れる寸前だったのは、そういう事情があったのか……。

 この町の人間にとって、絶対の基準であるはずの魔力量についても、多ければ多いほど良いというわけではないようである。


「それで、美樹さんは子供を授かることを諦めたの。妊娠しても、常に取り入れている魔素の影響で、産めないリスクが高すぎるから……。だから、男の人と交際することもないの」

「……大変なんだな」

「そうなの」


 それほどの魔力があるなら、特別扱いされるはずである。

 春華さんよりも、理由が明確なだけに分かりやすい。


「……そういえば、美樹さんの妹も、それと同じくらいの魔力があるのか?」

「まさか。蓮田先輩や須賀川先輩には、私達の魔力量の差なんて分からないんだから、真に受けない方がいいよ」

「そうなのか?」

「そうなの。自分とは格が違うことは分かっても、その違いなんて読み取れないんだよ」

「だったら、どのくらいの差があるんだよ? 数字で教えてくれ、数字で」


 俺がそう言うと、桃花はため息を吐いた。


「お兄ちゃんって……本当にデリカシーがないよね……」

「何でだよ?」

「この町では、魔力量には重大な意味があるの。多ければ尊敬されて大切にされるし、少なかったら雑に扱われるんだよ。そんな環境で厳密な順位付けなんてしたら、誰も幸せになれないでしょ?」

「お前らは、人間をランク付けしないのか? 少し意外だな」

「……」


 桃花は、無言で俺に抱き付いてきた。

 早見とは違って、真正面からである。


「お、おい……!」


 誰かに見られるのではないかと焦る俺のことを気にする様子もなく、桃花は俺の耳元に口を寄せてきた。


「お兄ちゃんだから、特別に教えてあげる。早見先輩の魔力量は、梅花様や吹雪様よりも多いってことを……」

「……!?」

「ついでに教えてあげるけど、萌さんの魔力量は早見先輩よりも多いの」

「藤田先輩が……!?」

「あと、由佳さんや娘の紗江ちゃんは、吹雪様よりも多いんだよ。おまけに、亡くなられた雪乃様は、吹雪様より少なかったの」

「……」

「ここまで聞いても理解できないんだったら、もう知らないから。この町で生きていくのは無理だと思ってね」

「……」


 重大な秘密を暴露して、桃花は俺から離れた。


 まさか、この町では絶対的な基準になっている魔力量が、そんな状態だったとは……。

 神無月先輩だけでなく、他の当主まで、部下に魔力量で負けている……そんなことが常識になったら、御三家の権威は失墜してしまうだろう。

 この町の人間が、個人の魔力量について誤解を招くようなことを言ったり、勘違いを放置したりしているのは、今までの秩序を維持するために違いない。


 それにしても……神無月先輩の従妹である早見はともかく、小学生にしか見えない藤田先輩が、それほどの魔力を保有しているとは……。

 あの先輩は、花乃舞の人間から大事にされているように見えたが、そういう事情によるものだったらしい。


 さらには、先代当主の指示に反してイレギュラーに対応するメンバーになった水沢さんが、先代当主や生徒会長の魔力量を上回っているなんて……。

 その娘も生徒会長の魔力量を上回っているというのは、御倉沢にとって喜ばしいことなのかもしれないが、当主の立つ瀬がなくなるおそれがある。


 というより……この町の連中って、よく御三家に従ってるな?

 まだ花乃舞家の当主には会ったことがないのだが、圧倒的な魔力があるわけではなく、イレギュラーへの対応も行わず、リーダーに相応しい言動をしているようにも見えないんだが……?


 まあ……藤田先輩は野心を抱くような人間ではなさそうだし、水沢さんは御倉沢のためを思って離反したのだから、当主を追放して代わりにリーダーになろうとする者はいないのかもしれない。



「本日は、ありがとうございました」


 俺の家の前まで来て、桃花は頭を下げてそう言った。

 朝のように、「後輩」の立場に戻っているらしい。


「……色々と教えてくれたことについては感謝してる。先生にも、そう伝えてくれ」

「はい。先輩達にも、よろしくお伝えください」

「……」


 そういえば、一ノ関と須賀川は、俺と先生の関係を疑ってるんだった……。

 厄介なことを思い出させてから、桃花は去っていった。

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