第17話 御倉沢吹雪-3
そこまで考えて、1つの説を思い付く。
保有している魔力の量に基づいて格付けされる、ということは……魔力の量が多い者だけに、人気が集中する、ということか?
「あの……こんなことを質問するのは、失礼なのかもしれませんけど……宝積寺や北上も、魔力が多かったりするんですか?」
「……和己。貴方は、神無月の女性にばかり関心があるのですね」
「す、すいません……」
「……まあ、良いでしょう。北上天音は、麻理恵と互角の魔力を有しています。宝積寺玲奈は、早見アリスに近い量ですね。ですが、誤解しないでください。麻理恵は、御倉沢でも最高に近い魔力を有しています。決して侮ってはなりませんよ?」
「分かってますよ……」
これで、俺の思い付きは補強された。
ひょっとして……大量に魔力を保有している女は、男に無用な興味を持たれないように、警戒心が強くなっているのではないだろうか?
平沢や早見のスカートが長めなのは、そのせいなのかもしれない。
そういえば、早見が男のことを激しく嫌っている理由について、俺は聞いたことがない。
例えば、あらゆる男が早見に関心を示して、言い寄っていたとしたら?
そういう環境で暮らしていれば、男のことを拒絶するために、言動が過剰になっても不思議ではないように思える。
逆に、自分が男に関心を持たれる可能性は低い、と思っている女子は、警戒心が乏しいはずだ。
だから、化け物と戦う時に下着が丸見えになることも、大して気にしないのだろう。
これについては、一ノ関が裏付けるようなことを言っていたから、間違いないはずである。
つまり……。
「……ねえ、黒崎君。貴方、良くないことを考えてないでしょうね?」
「い、いや……」
平沢に白い目で見られて、俺は頭の中に浮かびかけていた考えを、一旦全て消した。
考えていない。無警戒な女子のパンチラなら見放題だ、などと思っていない。
俺が否定しても、平沢は、俺のことを疑わしそうな目で見るのをやめなかった。
「和己。貴方は、女の子に対する欲求が旺盛なようですね?」
生徒会長は、からかうような口調で言ってきた。
「……そんなことはありませんよ! せいぜい人並程度ですから!」
「それだけあれば充分です。3人程度であれば、無理なく相手ができるでしょう」
「結婚するとなったら、体力だけの問題じゃないでしょう!?」
「子育ては御倉沢で面倒を見ますので、安心しなさい。貴方は、やることをやって楽しむだけで良いのですから、気楽でしょう? その代わりに、男性には、外の世界における親権のようなものは存在しませんので、そのつもりでいてください」
「子供を作った後の心配なんて、まだしてませんよ! それ以前の問題じゃないですか! 3人同時に結婚して、俺はあいつらと、どういう関係を作ればいいんですか!?」
「身体だけの関係でも良いではありませんか」
「無茶苦茶だ!」
「和己。貴方が結婚を嫌がるのは、宝積寺玲奈のことを気にしているからでしょう?」
「……」
「あの子に対しては、私が手紙を書いて、使いの者に届けさせました」
「……手紙?」
「水守たち3人を貴方と結婚させる、と伝えるものです」
「もう決定事項かよ……。そういえば、俺が3人と結婚して、宝積寺が怒り狂ったら、どうするつもりなんですか?」
「あり得ませんね。宝積寺玲奈は、基本的には常識的な人間です。片想いをしている男性を取られて、凶行に及ぶような人物ではありません」
「常識的な人間は、ちょっとからかわれたぐらいで、相手の骨を折ったりしないだろ……」
「いいえ。あの子には狂信的なところはありますが、私から見れば、普通の女の子の域を出ておりません」
「狂信的……?」
「宝積寺玲奈の姉である、宝積寺春華。その者こそ、宝積寺玲奈にとっての神です」
「……!?」
「宝積寺玲奈が、常に髪に結んでいる赤いリボンは、姉からの贈り物です。あの子にとっては、神器にも等しい物でしょう。そんな大切な物を、子供っぽいと馬鹿にして引っ張ったりしたら、殺されても仕方がないと思いませんか?」
「……」
全身から血の気が引いていくのを感じた。
俺は、宝積寺と出会った頃に、あいつのリボンについて、似合っていると伝えた。
もしも、あの時……高校生が着ける物じゃないと思う、と正直に言っていたら……!
「ひょっとして、命拾いした、と思っていますか?」
「……」
「まあ、その話は良いでしょう。結婚については、水守たちと会って、話をしてから決めませんか? 今、地下室で待たせていますから」
「地下室……?」
「必要があれば、他者に邪魔されず、必要なだけのお仕置きを与えられる部屋です」
「そんな物騒な部屋が……!?」
「今では、ほとんど活用されていない場所です。私の姉が当主だった頃には、何人かの処刑が行われたようですが……私は、自分の姉に対して、それほど心酔しておりません」
「……」
「麻理恵、ご苦労様でした。貴方はもう帰りなさい」
「は、はい!」
平沢は、御倉沢吹雪に一礼して立ち去った。
2人だけになり、俺は生徒会長によって離れに案内され、その地下室へと連れて行かれた。
……そして、気が付くと。
俺は、仰向けになって、ベッドの上で寝ていた。




