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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第195話 館腰美樹-3

「……?」


 唐突に、奇妙な感覚が生じた。

 頭のどこかに、何かが引っかかったような感覚である。


 原因は、すぐに判明した。

 先ほどまでとは違い、美樹さんが誰かに似ているような気がしてきたのだ。


 だが……誰だ?

 おそらく、花乃舞の人間ではない。

 この人は、妹である館腰雅にも似ていないのである。


 きっと、思いもよらない人物に似ているから、先ほどは気付かなかったのだろう。

 そう考えて……ある名前が思い浮かんだ。


「春華さん……?」

「どうしたの、急に?」


 俺の呟きに、大河原先生が反応した。

 他のメンバーも怪訝な顔をしている。


「いえ……美樹さんって、俺のイメージしてた春華さんに似てる気がするんですよ」

「黒崎君……貴方……!」


 先生の反応は、俺が思っていたよりも大きいものだった。

 信じられないものを見るような目で、こちらを見ている。


 他のメンバーも、唖然としたような反応をしている。

 その中で、十条先輩だけが感心したような顔をしていた。


 よく分からない反応である。

 まるで、「皆が思っていても、あえて口にしないこと」を俺が言ってしまったかのようだ。


 おそらく、神無月の人間の集まりに参加して、「神無月先輩って、御三家の当主っていう器じゃないですよね」などということを本人に対して言ったら、周囲から今と同じような反応をされるだろう。

 その後、それを言った人間が生きていられる保証はない……。


「まあ! 私が、春華さんにですか? それはとても嬉しいです」


 美樹さんは、まるで子供のように喜んだ。


 この人……大人っぽい雰囲気の持ち主なのに、喜ぶ時には、やけに可愛い反応をするな……。

 「あらゆる男から言い寄られた」という伝説は、魔力量だけが原因ではないらしい。


 そして、今さらながら、あることに気付いた。

 大河原先生が教師として振る舞う時の仕草は、この人を参考にしていたらしい。

 だが、先生が色々とちぐはぐだったのに対して、美樹さんからは自然な印象を受ける。


「……全然似てないのに……」


 藤田先輩は不満そうに呟いた。

 どうやら、美樹さんと春華さんが似ていたら嫌だと思っているらしい。


「良いではありませんか。美樹さんが喜んでいらっしゃるのですから」


 十条先輩は、藤田先輩を宥めるように言った。

 この人は、美樹さんと春華さんが似ていた方が良いと思っているかのようだ。


「美樹さんには雅ちゃんがいるのに……」


 桃花は不満そうに呟いた。

 そういえば、こいつは、美樹さんの妹である館腰雅の親友であるはずだ。


「そうね。黒崎君、それを雅や玲奈ちゃんの前で言っては駄目よ?」


 先生は、わざわざ念を押してきた。

 まるで脅すような口調である。


「……すいません」


 やはり、美樹さんと春華さんを同視するような発言には問題があるのか……?

 そのあたりの距離感のようなものが、よく分からない。



 その後、俺は余計なことを言わないようにした。

 本当は、イレギュラーの時のことや、美樹さんの魔法について質問したかったのだが……迂闊な言動をすると、知らないうちに、周囲の激しい怒りを買いそうだったので自重した。


 食事の後、帰る時になって、大河原先生は玄関まで見送りに来てくれた。

 先生だけでなく、美樹さんと桃花も来ている。

 多賀城先輩や十条先輩は、美樹さんに遠慮して来なかったようだ。


「黒崎君、今日は来てくれてありがとう」

「いえ……色々と、ありがとうございました」

「ぜひ、来年の私の誕生日には招待させて。できれば、玲奈ちゃんも一緒に」

「それは……」

「約束はしてくれなくても構わないわ」

「……」

「桃花、黒崎君を家まで送ってあげて」

「はーい」

「ちょっと待ってください! 俺は、こいつに送ってもらうんですか!?」

「心配しないで。この子は、私の指示だったら守るわ」

「そうだよ、安心してよ」

「……」


 不安だ……不安すぎる……。

 こいつ、さっきの恨みで、俺を痛め付けてから記憶を消したりしないだろうな……?


 そんなことを恐れている俺に、桃花は恋人のように抱き付いてきた。

 だが……あまり嬉しくない。

 早見に匹敵するほどの美貌とスタイルだというのに、相手の人格が、ここまで気分に影響するとは思わなかった……。


「仲良しですね。本当の兄妹のようです」


 美樹さんは嬉しそうに言った。

 皮肉ではなく、本心からそう思っているようだ……。


 というか……「本当の」兄妹みたいだという言葉は、俺達が義理の兄妹だということを前提とした言葉なのでは……?


「当たり前じゃないですか。私、妹としては完全無欠なんですから。どんなに駄目な兄でも、私なら問題ありません」

「おい……」

「桃花さんは頼もしいですね」

「……」

「和己さん。玲奈さんのことをよろしくお願いいたします」

「……できるだけのことはするつもりです」

「ありがとうございます」


 美樹さんは、微笑みながら俺の手を取った。

 それを見た先生と桃花は、悲鳴に近い声を出した。

 まるで、美樹さんが俺にキスでもしたかのような、過剰な反応である。


「いずれ、私の家にもご招待させてください」

「……分かりました」

「では、桃花さん。和己さんをお願いいたします」

「任せてください!」


 やたらと張り切った桃花に引っ張られるようにしながら、俺は先生の家を後にした。



「……」

「お兄ちゃん……まさか、美樹さんにも惚れちゃったわけじゃないよね?」


 歩きながら、俺は美樹さんに握られた手を見ていた。

 それを見た桃花は、こちらを睨みながら言った。


 そうだとしたら、生かしておくわけにはいかない……そう思っているように見える。


「そんなわけないだろ」


 俺は、はっきりと否定した。


 いくら相手が美人でも、恋愛の対象として見てはいけない相手がいるのは当然のことである。

 生徒会長や神無月先輩と同じように、並の人間が交際を申し込めるような相手ではない。


 それに、美樹さんが春華さんの代わりなら、迂闊なことをすると宝積寺に殺されかねない。


 俺は、もう一度だけ自分の手を見た。

 美樹さんのことが気になるのは、異性として意識したからではない。

 あの人の手の感触が、記憶にあるものに似ていたからだ。


 改めて、美樹さんの容姿を思い浮かべる。


 あの人が似ているのは、俺のイメージした春華さんではなくて……。

 そこまで考えてから、それを打ち消した。


 これ以上考えると、思わず口に出してしまいそうだ。

 その考えが勘違いであっても、事実であっても、桃花に言ったら即座に抹殺されそうだ……。


 桃花は、疑うような目でこちらを見ている。

 俺は目を逸らした。

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