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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第165話 大河原桃花-2

 一ノ関が、こちらに近寄ってきて言った。


「黒崎君……大河原先生を甘く見ては駄目よ」

「甘く見てるわけじゃないんだが……」


 先生は、本心を隠しながら、俺を誘惑しようとしていた。

 それを忘れたわけではない。


 加えて、あの美貌とスタイルだ。

 油断すれば、衝動的に触ってしまいかねない。

 そんなことをすれば、ただでは済まないだろう。

 きっと、責められて、「恋人になれば許す」などと言われるに違いない。


「先生は、去年……男子生徒を相手に、事故を起こしたわ」

「事故……?」

「その生徒の目の前で屈んだ時に、赤い下着を見せたのよ」

「そんなことがあったのか!?」

「先生のスカートは短いから……」


 そういえば、先生は、俺にはパンチラしないように注意しているように思える。

 それに、自分は地味な下着しか着けないと言っていた。

 どちらも、その事故があったからなのかもしれない。


「見せられた生徒は、ショックが大きすぎて吐いたらしいわ」

「!?」

「先生は、その生徒に対して、すごく馴れ馴れしくしていたらしいの。手を触ったり、肩を触ったり……。気持ち悪くて、やめてほしかったけど、先生には言えなかったらしいわ。先生が下着を見せたのも、きっと、わざとだったんでしょうね」

「……」

「年上の女性に抵抗のない黒崎君には、理解できないかもしれないわ。でも、この町の男の子は、年上の女性が生理的に駄目なの。そういう女性が、刺激の強い下着を履いていて、自分に見せてきたら……とても気持ち悪いはずよ」


 一ノ関にそう言われて、俺は想像した。


 もしも、老婆が赤い下着を履いていて、見せつけてきたら……吐きそうになるかもしれない。

 非常に失礼な例えだが、おそらく、そういうことだったのだろう。

 当時の先生は、高校を卒業してから、1年も経っていなかったはずなのだが……。


「ひょっとして、姉の悪口を言ってますか?」

「!?」


 いつの間にか家に上がっていた大河原桃花は、俺達を、不満そうな顔をしながら見ていた。

 激昂している様子はないが、かなり不快には思っているようだ。


「酷いと思います。姉は、昔は色々とあったようですが……今では、生徒思いの立派な教師になっているはずです」

「それは……」

「……」


 さすがに、大河原に文句を直接ぶつける度胸は、須賀川にも一ノ関にも無いようだ。

 大河原は、2人を黙らせると、今度は俺のことを見た。


「先輩は、姉は駄目な教師だと思いますか?」

「いや……」


 あの格好は教師として駄目だと思うが、それをこの場で指摘するのは気が引けた。


「良かったです。では、早く参りましょう?」

「いや、待ってくれ……。ちょっと、準備が必要なんだ」

「分かりました。では、私はこちらで待たせていただきます」

「……」


 俺は、心配そうな顔をしている一ノ関や須賀川をよそに、出かけるための準備をした。


 さらに、忘れずに親へのメールを送ろうとしたが、またしても想定外の時間がかかってしまった。

 特殊な環境に置かれて、それを誤魔化すために気を遣いすぎているのかもしれない。


「待たせて悪かったな」


 大河原のところに行ってそう言うと、不思議そうな顔をされてしまう。


「随分と時間がかかったんですね? 男性が出かける準備をする時には、あまり手間をかけないと思っていたのですが……」

「……ちょっとな」

「では、出発しましょう」


 連れだって出て行こうとした俺達に、一ノ関が近寄ってくる。


「黒崎君……」

「そんなに心配そうな顔をするなよ。敵の所に行くわけじゃないんだからな?」

「……」


 俺達は、不安そうな様子の一ノ関と須賀川を残して家を出た。



 大河原桃花は、俺の先に立って歩く。

 その後ろ姿を見ていると、早見のことを思い出した。

 胸の大きさを意識しなければ、早見と大河原の体格は、ほとんど同じであるように感じられる。


 この女……学年で1番良い女だと言われており、松島ほどの女が褒めるだけのことはある。

 個人的には、大河原の方がキツめの顔をしているので、早見の方が好みだ。

 だが、2人の容姿を比べたら、大河原の方が好きだという男がいても不思議ではない。

 まだ中学生だというのに、これだけ成熟した女になっているのは信じられないことだ。


 それにしても。

 この町の男が、年上の女を異性として意識しないということは……現在、中学生である男は、早見に惚れたり欲情したりしないんだよな……?

 それは、男としてどうなんだろうか?


 そんなことを考えていると、大河原は、振り向いてこちらを見た。


「先輩がお元気になられて、姉は大変喜んでいました」

「……そうか」

「姉は、新しい学年の担任になってから、先輩との授業が楽しくて仕方がない様子でした」

「そうだったのか?」

「はい。全ての授業を1人で行って、教師冥利に尽きるといった気分だったのではないでしょうか」

「……」

「でも……黒崎先輩がお付き合いをなさっている女性が宝積寺先輩だけではなくなって、姉も気が気でなかったと思います」

「それは……」

「御倉沢の方々は、残酷なことをなさいますよね。両想いの彼女がいる黒崎先輩に、蓮田先輩たちを、無理矢理だなんて」

「……」


 嫌な話題に触れられて、俺は何も言えなくなる。


 今、目の前にいる大河原桃花は、複数の女性と交際している男のことを良く思っていないはずだ。

 加えて、蓮田とは同じ部活に所属していたことがあり、仲が良さそうである。

 懸念していたことではあるが……内心では、俺のことを激しく嫌っているのか……?


「あっ、誤解なさらないでください。私は、黒崎先輩に対して悪い感情を抱いているわけではありませんので」

「……本当か?」

「だって、先輩は御倉沢から命令されたんですよね? 仕方のないことだと思います」

「……そうか」

「それに、私は、先輩に希望を見出しています」

「俺に、希望を……?」

「はい。姉は、年下の男性にしか興味がありませんから」

「……」

「妹の私が、こんなことを言うのはどうかと思いますけど……姉は、綺麗で、優しくて、知能が高くて、スタイルまで良いんですよ? どう考えたって、非常に魅力的な女性じゃないですか。先輩だって、そう思いますよね?」

「……そうだな」


 先生を「優しい」と表現するのは間違っていると思ったが、あえて訂正しなかった。


「でしょう? それなのに、何歳か年上だという理由で、女として見られないだなんて……とても理不尽だと思いませんか?」

「俺もそう思う」

「そうですか。それは良かったです」


 大河原は、満足そうに何度も頷いた。

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