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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第180話 大河原桜子-16

「……でも、宝積寺は、あかりさんを傷付けてしまったことについては気に病んでましたよ? ちゃんと、正常な部分があると思いますけど……」


 俺はフォローするつもりで言ったが、大河原先生は首を振った。


「玲奈ちゃんって、自分に好意を向ける人には優しいのよ。あかりさんのことを気にかけるのは当然だわ」

「……それじゃあ、計算高い女みたいじゃないですか」

「気付いてなかったの? 黒崎君ってピュアね」

「……」

「玲奈ちゃんって、ずっと春華さんに守ってもらっていたでしょ? だから、根っからの妹気質というか、箱入り娘ならぬ箱入り妹なのよ」

「箱入り妹って……」


 奇妙な表現ではあるが、言われてみれば、宝積寺は自分のことを全面的に肯定してくれる女性としか人間関係を作れていない。

 俺以外の男とは話をしている様子がなく、友達らしい友達なんて桐生しかいないように思える。

 一番親しい早見は特殊すぎるし、北上だって箱入り娘のような女だ。

 この町自体が特殊な場所なのだが、その町の中で成立している普通の環境からですら、隔絶されていた存在だと言ってもいい。


「だから、玲奈ちゃんって、自分に好意的な人を拒絶できないはずよ。その証拠に、女の子との恋愛をするつもりがなさそうなのに、梢の接近を断固拒否するっていうほどの態度じゃないでしょう? 身の危険を感じているなら、梢のことを殴ったりして、もっと強く拒んでいるはずだわ」

「確かにそうですね……」


 宝積寺は、栗橋だけでなく、早見にも強く出られない様子である。

 理由は1つではないのかもしれないが、あいつが好意を向けられるのに慣れていないのは間違いない。

 俺からアプローチしたときに、宝積寺を簡単に落とすことができたのも、男に言い寄られた経験が乏しかったからだったはずだ。


「だから、玲奈ちゃんがあかりさんに重傷を負わせてしまったときには、異世界人を殺していた時とは別人のように動揺していたわ。黒崎君を殴った時にも、同じような反応をしていたみたいね」

「怪我をさせたのが、自分に対して好意を向ける人間じゃなかったら、宝積寺は動揺しないんですか?」

「するわけがないでしょ。……いえ、あきらちゃんみたいに、そういう人の妹については例外なのかもしれないけど……」

「なるほど……」


 宝積寺は、姉妹の愛情に敏感である。

 あいつのことを嫌っている長町に襲われた時には、反撃して腕は折ったものの、それ以上に痛め付けるつもりはなかったようだ。

 黒田原に対する態度についても、「妹想いの姉」に対する、ちょっと柔らかいものだったように思う。


「ひょっとして……先生が、宝積寺に対して優しくしてるのって、宝積寺に攻撃されたくないからですか?」

「それもあるわ」

「……」

「でもね……玲奈ちゃんに同情しちゃったのよ。あの子がああいう子なのは、どう考えても先天的な要因が影響しているから。春華さんに受け入れてもらっても、他の人間で理解してくれるのは、アリスみたいな特殊な子だけで……そんな人生って、本人にとっては耐え難いはずよ」

「……そうなんでしょうね」


 春華さんがいなくなった後の宝積寺は、ほとんどの人間関係を絶ってしまった。

 おそらく、この町には自分の居場所がないと思ってしまったのだろう。


「玲奈ちゃんが異世界人を虐殺した後で、妹を庇ったせいで春華さんの人気は落ちてしまって……。生徒会長になるのはあの人だったはずなのに、代わりに私が生徒会長になったことには、私自身が一番驚いたと思うわ」

「生徒会長になる時に、先生は、全校生徒の前で謝罪したって聞きましたけど……」

「……さすがに、嫌われ者のままで生徒会長はできなかったもの。でも、ちょっと態度を変えただけで、同じ学年の男子が寄ってくるようになったことにはうんざりしたわ……」


 そう言って、先生はため息を吐いた。


 この人は、以前にも「モテても嬉しくなかった」と言っていた。

 先生は年下の男のことだけが好きなので、同じ年齢の男子には興味がないのである。


「そういえば、先生って、あかりさんの旦那さんから言い寄られてたんですよね?」

「その話はやめて。思い出したくないわ」


 先生は、予想以上に苦々しい表情を浮かべた。


「やっぱり、同じ年齢だから嫌だったんですか?」

「違うわ。あいつは私の胸が好きだったの。そういう男って気持ち悪いわ。生理的に無理だったのよ」

「……」


 やはり、先生は巨乳好きな男を嫌っているらしい。

 だとしたら、俺のことも、内心では良く思っていないのか……?


 そんなことを考えていると、先生がこちらを安心させるように笑いかけてきた。


「黒崎君も、胸の大きな女性が好きでしょ?」

「……そういう男の方が多いと思いますけど……」

「いいのよ。私、黒崎君が胸の大きな女性が好きでも受け入れられるわ」

「……俺が年下だからですか?」

「それも理由の1つよ」

「……」


 ヤバい……欲情しそうだ……。

 気分を変えるために、俺は咳払いをした。


「花乃舞家の当主は、当時の御倉沢家の当主が宝積寺の処刑を主張した時に、庇ったらしいですね? それはどうしてですか?」

「あら? 梅花様が玲奈ちゃんを守ろうとなさった理由が分からないの?」

「……花乃舞家の当主だって、宝積寺が異世界人を虐殺した現場にいたんでしょう? 楽しそうに人を殺す宝積寺を見て、危険だと思わなかったんでしょうか……?」

「危険だから庇ったのよ。玲奈ちゃんを処刑なんて、できるはずがないもの」

「……そうなんですか?」

「だって、玲奈ちゃんを殺そうとしたら、春華さんは命がけで守ろうとするはずよ。春華さんが玲奈ちゃんを守るなら、神無月だって2人を守ろうとするでしょう? たとえ花乃舞と御倉沢が束になっても、玲奈ちゃん1人にだって負けかねないのに、神無月全体と戦ったら全滅することは火を見るより明らかだわ」

「……つまり、宝積寺姉妹や神無月を敵に回したら勝てないから、妥協したってことですか?」

「当然のご判断よ。感情に任せて、玲奈ちゃんを処刑しようとした雪乃様の方が間違っているわ」

「……」


 それでいいんだろうか……?


 確かに、宝積寺姉妹を含めた神無月と戦っても、勝算は乏しかったのだろう。

 しかし、そういう理由で異世界人を虐殺した罪が消えるなら、まるで「力こそ正義」といった話のように思えてしまう。


 いや……それは仕方のないことなのだろう。

 この町は、日本の戦国時代とか、そういう世界に近い環境である。

 より力のある者の権利が認められるのは、自然なことなのかもしれない。


 それを当然のことだと認識されると、外から来た俺には、違和感が拭えないのだが……。

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