第16話 御倉沢吹雪-2
「ちなみに、私達の学校の生徒会長は3年生です。貴方は違和感を覚えるかもしれませんが」
「……普通は違うんですか?」
「違和感がないのであれば良いのです。それでは、話を戻しますが……和己、貴方は、複数の女性と結婚するつもりはないのですね?」
「そりゃ……当然でしょう!?」
「そうですか。しかし、この町では、一夫多妻制を採用しています」
「世界には、今でも、そういう国があることは知ってますけど……ここは日本ですよ?」
「ですが、この町には、外の法は適用されません」
「そんなの無茶苦茶ですよ!」
「貴方が言う、日本という国の法だって、昔は一夫一妻制ではありませんでした。古文の授業で習ったのを、覚えていませんか?」
「時代錯誤じゃないですかね!?」
「なるほど。男性と女性の数がほぼ同じであれば、それでも構わないでしょう。ですが……この町に来て、女性の方が、男性よりも人数が多いことに気付きませんでしたか?」
言われて、俺は、この町に来て、高校に通い始めた時のことを思い出した。
そういえば……あの頃は、女子の割合が高いことに驚いた記憶がある。
「確かに……俺のクラスでも、女子が男子の3倍以上はいますね。先生も、男の先生を見たことがないような気がします」
「そうでしょう? つまり、1人の男性が複数の女性を相手にしなければ、バランスが取れないのです」
「だからって、俺が複数の女と結婚する必要はないでしょう!? もっと、女に飢えてる奴に任せればいいんですよ!」
「あら。貴方だって健康な男性なのですから、なるべく協力するべきではないですか?」
「いきなり3人は無理です!」
「困りましたね。貴方が断ったら、あの3人には、お嫁の貰い手がいなくなってしまいます」
「そんなことはないでしょう!? 3人とも、結構な美人じゃないですか!」
俺がそう言うと、生徒会長はため息を吐いた。
「分かっていませんね。この町の男性は、外の男性とは価値観が異なります。まずは前提条件があって、その条件を満たす女性に対して興味を持ち、それから相手のことを気にするのです。その条件を満たしていない女性の顔など、あまり気にしていません」
「じゃあ、例えば、伊原はどうなんですか!? あいつは、御倉沢の女の、顔とか胸とか、そんな話ばっかりしてましたよ!?」
「伊原……正人のことですか。あの子も、損な役回りを引き受けましたね」
「……どういうことですか?」
「あの子の価値観だって、この町の一般的な男性と同じです。正人が興味を抱いているのは、麻理恵のように、魔力に恵まれた女性だけです。あの子がいやらしい話を繰り返したのは、貴方の女性に対する関心を高めて、貰い手のいない女性を救うためですよ」
「……!?」
「外の男性は、女性の顔や身体を見て、そこから興味を抱くのでしょう? 正人は賢い子ですから、貴方をその気にさせるために、外の男性の情報を取り寄せて、勉強したのでしょうね」
「……ちょっと待ってください。じゃあ、この町の男は……魔力とやらを大量に持っている女が、一番いい女だと思ってるんですか?」
「そうです。男性だけではありません。女性も、魔力を多く持っている男性に惹かれます」
「意味が分からねえ……」
「理解できないのは、こちらも同じです。外の価値観だと、男性は、乳房が大きい女性のことを魅力的だと思うのだと聞きましたが、何故でしょうか? 赤ん坊に授乳するためにあるだけで、その必要のない年齢の者にとっては、何の意味もないものだと思うのですが?」
「それは……言葉では説明できませんよ……」
俺は首を振った。
そんな質問をするなら、この町の連中が、どうして魔力とやらを大量に持っている異性に惹かれるのか、その理由を論理的に教えてもらいたい。
それに、胸の大きさであれば、小さい方が好きな男だっているのだから、単なる個人の好みの問題だろう。
そこまで考えて、ふと、気になることが思い浮かんだ。
「ひょっとして、早見は魔力を大量に保有してるんですか?」
「早見アリス……ですか。麻理恵の前で、あの子の話をするのは控えなさい。可哀想ではないですか」
「いえ、吹雪様……私は気にしていません。アリスさんが私よりも多くの魔力を保有していることは、皆さんがご存知のことですから……」
平沢はそう言ったが、悔しさが滲み出ているような口調だった。
早見よりも魔力が劣ることを気にしていることは明らかである。
魔力の量という尺度は、こいつにとって重大なものらしい。
これで、色々な疑問が解けた。
しかし、分かってしまえば、真相は酷いものである。
伊原が、平沢を俺に勧めなかった理由……それは、平沢が大量の魔力を保有しているために、嫁の貰い手に困らないからだったのだ。
一ノ関が、俺に容姿を褒められて、やたらと照れていたのは、そういう経験がほとんど無かったからだろう。あいつの魔力は、平沢と比べて乏しいに違いない。
早見のような、最悪の性格の女が持て囃されているのも、魔力の量の関係で、人として最高に魅力的だと思えるからなのだろう。
まあ、考えてみれば……この町の外の人間だって、色々な基準を使って人間に格付けをしている。
学校であれば、テストの成績だったり、運動能力だったり。
大人でも、収入とか、持っている物や住んでいる場所で、互いを格付けしているように思える。
こいつらにとって、何よりも優先されるものが魔力の量だとされている、というだけのことなのかもしれない。
そういえば、こいつらは、俺も魔力を持っていると言っていたような……?
つまり、俺が知らないうちに、俺には理解できない尺度で格付けされていた、ということか?
それは、不快なことだと思った。




