第18話 黒崎和己-2
頭がぼんやりとしている。
一体、何が起こったんだ……?
「黒崎君! 気が付いたのね……良かった……!」
俺が寝かされているベッドの脇から、一ノ関の声が聞こえる。
そちらに目をやって……これは夢じゃないかと思う。
俺のことを心配そうに見ている一ノ関が、とんでもない格好をしていたからだ。
「良かった……」
蓮田の声もした。
そちらを見ると、蓮田と、その隣にいる須賀川も、一ノ関と同じ格好をしている。
変な話をしたせいで、ヤバい夢を見ているのか……?
それとも、俺の頭はおかしくなってしまったのか?
「目が覚めたようですね。気分はどうですか、和己?」
一ノ関達の後ろから、生徒会長の声が聞こえた。
俺の視界を遮る位置に立っていた3人が、慌てて横に動く。
その時に、つい一ノ関を目で追ってしまい、慌てて目を逸らした。
「……最悪の気分ですよ。頭が痛いし、目眩がします……」
「貴方は、地下に降りて来た途端に倒れました。どうやら、急性魔素中毒のようです」
「……何ですか、それ?」
「今まで魔素の薄い環境で暮らしていた者が、急に魔素が濃い環境で暮らすと、身体に負担がかかります。通常であれば、倒れるようなことはないのですが……先ほど、随分と興奮したようですから、心身への負荷が一時的に限界を超えたのでしょう」
「……つまり、この町には、毒ガスみたいなものがあるってことですか? そういうことは、外から来た人間には、教えてくれないと困りますよ……」
「安心しなさい。貴方の身体は、既に大分慣れてきているはずです。もう一回倒れるようなことはないでしょう」
「……だったら、まあいいです。ところで……」
俺は、そこであえて言葉を切って、再び一ノ関達の方を見た。
やはり夢でないことを認識して、顔を逸らす。
「……一ノ関たちは、どうして、こんな場所で、白いビキニなんて着てるんですか?」
「貴方の決断を、後押ししようと思いまして」
御倉沢吹雪は、楽しそうな口調で言った。
こんな形で、女性を辱めて楽しむなんて……この女、本当に名家の当主であり、学校の生徒会長なのだろうか?
「……頭痛が酷くなった気がします」
「どうですか? 改めて、3人が欲しくなったでしょう?」
一瞬、興味がない、と嘘を吐きそうになって自重する。
通常であれば、そう言うべき場面なのだろうが……この3人の事情を考えれば、それが最善とは限らないのである。
じっくりと見たわけではないが、一ノ関だけでなく、須賀川と蓮田も、レベルが高いことは分かった。
この3人は、この町ではない場所に行ったら、相当な人気が出るだろう。
魔力の量とやらのせいで男と縁がないのであれば、住む場所を間違えているとしか思えない。
特に、一ノ関は、限界に近いボリュームである。
こいつを放っておく連中の気が知れない。
「まあ、俺も男なんで……ここが海かプールで、遊びに来たんだったら、遠慮なく鑑賞するんですけどね……」
「そうですか。この町には、海はありませんが、プールならあります。いずれは、4人で遊ぶ機会を設けると良いでしょう」
「……もう少し、配慮があるべきなんじゃないですか? これじゃあ、一ノ関達だって嫌な気分でしょうし、俺だって困るだけです」
「あら。水守たちがその格好なのは、貴方を喜ばせるためだけではありませんよ? 貴方が3人との結婚を拒否したら、この場で速やかに処刑するためです」
御倉沢吹雪がそう告げた瞬間、一ノ関たちが身震いしたことが伝わってきた。
「……それじゃあ、脅迫じゃねえか」
「そうはならないと信じています」
「……なあ、お前らはどうなんだ? 本心では、俺なんかと結婚させられるのは嫌だろ?」
俺は、怯えた様子の、一ノ関たちの方を見ながら言った。
脅されたために従っているだけで、本当は嫌がっているのだとしたら、対応を考える必要がある。
3人は、互いに顔を見合わせていたが、やがて須賀川が口を開いた。
「吹雪様のご命令だから、私達は従うだけよ」
須賀川は、さも当然のことのように言った。
不満を押し殺している様子が、全くないことに驚く。
「……結婚だぞ? 本当にいいのか?」
「当然よ」
「私も、相手が黒崎君なら不服はないわ」
「マジか……」
信じ難いことに、一ノ関は、この結婚に乗り気なようだ。
命令がなくても結婚する、とでも言いたげな様子である。
「……そうだね。突然だったから、ビックリしたけど……私も、嫌だとか、そういう気持ちはないよ? むしろ……」
「……何だ?」
「……黒崎君の方こそ、私と結婚してもいいの? 水守も鈴もいるのに……」
「……」
蓮田は、何故か不安そうに俺を見ている。
俺が、蓮田だけは要らない、とでも言うと思っているのだろうか?
「何言ってるのよ! 1人だけ除け者にするなんて、私が許さないから!」
「……」
須賀川は、俺が結婚相手の人数を減らしたら、怒るらしい……。
こいつらには、三股をかけられる、という認識はないようだ。
頭の中で、色々なことを考える。
しかし、この場を凌ぐ以外に、方法は思い浮かばなかった。
「……分かりましたよ。生徒会長、俺はこの3人と結婚します」
「まあ、良かった。ご結婚、おめでとうございます」
「……」
こんな結婚の、どこがめでたいというのか?
俺はため息を吐いた。




