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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第159話 白石利亜-2

 その後、俺と宝積寺、桐生は、先に帰ることになった。

 まずは桐生を家に送ることにして、俺達は神無月の人間が居住しているエリアに向かう。


「蓮田さんが元気になって良かったね!」

「……そうですね」

「渡波さんも体調が良くなってきてるみたいだし、須賀川さんと一ノ関さんは退院できたなんて、本当に良かったね!」

「……そうですね」

「渚ちゃんとは初めて会ったけど、とっても可愛いし、優しいし、いい子だね!」

「……そうですね」

「飛鳥さんの妹さんは、小鳥ちゃんも雛ちゃんも綺麗でビックリしちゃった!」

「……綺麗ですよね」


 相変わらず、話すのは桐生であり、宝積寺は相槌を打っている。

 だが、桐生と話している時の宝積寺は、少しだけ楽しそうな顔をしていた。


 珍しい表情である。

 俺と話す時には、宝積寺は、こんな顔をしないな……。

 俺が男だからなのだろうか?

 だが、他の女子と話す時にも、宝積寺は楽しそうではない。


 相手が桐生だから、こんな顔ができるのだろうか……?

 そういえば、延々と話している桐生だが、長町姉妹との関係など、デリケートな話題には一切触れていない。

 こういうところが、敵の多い宝積寺を安心させて、好かれるところなのかもしれない。



「玲奈さんも黒崎君も、送ってくれてありがとう」


 一軒の、大きな家の前まで来たところで、桐生がそう言った。


「お前……まさか、この家に住んでるのか?」

「そうだけど?」

「……」


 俺は、目の前の家を、改めて確認した。

 この家は……早見の家よりも大きいように見える。


 外から来た人間に対して、扱いが良すぎるのではないだろうか?

 神無月の方針として、外から来た人間は厚遇することにしているのか?

 それとも、桐生の魔力量が莫大だからこその扱いなのだろうか……?


「美咲」


 聞き覚えのある声の女性が、後ろから桐生を呼んだ。


「あっ、利亜さん!」

「白石先輩……?」


 白石先輩は、前に会った時と同様の、露出の多めな私服を着ていた。

 こういう服を着ていても下品ではなく、エロさを感じさせないのが、この人の特徴である。


「久し振りだね、黒崎。玲奈、美咲を送ってくれてありがとう」

「いえ……」


 そういえば、長町だけでなく、白石先輩も、記憶を消される前の俺と訓練をしたりしていたはずだ。

 その頃の俺は、この人と、どんな関係だったのだろうか……?


「美咲。僕は2人に話があるから、家に入っていてくれないかな?」

「分かりました。今日も、よろしくお願いします」

「任せてくれ」

「じゃあ、玲奈さん、黒崎君。また明日ね」

「……はい」

「ああ」


 桐生は、俺達に手を振ると、自分の家に入っていった。


「黒崎、君には悪いことをした。愛やアリスに協力を頼まれた時には、まさか、こんなことになるとは思わなかったんだ」

「白石先輩は、神無月先輩の親友なんでしょう? 頼まれたら、断りにくかったのは理解できます」

「愛やアリスに協力した理由は、それだけじゃないんだ……。イレギュラーの時、僕はメンバーの中で一番魔力が少なかったからね……。あまり役に立てなくて、大河原先生には、『足手まといだ』とか『虎の威を借る狐だ』とか、何度も嫌みを言われたよ。否定できない指摘だったから、余計に悔しくてね……」

「……」


 渡波が言っていたことは本当だった。

 大河原先生は、他の家の人間に対しては、情け容赦なく喧嘩を売っていたようだ。

 さすがに、神無月家とつながりのある早見のことだけは攻撃できなかったようだが……神無月先輩の親友である白石先輩に対しても、平気で暴言を吐いていたようである。


「でもね……一番悔しかったのは、玲奈が異世界人を簡単に倒してみせたことだった。大した力もないのに、先頭に立っているつもりだった僕は愚かだったよ……」

「利亜さん、それは……」

「いいんだ、玲奈は悪くない。でも……あの後で、僕は、自分の存在価値が分からなくなってね。だからといって、『男に戦場に立ってもらおう』だなんて、馬鹿な考えに賛成したことは後悔しているよ。僕も、内心では、誰かに守ってほしかったのかもしれないな……」

「……」

「すまなかった、黒崎。玲奈にも、本当に迷惑をかけて悪かった。謝って済む問題じゃないことは分かっているけど……」

「……お姉様は、いつも、利亜さんを褒めていらっしゃいました」

「えっ……?」

「利亜さんは、友達や仲間を大切になさっています。誰かのために、損得を考えずに戦うことのできる人であると……。誰にでもできることではありません。私は……お姉様の代わりに戦わなければ、と思って戦場に赴きました。ですが、それは、異世界人と戦っても勝てると確信していたからです」

「……」

「ですが、利亜さんは違います。貴方が打算も計算もなく戦ってくださったおかげで、お姉様は、自ら戦場に赴いて戦う決意をすることができたのです」

「僕が戦わなくても、春華さんは、自分で戦おうとしたと思うけどね……」

「お姉様だけではありません。決して好戦的ではない美樹さんやあかりさんが、躊躇せずに戦場に向かったのは利亜さんのおかげです。……ありがとうございました」


 宝積寺は、白石先輩に頭を下げた。


 意外だった。

 こいつが、ここまで白石先輩に感謝していたとは……。

 それは、当事者である白石先輩にとっても同じであるようだった。


「よしてくれよ……。あの頃の僕は、ただ無鉄砲だっただけさ。今、同じことをやれって言われても、できるか分からないよ?」

「イレギュラーの時のことだけではありません。美咲さんのことを守っていただいていることについて、私からもお礼を言わせてください」

「当然のことだよ。美咲は、神無月が招いた子だからね。玲奈だって、黒崎の面倒を見てるじゃないか。大変だっただろう?」

「……いえ。私が、自分でやったことですから……」

「白石先輩。記憶を消される前の俺は、どんな人間だったんですか?」


 俺が尋ねると、白石先輩は少し考えるような仕草をした。


「あの頃の黒崎は……やる気に満ちていたね。少し無理をして、空回りしている印象も受けたけど……天音やアリスにいいところを見せたくて、張り切っていたと思うよ」

「……」


 信じられない……。

 まるで、俺とは別人のようだ。

 北上を恋人にしたことで、調子に乗っていたのかもしれない。


「でも、天音は大人しい子だから……君がああいうテンションだったのは、アリスが煽ったからだと思うな。アリスは、本気で、君を勇者のようにしたかったんだろうね」

「そうですか……」

「天音は、君を褒めて、励まして……君とアリスのために、献身的に取り組んでいたと思うけど……さすがに、君もおかしいとは思い始めている様子だった。あのままだと、いずれ、自分がただの呼び水だと気付いてもおかしくなかったんじゃないかな」

「……」


 こういう場合……自分が、完全な馬鹿じゃなかったことを喜ぶべきなのだろうか?

 だが、この町の連中は、オリンピック選手すら上回る身体能力を持っているのだから、どれだけ鈍い人間でも、おかしいと思うタイミングはあるだろう。


 散々おだてられた後で、真実を知ったら、どれだけショックだっただろうか……?

 ひょっとしたら、記憶を消されて良かったのかもしれない。そう思った。

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