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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第173話 大河原桜子-9

「貴方達……前から言っているけど、利亜はやめておきなさい。相手が同性でも構わないけど、あの子だけは駄目よ」


 大河原先生は、苦々しい口調で言った。


「えっ? 白石先輩が、そんなに駄目なんですか?」

「駄目よ。利亜は、善意で他人に迷惑をかけるもの。はっきり言えば、私が一番嫌いなタイプの人間だわ」

「善意で……?」

「大河原先生……それを、黒崎君に話すのは……」


 多賀城先輩は、強めの口調で先生を制止した。

 他のメンバーも、この話を続けることには否定的な様子である。


「お姉ちゃん……利亜さんはいい人だよ? 私にも、とっても優しくしてくれるんだから」

「そうなんでしょうね。でもね、桃花。善意で誰かに害を与える人種は、周囲の人間にとって本当に厄介なのよ。その証拠に、貴方達だって、利亜に対して悪い感情を抱いていないわ。そうやって、自分でも気付かないうちに消耗していくものなの」

「白石先輩って……そんなに悪いことをしたんですか?」


 俺が尋ねると、先生は大きく頷いた。


「したわ。あの子が暴走したせいで、イレギュラーの時に、私達が対応することになったんだもの。そのせいで、たくさんの人の人生が狂ったのよ」

「でも……白石先輩は、この町を守ろうとしたんですよね?」

「この町を守ってほしいだなんて、誰もあの子に頼んでいないのよ? それなのに、自分だけで解決する力のない人間がしゃしゃり出てくるなんて、善意の押し売りよ」

「押し売りって……。イレギュラーの時には、御三家の当主が対応することになってたんですよね? それができなかったから、白石先輩が戦おうとしたんでしょう?」

「黒崎君……その話は……!」


 多賀城先輩は、慌てた様子で俺を止めた。

 他のメンバーは、非難するような目で俺を見た。

 御三家の当主を批判するようなことを言うのは、この町ではとても危険なことなのだ。


「それが余計だったのよ。御三家の方々が、戦いに赴く必要はないと判断したのに、それを踏みにじるようなことをするなんて……」

「戦う必要がないって……そんなわけがないでしょう? 『闇の巣』から、異世界人が押し寄せてくるんですから」

「アリスや平沢さんから聞いてないの? 私達には、異世界人と戦う必要なんてないの。ある程度の魔力があれば、魔獣を駆除するのは難しいことじゃないんだから、誰かが頑張らないと困るわけではないのよ」

「いや、そんなはずは……」

「そうなのよ。それなのに、利亜が暴走して煽ったせいで、春華さんがイレギュラーに対応することになったわ。神無月は、春華さんやあかりさんを戦わせず、温存しようとしていたのに……愛様にとっては誤算だったでしょうね」

「……」


 宝積寺とは正反対の評価である。

 こういう認識だから、先生はイレギュラーの時に、白石先輩に対して厳しい態度だったのだろう。


「その後で、花乃舞の中からも、利亜や春華さんと親しい人間が協力しようとしたわ。そのまま参加させたら、花乃舞も深刻な打撃を受けるおそれがあったのよ。それで、皆を宥めるために、美樹さんが参加することになったわ。私達にとって、美樹さんは絶対に失うことのできない、大切な人なのに……。仕方がないから、美樹さんを守るために、私も参加することになったのよ」

「先生は……この町じゃなくて、館腰美樹さんを守ろうとしたんですか?」

「そうよ。この町を守る必要なんてなかったんだもの」

「……おかしいでしょう? 確かに、異世界人は、敵意を持っていない連中が大多数なんでしょうけど、中にはファリアみたいな奴もいます。誰かが戦わないといけないんじゃないですか?」

「その戦いを、たったの数人で担うのがおかしいのよ。この町を守るために戦うなら、町の全員が戦うべきだと思うわ」

「俺も全く同感ですけど……いつも、御倉沢に戦いを押し付けている花乃舞の人間が、それを言いますか……?」

「押し付けてないわ。御倉沢が勝手にやっていることよ」

「勝手に、って……。はっきりと頼まれていなかったとしても、助ければいいじゃないですか」

「嫌よ。そんなことをしたら、御倉沢の連中に文句を言われるわ」

「文句を言われる……? そんなはずがないでしょう? 御倉沢は、罪人や魔女との戦いで、大勢の犠牲者を出したはずです。そのせいで人材不足になったんですよね?」

「えっ……?」


 驚きの声を漏らしたのは多賀城先輩だった。

 他のメンバーも驚いた様子である。


 矢板は、こちらを気の毒そうな目で見ながら言った。


「そっか……。黒崎君は外から来たのに、そういう風に言われたんだ……」

「……どういう意味だ?」

「本当はね、魔女なんていないの」

「……は?」


 きっと、俺は間抜けな表情をしていただろう。

 魔女が……いない……?


 混乱していると、栗橋が補足してくる。


「より正確に言うなら……こちらの世界に、異世界から、強大な魔力を保有する女性が派遣されたことはあります。しかし、実態としては、異世界における勢力争いを収拾するための追放であり、しかも派遣されたのは1人だけでした。他にも、異世界において、莫大な魔力を有する女性を集めて、こちらに送り込む計画を立てようとしたことがあるらしいのですが……実行されたことはありません」

「そんなはずないだろ! 俺は、魔女の話を、宝積寺から聞いたんだぞ!? 魔女がいないなら、どうして、あんなデタラメなことを……!?」


 宝積寺は、俺にとって、最も信頼できる情報源である。


 生徒会長や御倉沢の女子は、何らかの思惑で、間違った情報を伝えてくるかもしれない。

 だが、宝積寺は、俺に事実を黙っていたことはあっても、はっきりとした嘘を吐いたことはないはずだ。


 そう思ったが、先生は首を振った。


「玲奈ちゃんは、魔女が本当にいると思っているのよ」

「……どうして、そんなことに……?」

「それは、魔女の話を、春華さんに教えてもらったからでしょうね。玲奈ちゃんは、春華さんに言われたことを無条件に信じるもの。きっと、この町の森ではツチノコが数百匹以上も繁殖していると言われたとしても、春華さんの言葉なら正しいと認識したはずだわ」

「……春華さんは、どうして、妹に『魔女が来る』なんて嘘を……?」

「春華さんが作った話じゃないのよ。魔女がこの町を襲う話は、皆に危機感を持たせるために、意図的に流布されているの。だから、玲奈ちゃん以外にも、魔女が実在すると思っている人は少なくないわ」

「じゃあ……俺が話した時に、誰も魔女の存在を否定しなかったのは、魔女が実在すると思っているからだったんですね?」

「そうかもしれないわ。でも、たとえ魔女が実在しないことを知っていたとしても、実在すると思っている人には事実を伝えない方が良いとされているの。平沢さんや由佳さんあたりは、魔女はいないことを認識していると思うけど、そのことを黒崎君に伝えなかったんでしょうね」

「……魔女がいないなら、御倉沢が人材不足なのはどうしてですか?」

「それは、御倉沢の内紛の時に、自分達で殺し合ったせいよ」

「……そんな……」

「御倉沢は、『闇の巣』が出現する度に、この町を守ることを大義名分にして、異世界人を大量に保護しているの。だから、元々は、御三家の中でも一番人材が豊富で強かったわ。でも……内部で争って、殺し合いや粛正を繰り返して、今ではご覧のとおりよ」

「……」


 衝撃的な事実を聞かされて、俺の頭の中で、様々な考えが巡った。

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