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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第15話 御倉沢吹雪-1

「はじめまして、黒崎和己。私が現在の御倉沢家の当主、御倉沢吹雪(ふぶき)です」


 並んで座布団に座った、俺と平沢の前に現れた若い女が、そう名乗った。


 俺は言葉を失う。

 御倉沢家の当主、などというから、偉そうな高齢の爺さんが出てきて威張るのだろうと思っていたのだが……。


 御倉沢吹雪を観察する。

 青と白を中心とした色の和服を着た、黒髪の美女だ。

 年齢は、大河原先生と同じか、少し若い程度だろうか?


 目の前の女には、溢れ出すような気品があった。

 黒髪の美人といえば、平沢も宝積寺もそうだ。その2人だって、令嬢のような、上品な雰囲気を持っているが……目の前の女は、その2人と比べたとしても異質な存在だということが直感的に分かる。


「麻理恵も、いつもご苦労様です」

「勿体ないお言葉です」


 平沢は、恭しく頭を下げた。


「さて、挨拶はこのくらいにしておきましょう。堅苦しいのは苦手でしょう?」


 御倉沢吹雪が、俺に笑いかけてくる。

 警戒心を抱いていなければ、一目惚れしてもおかしくない笑みだった。


「……俺は、どうしてここに呼ばれたんですかね?」


 最低限、失礼にならないように話す。


「ちょっと、黒崎君! 水守さんたちのことで話があるって、伝えておいたでしょ!?」

「そのことについては、宝積寺と俺が、もう決めただろ?」

「決定権者は、あくまでも吹雪様よ。玲奈さんと貴方の言葉は参考にしかならないわ」

「宝積寺を怒らせたくないんじゃなかったのかよ? 余計なことは、しない方がいいんじゃないのか?」

「それはそうだけど……」

「和己」


 御倉沢吹雪から、いきなり呼び捨てにされて驚く。

 唐突さだけでなく、それが自然で、さも当たり前であるかのように感じたことが驚きだった。


「……何ですか?」

「貴方が、水守たちに対して慈悲深い裁定をしたことに、感謝しています」

「俺は……当然の判断をしただけで……」

「ですが、残念ながら……あの3人に何の罰も与えない、というわけにはいきません」

「……!」

「そんな……吹雪様!」


 平沢が訴えかけるように叫んだが、御倉沢吹雪は首を振った。


「今回の件で、何の罰も与えなければ、麻理恵の面子が傷付きます」

「私のことなど……!」

「麻理恵。私は、貴方を信頼して現場を任せています。貴方の指示を無視した者を、何の罰も与えずに見逃すわけにはいきません」

「ですが、玲奈さんは、黒崎君が望んだ罰よりも重い罰は望まないと……!」

「そうですね。しかしながら、神無月の人間の言葉を、そのまま受け入れるわけにはいきません」

「……」

「……あの3人は、神無月の人間に騙されたんですよね? だったら、部下を責めるより、神無月に抗議する方が先なんじゃないですかね?」


 俺が指摘すると、御倉沢吹雪は頷いた。


「それは、もっともな意見ですね。しかし、今回の出来事は、客観的に見れば、ちょっとした悪戯でしょう? その程度のことで、他の御三家に抗議などできません」

「……その程度のことなら、大事になるような罰は与えないでくれませんか?」

「はい。そこで、私も考えました」


 御倉沢吹雪は、悪戯っぽく笑った。

 何となく嫌な予感がする。この女は、良くないことを企んでいるような気がしたのだ。


「黒崎和己。貴方は、あの3人と結婚しなさい」

「……は?」


 何を言われたのか、全く理解できなかった。


 結婚?

 一ノ関たちと?

 3人と結婚って、どういう意味だ?


「……吹雪様! それは……あんまりではないでしょうか!?」

「あら、どうしてですか?」

「それは……黒崎君と水守さんは、単なるクラスメイトで、最近までは話をしたことすらなかったんですよ!? ましてや、鈴さんと香奈さんは、彼と一度会っただけです!」

「それのどこが問題なのですか? あの子達にとっては、充分な魔力を有する男性であれば、相手がいるだけで良いでしょう?」

「ですが……! 彼女達は、互いに親友なんですよ!? そんな3人が、1人の男性を共有するなんて……!」

「貴方ならそう思うでしょうね。ですが、あの子たちならば、自分と縁遠い女性の夫と肉体関係を持つよりは、心理的抵抗が軽くて済むかもしれませんよ?」

「そんな……!」


 理解できない話の流れだったので、俺は口を挟んだ。


「あの……質問してもいいですか?」

「どうぞ」

「あんた達の話を聞いてるとですね……まるで、俺が一ノ関たち3人と、重婚する話をしているように聞こえるんですけど……俺の勘違いですよね?」

「その認識で間違っていません」

「はあ!? 何だそりゃ!? 頭がおかしいんじゃねえのか、あんた!?」

「黒崎君……!」

「落ち着きなさい、麻理恵。彼の反応は、外の世界の人間としては正しいものです」

「吹雪様、ですが……!」

「麻理恵」

「……」


 御倉沢吹雪に気圧された様子で、平沢は黙り込んだ。


「和己。突然の話で、さぞ驚いたことでしょう。ですが、安心しなさい。私の命令を聞いて、水守たち3人は、既に受け入れる覚悟ができています」

「いや、意味が分かんねえよ! 何だよ、3人と結婚って!? そんな無茶苦茶な命令に従うなんて、ありえねえだろ! 従わなかったら、あんたに殺されるとでも思ってるんじゃないのか!?」

「落ち着きなさい。順を追って説明します」

「……」

「ただ、その前に……どうやら貴方は、私が誰なのか、覚えていないようですね?」

「……御倉沢家の当主だろ?」

「そのことではありません。記憶の片隅にも残っていないようなので言ってしまいますが、私のことは、御倉沢先輩か、生徒会長とでもお呼びなさい」

「……生徒会長?」

「黒崎君、覚えてないの!? 入学式の時に、吹雪様がお話しなさっていたでしょう!?」

「いや、俺は、入学式の時には居眠りしてたからな……」

「信じられない……」


 平沢は頭を抱えた。


 俺は、改めて御倉沢吹雪を見る。

 この女……まだ高校生だったのか……。

 あまりにも貫禄があるので、俺と歳がほとんど同じだとは思わなかった。若く見えるはずである。


 それにしても……女子高生が当主というのは、一体どういうことなのだろうか?

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