表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/289

第178話 大河原桜子-14

「黒崎君は、春華さんが善人だと思う?」


 大河原先生は、こちらを見つめながら言った。


「それは……直接会ったことがないんで、何とも言えませんね……」

「春華さんの話を、玲奈ちゃんや私から聞いて、どう思ったの?」

「……正直に言えば、分からなくなりました」


 おそらく、春華さんには春華さんの言い分がある。

 宝積寺のような妹がいると、色々と思うことがあるだろう。


「じゃあ、利亜は? 善人だと思うの?」

「……先生が言うことも分からないわけじゃありませんけど、俺の印象では、やっぱり善人だと思います」


 白石先輩は、イレギュラーに対して、誰も積極的に動かない状況において、真っ先に戦おうとしたらしい。

 これは、なかなかできることではないだろう。


 先生からの評価は低いが、他の家の人間である藤田先輩や、先生の妹である大河原からも好かれていることを考えると、俺の印象は間違っていないはずだ。


「そう……。じゃあ、あかりさんは?」

「あかりさん……ですか?」

「ええ。あの人のことは、どう思うの?」

「そりゃあ……あの人は、なかなかいないほどの善人だと思いますけど……」

「……」


 先生は、大きなため息を吐いた。


「……ひょっとして、違うんですか? あかりさんにも、宝積寺みたいに、とんでもない裏表があるとか……?」


 そうだったとしたら……怖すぎる……!

 そんなことを考えたが、先生は首を振った。


「安心して。黒崎君が見たとおり、あかりさんは、ああいう人よ」

「……だったら、あかりさんは善人で間違いありませんよ」

「違うわ、黒崎君。大間違いよ」

「……どういう意味ですか?」

「あかりさんって、自分の前にいる人を疑うことができない人なの。そのせいで、イレギュラーの時に、何回も危ない目に遭ったわ」

「先生って……人の善悪の問題と、誰かが足手まといか否かの問題を混同してませんか?」

「他人に迷惑をかけるのは悪いことよ」

「それは、そうかもしれませんけど……さすがに、ミスをした人を悪人扱いするのはどうかと思いますけど……?」

「そうね。誰だってミスをするわ。でも、あかりさんは、私が何度も忠告して、春華さんからも『簡単に異世界人を信用してはいけません』と注意されて、美樹さんにも由佳さんにも楓にも注意を促されていたのに、異世界人に無防備に近寄って、優しく声をかけて、抱き締めて……そういう言動が原因で、2回も人質にされたのよ。それをただのミスだと言われたら、よほど心の広い人でなければ怒ると思うわ」

「……」


 それは、確かに迷惑だ……。

 しかし、やはり、それであかりさんを悪人扱いするのはおかしい気がする。


「あかりさんがそういう人だったら、イレギュラーに対応するメンバーから外せば良かったんじゃないですか?」

「神無月が外さなかったのよ。相手が、全く抵抗する気のない異世界人だったら、あかりさんに任せるのが一番確実だったのは事実なのよね……」

「だったら、誰かにあかりさんを守らせるとか……」

「当然、そうしたわ。だから、アリスはあかりさんを守るために使うしかなかったのよ。そのせいで、あの子が自由に動けなくなって、私達がどれだけ苦労したか……」

「えっ? 早見は、一番年齢が低いから、なるべく戦わないようにしたんじゃ……?」

「春華さんと美樹さんは、アリスをあまり戦わせるべきではないと考えていたらしいわね。他のメンバーも、アリスを温存することに賛成していたけど……そのせいで春華さんが無理をして倒れることになったんだから、原因はあかりさんにあると言うべきだわ」

「……ちょっと待ってください。異世界人は、戦うつもりのない連中が多いんですよね? 魔獣は、白石先輩や多賀城先輩でも問題なく倒せるはずでしょう? どうして、そんなに大変だったんですか?」

「イレギュラーは、異世界にとってもイレギュラーだったからよ。突然、こちらの世界に送り込まれたせいで、錯乱状態に陥っている異世界人や、疑心暗鬼に陥っている異世界人が多かったの」

「……」

「あかりさんは、善良な異世界人が錯乱している時には、相手を安心させる能力が高かったわ。あの人は、いい人っぽい雰囲気があるし、身体も小柄だから異世界人のウケが良かったのよね……。私や由佳さんが、どれだけ親身に接しても、あかりさんみたいにはいかなかったわ」

「足を引っ張るだけじゃなくて、ちゃんと役に立ったんじゃないですか」

「そうね。アリスが、あかりさんが異世界人に近付くのを制して、相手を観察してから対応したおかげでトラブルは減ったわ」

「……早見って、どうして、異世界人が安全か危険かの区別を付けられたんですか?」

「それは、アリスが他人を信用しないからよ」

「他人を……? あいつが信用してないのは男だけでしょう?」


 俺の言葉に、先生は首を振った。


「違うわ。アリスは、とっても疑り深い子よ。だから、他人を試すような言動をするのよ」

「……そうだったんですか?」

「ええ。その証拠に、あの子は自分と表面的に仲良くしようとする人を遠ざけるわ。そういう人間は、すぐに自分を裏切ることを認識しているのよ」

「でも、あいつは、自分に敵対しようとする人間のことは好きなんですよね?」

「そうよ。だって、敵は裏切らないもの」

「……」


 言われてみれば、早見が仲良くしている女子は、宝積寺を除くと早見に甘い連中ばかりだ。

 桐生はもちろん、北上や黒田原のような連中は、早見を裏切ったりはしないだろう。

 一見すると、早見は誰とでも親しげにしているが……ああ見えて、相手は慎重に選んでいたのか……。


「幼い頃から、周囲の人間の本性を観察していたアリスだからこそ、異世界人の演技を見抜くことができたわ。まあ……あの子の場合、勘の鋭さも人間離れしているのかもしれないけど……」

「早見ならあり得ますね」

「……とにかく、イレギュラーのせいで異世界人が動揺していたこともあって、春華さんの負担は予想以上に重くなったわ。そのことに、倒れるまで気付かなかったのは、私達も悪かったと思うけど……」

「そんなことになる前に、メンバーを増やせば良かったんじゃないですか?」

「……難しかったのよ。この町の人間って、皆が思っているよりも弱いんだもの」

「そうなんですか?」

「そうなの。だから、メンバーを増やしても、足手まといが多くなるだけかもしれなかったのよ。そのせいで、春華さんが倒れた後には、御三家の方々に加わっていただくしかなかったわ」

「その時に、あかりさんが、宝積寺も加えることを提案したんですよね?」

「……ええ。私や雪乃様は反対したけど、神無月が、強引に玲奈ちゃんを参戦させたわ。……本当に、あかりさんって余計なことしかしないのよね……」


 そう言って、先生は深々とため息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ