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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第194話 館腰美樹-2

 俺が美樹さんと藤田先輩を眺めていると、ワゴンに乗せられた料理が運ばれてきた。

 どうやら、事前にほとんどの準備を済ませておいたようだ。


 つまり、俺が食事をすることは、事前に決まっていたということだ。

 栗橋や矢板は、今日の出来事について、どの程度まで知っているのだろうか……?


 テーブルに並べられた料理は、刺身や生野菜のサラダなど、保存のききにくい物が多かった。

 そういえば、こういう物は最近食べていない。

 少し嬉しい気分になったが、複雑な感情も湧いた。


 まるで、自分の生活を覗かれていたようだ。

 毎日メールを見られていたとはいえ、詳細なメニューを書いていたわけではないのだが……。


 そんなことを考えながらも、料理自体には問題なさそうなので遠慮なく食べる。

 この町は海から遠いはずなので、これはご馳走なのだろう。


 ちなみに、食事を始める前に、藤田先輩は自分の席に戻っている。

 容姿は小学生に近いが、さすがに、美樹さんに食べさせてもらうわけではないらしい。


 厚めに切られたサーモンを口に入れながら、俺は美樹さんのことを観察した。


 紅茶を飲んでいる美樹さんは、とても大人っぽい雰囲気を纏っている女性だ。

 しかし、同時に可愛らしい印象も受ける。年齢不詳とはこの人のことだろう。

 少なくとも水沢さんよりは年上なのだから、22歳以上のはずだが……。


 そんなことを考えていると、美樹さんは視線に気付いた様子でこちらを見た。

 俺は気まずくなって目を逸らした。


「和己さん。私からも、お礼を言わせてください」

「お礼……?」

「春華さんが外に行ってしまってから、玲奈さんは学校にも通えなくなってしまいました。あの方が外出できるようになったのは貴方のおかげです」

「いや、それは……俺が何かをしたわけではないので……」


 あれは、完全に偶然による出来事だった。

 そもそも、俺は宝積寺が引き籠もっていたことすら知らなかったのだ。


「和己さんは、玲奈さんにとって大切な存在になってくださったのです。結果として、玲奈さんが以前のように振る舞えるようになったのであれば、喜ばしいと思います」

「……そういえば、美樹さんと宝積寺って、どういう関係なんですか?」

「黒崎君……!」


 先生は、慌てた様子で声を上げた。

 さらに、藤田先輩や栗橋、矢板、そして桃花は俺を非難するような目で見てくる。

 多賀城先輩や十条先輩も、困った顔をした。


 想定外の反応に驚かされる。

 美樹さんに今の質問をすることが、そんなに問題のあることだとは思わなかったからだ。

 宝積寺は御倉沢から嫌われているが、花乃舞とも因縁のようなものがあるのだろうか?


「私達は、姉妹だと言っても良いでしょう」

「えっ……?」

「玲奈さんにとって、私は春華さんの代わりですから」


 美樹さんは、嫌そうな顔をすることなく答えてくれた。

 美樹さんの態度に、他のメンバーは複雑な表情を浮かべる。


「春華さんの……?」

「はい。春華さんが町から出て行く時に、玲奈さんに対して、私のことを実の姉だと思うように伝えてくださったのです。そのおかげで、玲奈さんは私のことを慕ってくださっております。私の中では、玲奈さんは実の妹と同様の存在です」

「ああ、なるほど……」


 以前、大河原先生が「実の妹のように思っている」と伝えた時に、宝積寺は微妙な反応をしていた。

 あれは、「春華さんの代わりを作るつもりがなかったから」ではなく、「春華さんの代わりは美樹さんだから」だったのだろう。


 しかし、宝積寺から美樹さんの話を聞かされたことはほとんどなかったはずだ。

 美樹さんが春華さんの代わりなら、もっと話題になってもおかしくない気がするのだが……?


「玲奈さんから、私についての話を聞かされていませんか?」

「……」

「それは、私が花乃舞の人間だというのが理由の1つでしょう。玲奈さんは、花乃舞のことを警戒していたはずです」

「いや、でも……美樹さんは例外だと思いますよ? 宝積寺は、美樹さんのことを信用しているはずですから」


 宝積寺は言った。

 イレギュラーの時のメンバーで仲間だったのは、あかりさんと白石先輩と美樹さんだけだったと。


 周囲が敵だらけである宝積寺は、他人を滅多に信用しない。

 ずっと親友であるはずの、早見のことですら信用していないのだ。


 あかりさんは春華さんの親友であり、白石先輩は春華さんから高く評価されていた。

 そして、どちらも神無月の人間である。

 あの2人と同格の存在だと思われているのだから、宝積寺にとって、美樹さんが特別な存在であることは間違いない。


「それよりも大きな理由として、私を姉のような存在として慕ってしまうと、春華さんに対して後ろめたいという気持ちがあるのでしょう」

「……そうするように指示したのは春華さんですよね?」

「簡単に割り切れるような話ではありません。玲奈さんにとって、春華さんはそれほど大きな存在なのです」

「……」

「私としては、玲奈さんが気持ちを整理できるまで見守るつもりでした。そのために、玲奈さんの家を時々訪れて、様子を確認しておりました」

「宝積寺の家に……?」

「はい。和己さんが隣に住むようになってからも、何回かは訪問したのですよ? お二人が学校に行ってらっしゃる時にも、何か変わったことがないかを確認したかったので、近くまで行ったこともありました」

「そうだったんですね……」


 全く気付かなかった……。

 俺が家にいなかった日も多いので、おそらくタイミングが合わなかったのだろう。


 そして、今の話を聞いて、1つの疑問が解消された。


 先生や早見が、俺の情報をメールから得ていたのであれば、リアルタイムでは監視していなかったということだ。

 だとすると、俺や渡波達が異世界人に襲われたタイミングで、美樹さんが駆け付けられるはずがない。

 花乃舞の人である美樹さんが、神無月の居住エリアを訪れて、御倉沢の女子達を助けたことが不思議だったのだが……宝積寺の家を時々訪れていたのであれば、俺の家の前を通りかかってもおかしくない。


 だが……毎日のように訪問していたわけではないのだから、この人が御倉沢の女子達を助けられる可能性は極めて低かったはずだ。

 つまり、ほとんど奇跡のような出来事により、あいつらは助かったということである。


 美樹さんは「守り神」だという早見の話を思い出す。

 この人……本当に運を操ったりできるのだろうか?

 そんなことができるとしたら、確かに神に近い存在なのかもしれないが……。

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