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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第168話 栗橋梢-3

「書き置きを見て驚いたわ。随分と早く迎えに行ったのね?」


 大河原先生は、妹の頭を撫でながら言った。


「だって、私も黒崎先輩と話してみたかったから」

「そう……。でも、黒崎君や御倉沢の子達に迷惑だったんじゃないかしら?」

「黒崎先輩も、早くお姉ちゃんと会いたかったみたいだよ? ねえ、先輩?」


 そう言いながら、大河原はこちらに笑いかけてくる。

 だが、大河原の口調は、俺に否定を許さないものだった。


「桃花、黒崎君を脅かしては駄目よ?」

「脅かしてないよ。本当のことだもん」


 大河原は、俺と話していた時とは異なる口調と態度である。

 先生も、違和感のない様子で妹を受け入れており、普段からこういう態度で接しているらしい。

 大河原が先生に撫でられて気持ち良さそうにしている様子は、飼い主にしか甘えない猫のようだった。


「先生って……本当に、妹と仲がいいんですね」

「当たり前じゃない。嘘だと思ってたの?」

「いえ……やっぱり、お姉さんなんだなと思っただけです」

「あんまり、年上として扱われるのは嫌よ?」

「分かってますよ」

「先輩は、やっぱり、姉のことが好きなのではないですか?」


 俺を見ながら、大河原が、からかうように言ってくる。

 やはり、俺にはこういう口調で話すらしい。


「いや、好きなわけじゃ……!」

「そこは、強く否定するべきところではないように思うのですが」

「……恋愛感情はない」

「嘘ばっかり。先ほど、姉の姿を見た時に、惚れ直したような顔をしていましたよ?」

「……私服を見たのが初めてだっただけだ」

「先輩は、谷間が見えない服装の方がお好みですか?」

「……」

「駄目よ桃花。男の子には答えにくいことを、あんまり追及したら。黒崎君が困っているわ」


 大河原先生は、宥めるように言った。


「うん、お姉ちゃん。でも、綺麗な女性がいつもと違う服を着てたら、男なら『今日は一段と綺麗だよ』とか言うべきだと思うの」

「まあ、桃花ったら……。黒崎君に、そんなキザなセリフは言えないわよ」

「だったら、言えるように教育すればいいんじゃない? お姉ちゃんは先生なんだから」

「……そうね。でも、そういうことを平気で言えるようになったら、黒崎君が黒崎君でなくなる気がするわ」

「お姉ちゃんって、年齢だけじゃなくて、言動も子供っぽい男の子が好きだよね」

「そういう子の良さは、桃花には分からないかもしれないわね」

「うん。私、妹だもん。強くて頼りになる男が好き」

「そうよね」

「……」


 この2人……いつも、こんなノリなのだろうか?

 本人の目の前で、さりげなく馬鹿にするのはやめてほしいのだが……。


「ごめんね、黒崎君。桃花に限らず、花乃舞の人間は、思ったことを隠さないところがあって……。色々と言われて、不快よね?」

「いえ……」

「それと、朝早くに起こしてしまってごめんなさい」

「……まあ、俺の退院祝いなんで……待たせるのも悪いとは思います」

「そう言ってくれると助かるわ。さあ、中に入りましょう。皆も待っているわ」

「……皆? 誰か来てるんですか?」

「違うわ。この屋敷に同居している子達よ。同じ家に住んでいるのに、黒崎君を無視するのも悪いと思っているの」

「ああ……」


 先ほど、花乃舞は疑似家族が集まって同居していると聞いたばかりだ。

 しかし、先生と同居しているとはいえ、会ったことのない人達に退院祝いをしてもらうのはおかしい気がするのだが……。


「ひょっとして、気が進まないかしら?」

「いえ……」

「安心して。この家で同居しているのは、貴方も知っている子が多いから」

「俺が……知ってる……?」


 嫌な予感がした。

 俺が知っている花乃舞の人間なんて、それほど多くないからだ。


「お姉ちゃん。せっかくだから、誰がいるかは内緒にしようよ?」

「そうね」

「内緒って……」

「安心してください、先輩。すぐにご案内しますから」

「……」


 駆け寄ってきた桃花に手を引かれて、俺は家の中に入った。



 俺が案内された部屋は、まるでホテルの宴会場のような造りになっていた。

 あまりの広さに、ここが先生の家であることを忘れそうになる。

 そして、その部屋には5人の女性がいた。


「あ、黒崎君。退院おめでとぉ」

「矢板……!」


 見慣れた、暗い色の金髪を長く伸ばした矢板円は、長い脚を見せつけるような短いスカートを履いていた。

 こいつの私服は初めて見るが、制服の時は膝下のスカートなので、初めて見る脚線美のインパクトに驚かされる。


「黒崎君……ジロジロ見て気持ち悪ぅい」


 矢板が、自分の膝を押さえるようにしながら、からかうように言ってくる。


「……それが、退院を祝う相手に言うセリフか?」

「私、黒崎君のお祝いに来たんじゃないよ? この家に住んでるから、仕方なく来ただけだも~ん」

「お前なあ……」

「円。他の家の人に、いちいち喧嘩を売らないで。それに、貴方の脚は女性でも見ると思うわ」


 いつもと同様に眼鏡をかけて、髪を三つ編みにしている栗橋は、ため息を吐きながら言った。


「そう? 梢ちゃんだって、着飾ったら綺麗に見えるんだから、もっとオシャレをすればいいのにぃ」

「……余計なお世話よ」


 そう言いながら、栗橋は目を逸らした。


 確かに、こいつは眼鏡や髪型の印象が強いものの、顔立ちは美人だと言っていい。

 先ほどの反応から考えると……ひょっとして、地味に見えてほしいから、わざと今の格好をしているのだろうか?


 そんなことを考えていると、栗橋はこちらに近付いてきた。


「退院おめでとうございます、黒崎さん。既に先生から聞いているかもしれませんが、私達は、この家で先生や桃花と同居しています」

「そうか」

「私は、お祝いだけでなく、黒崎さんに謝罪したいことがあります」

「謝罪?」

「はい。私は、アリスさんに頼まれて、病院で貴方に嘘を吐きました」

「ああ……」


 栗橋は、俺と初対面だったはずの時に、俺と面識があるかのようなことを言った。

 病院で話した時には、その時点で面識があったことは否定したが……実は、俺の記憶は消されており、栗橋とは本当に面識があったのである。


「私は、黒崎さんと天音さんが一緒に歩いている時にお会いしました。その時には、失礼なことを言われて嫌な気分になりましたが……」

「……悪かった」

「いえ。私の方こそ、その事実を隠してしまい、申し訳ありませんでした」


 栗橋は深々と頭を下げた。

 やはり、こいつは花乃舞の人間の中でも比較的まともな人間なのだということを実感した。

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