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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第187話 大河原桃花-6

 俺を部屋に押し込んだ大河原は、扉に鍵をかけると、俺を部屋にあったベッドの上に座らせて、さらに後ろ手に手錠をかけた。


「ごめんね、お兄ちゃん。しばらく、そのままで我慢してね」

「俺を……どうするつもりだ!?」

「もう、そんな顔をしないでよ。本当に、痛いことをするつもりはないんだから」


 そう言いながら、大河原は宥めるように俺の頭を撫でた。


 しかし、とても信用できない。

 この女は、生粋のサディストなのである。


「……何もしないなら、どうして俺を拘束するんだ?」

「何もしないなんて言ってないよ。痛いことはしないだけだから」

「まさか……痛くないように殺すなんて言わないだろうな!?」

「安心して。私が、お兄ちゃんを殺すはずないでしょ?」

「……」

「信用してくれないの? ていうか、殺されたくないのなら、どうして今まで、自分を襲撃した人間を探そうとしなかったの?」

「……」


 仕方がなかった。

 交友関係の広い早見ですら、こいつが光を操る魔法を使えることを知らなかったのである。

 宝積寺は交友関係が狭いし、御倉沢の女子は他の家の人間と距離がある。


 今にして思えば、先生にも質問すれば良かったが……それは、犯人がこいつだったと知ったから言えることだろう。

 それに、光を操る魔法についてはともかく、こいつが胸にさらしを巻いていることについては、先生に質問しても教えてくれた可能性は低い。


 それだけではない。あの事件以来、様々な出来事への対応に追われていたために、犯人を捜す余裕がなかったのである。


 俺は魔力放出過多で、少しでも役に立つためには訓練が必要だった。

 戦えなくても、異世界人を説得するために駆り出された。

 そして、異世界人に誘拐されそうになった。


 要するに、俺自身の能力に対して、対応しなければならない問題が多すぎたのである。


 そもそも、御倉沢の連中には、あの事件が夢であったかのように軽く流された。

 俺の存在によって、御倉沢と神無月の一体化が促進されるなんて、誰も考えていなかったのである。

 周囲の人間が真剣に考えていないのに、俺だけで犯人を突きとめるなんて不可能だ。


「お兄ちゃんって、誰も積極的に犯人を捜そうとしなかったから、どうしようもなかったと思ってるでしょ?」

「……」

「でも、自分の命が狙われている時には、自分が一番必死になるのが普通だよ。どうして、知り合いの全員に、自分を襲った女を捜すように訴えなかったの?」

「それは……」

「特に、宝積寺先輩には何も言ってないでしょ? この町で、自分の彼女が一番強いと思ってるのに、守ってもらおうと思わなかったのはおかしいんじゃない?」

「……」


 当然、宝積寺に守ってもらうことは考えた。

 だが、現実的に考えると、宝積寺に四六時中守ってもらうのは不可能だった。

 俺とあいつは、隣に住んでいたが、同棲していたわけではないのである。


 それに、宝積寺に守ってもらいながら、御倉沢の女子と生活することなど不可能だ。

 御倉沢の連中は、宝積寺のことを嫌っているのである。


「お兄ちゃんは、自分の命を守ることよりも、御倉沢と神無月との関係を、両方続けることを選んだんだよね? というより、蓮田先輩達と宝積寺先輩のどちらかを選べなかったんでしょ?」

「……」

「お兄ちゃんは馬鹿だよ。そんなに女が好きなの?」

「……俺に、御倉沢の女子との関係を命令したのは生徒会長だ。逆らえるはずがない。だが……宝積寺からは離れられなかった」

「もっと根本的な理由があるでしょ?」

「……」

「結局、お兄ちゃんは私に脅されたけど、殺されることはないと思ってたんだよ」

「それは……」

「確かに、吹雪様の命令を拒否するのは難しかったよね。それに、宝積寺先輩と別れるのが難しかったのも理解できるよ。でも、それは犯人を捜さない理由にはならないでしょ? 犯人を捜さなかったのは、本当に殺されるとは思ってなかったからだとしか考えられないんだけど?」

「……殺される理由がなかった。御倉沢と神無月の接近なんて、的外れだったからだ」

「違うよ。お兄ちゃんって、要するに女を舐めてるんだよ」

「……」

「外では、女の方が、男より腕力も体力も低かったんでしょ? その感覚がお兄ちゃんに染みついているから、本気で犯人を捜そうと思わなかったんじゃないの? お兄ちゃんを襲ったのが男だったら、宝積寺先輩に守ってもらうか、吹雪様に守っていただくかを選んだはずだよ」

「……」

「それは、宝積寺先輩がお風呂を借りた時も同じだよね? 宝積寺先輩が、お兄ちゃんの家のお風呂を借りた時に、もしもお兄ちゃんが覗いたら……宝積寺先輩は、お兄ちゃんをお風呂場に連れ込んで、殺してバラバラにしたはずだよ。返り血は洗い流せばいいんだから。お兄ちゃんは、それが分かってないんだよね?」

「……ちゃんと分かってる。宝積寺は、本気で俺を殺すつもりだった。お前に言われなくても……」

「嘘だよ」

「……」

「お兄ちゃんって、宝積寺先輩がこの世界の人間を殺すとは思ってないでしょ?」

「……」

「言っておくけど、宝積寺先輩は、もう何人も殺してるんだからね?」

「まさか……!」

「間違いないよ。この町って、最近の何年かは、毎年、何人かが行方不明になってるの」

「……!?」

「知ってると思うけど、この町の住人にとっては、人を殺して埋めることなんて簡単だから。森に深く埋めたら、半永久的に見つからないよ」

「そんな状況で……御三家の連中は、犯人を捜そうとしないのか!?」

「しないよ。だって、犯人が宝積寺先輩だって暴いたら、大変なことになるから。まあ……さすがに、失うわけにはいかない人材がいなくなったら、本気で捜すと思うけど。そこまでじゃなかったら、外に脱走したことにした方が、皆が穏やかに暮らせるでしょ?」

「……行方不明者を、宝積寺が殺した証拠はないんだろ?」

「そんな証拠があったら、さすがに見過ごせないよ。でも……いなくなった人の半分以上が、春華さんに対していい感情を持ってなかったのは、偶然だと思う?」

「……」


 そういう疑惑もあるから、今の宝積寺の扱いになっているのだろう。


 もちろん、この女の言うことを鵜呑みにはできない。

 宝積寺は、花乃舞が暗殺を行っていると言ったのだ。

 この女は俺の日記を読んで、それを知っているはずである。

 ひょっとしたら、罪を宝積寺に押し付けようとしているのかもしれない。


 だが、多くの人間は、宝積寺が無実だとは考えないだろう。

 宝積寺が、この町の住民を何人も暗殺している……などということは、考えたくないが……。

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