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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第157話 松島渚-3

 長町は、俺を広い部屋に連れて行った。

 その部屋には、松島と黒田原、そして渡波がいた。

 さらに、渡波の両脇には黒田原によく似た女子がいて、渡波が歩くのを手伝っているようだ。


「黒崎先輩、お疲れ様です」


 松島は、俺に気付くと、とてもフレンドリーな態度で迎えてくれた。

 一方で、黒田原は、俺と長町が一緒にいるのを見て意外そうな顔をした。


 こいつも神無月の人間なので、宝積寺と長町の仲が悪いことは認識しているのだろう。

 だが、俺と長町が顔見知りであることまでは知らなかったようだ。


「黒崎君……来てくれたんだ……」


 渡波は、安心した表情を浮かべた。

 こいつは……俺が、自分のことをスルーするとでも思っていたのだろうか?


「渡波先輩、少し休みますか?」

「そうだね……。ありがとう、小鳥ちゃん」


 黒田原によく似た姉妹は、渡波を車椅子に座らせた。

 その様子から、渡波の手や足が、どの程度まで動くようになったかの見当をつける。


「昨日と比べたら、良くなってるみたいだな」

「うん。手も足も、感覚が戻ってきたの」

「頑張ったんだな」

「リハビリは、まだ、始めたばっかりだけどね……」

「いや。ショックで、しばらくは動きたくないと思ってもおかしくない状況だったのに、偉いと思うぞ?」

「そ、そうかな……?」

「黒崎先輩の仰るとおりです。雫さんは偉いと思います」


 松島は、とても素直に渡波を褒めた。

 その屈託のない笑顔に、渡波は照れた様子を見せる。


「皆に励ましてもらったから……」


 そう言って、渡波は松島や黒田原姉妹を見た。

 すると、黒田原の妹達は、揃ってこちらに進み出た。


「はじめまして。黒田原小鳥です。中学2年です」

「黒田原雛です。小学6年生です」

「……小学生?」


 小学生でも、長身の女子は、クラスに何人かいるものだ。

 しかし、こいつの場合には、高校生である平沢あたりと比べても、遜色のない発育の良さである。


 その姉である黒田原小鳥は、もっと凄い。

 姉である黒田原飛鳥と、ほとんど変わらない長身であり、体型も姉と遜色ないように見える。

 これで中学生であり、長町と同じ学年とは信じられない。


「……」


 一番上の姉である黒田原が、こちらを睨んでいる。

 俺が妹達を口説こうとしたら、どんなことをしてでも阻止しようとしているようだ。

 長町も、俺を軽蔑するような目で、こちらを見上げている。


「……背の高い姉妹だな」


 とりあえず、俺は無難な感想を言った。


「そうですね。黒田原先輩も妹さん達も、スタイルが良くて素敵です」


 松島は、目を輝かせながら言った。

 純粋な称賛に、黒田原姉妹は、揃って照れた様子を見せる。


「飛鳥さんも小鳥ちゃんも雛ちゃんも、背が高くて、本当に綺麗ですよね……」


 長町は、羨ましそうに黒田原姉妹を見上げた。

 すると、黒田原小鳥は、長町を抱き締めて頭を撫でる。


「私は、あきらちゃんのことが羨ましいです。こんなに小さくて可愛いなんて!」

「ちょっと、小鳥ちゃん……」

「しかも、頭が良くて、魔力も多いだなんて! 完璧すぎます!」

「……」

「神無月の人間は、愛情表現が激しいな……」


 照れて真っ赤になった長町を撫で続けている黒田原小鳥と、その2人を羨ましそうな顔で交互に見ている黒田原雛を見ながら呟いた。


 あかりさんが一番強烈だが、早見も相当なものであり、神無月先輩は俺の顔を頻繁に触る。

 どうも、スキンシップが過剰に思えるのだが……。


「相手と触れ合うのは、敵意がないことを確認し、愛情を深めるために有効ですから……」


 黒田原は、そう言ってから、こちらをじっと見つめた。


「……ですが、いかに神無月の人間であっても、異性のことは、よほど親しくなければ抱き締めたりしません」

「言われなくても、お前の妹を抱き締めたりはしないから安心しろ」

「……アリス様とは、腕を組んでいらっしゃいましたが……?」

「あれは、俺がやったことじゃなくて、早見がやったことだろ」

「あれほど男性を嫌っていらっしゃるアリス様が……信じ難いことです……」

「俺だって信じられないんだが……」

「やっぱり、アリスちゃんって、黒崎君のことが好きなのかな……?」


 渡波は、不安そうな顔をしながら言った。


「あいつは、馴れ馴れしいだけだと思うぞ? 宝積寺が嫌がっても、同じように接してるからな」

「……黒崎君って、意外と……」

「何だよ?」

「……何でもない」

「皆さん、仲が良くて素敵だと思います」


 松島は、黒田原姉妹や長町を見ながら、楽しそうに笑った。


「お前は、誰かを悪く言うことがないんだな」

「渚ちゃんは、いい子だからね……」


 渡波は、感心した様子で言った。

 だが、その表情には、複雑なものが含まれているように見えた。


「渡波さんは、疲れていらっしゃると思います。お部屋に連れて行ってさしあげてください」


 黒田原が、何かを察した様子で、渡波の方を見ながら言った。


「俺は、渡波の部屋がどこか知らないんだが……」

「……そうだったのですか?」

「黒崎先輩、私がご案内します」


 松島がそう言って、渡波の車椅子を押そうとした。


「待って、渚ちゃん。できれば、黒崎君に押してほしいんだけど……」

「そうですね。せっかくですから、そうしていただけると嬉しいですよね」

「まあ、構わないが……」


 気乗りはしなかったが、そう言うと、渡波は不満そうな顔をした。


「……そんなに面倒臭そうに言わなくてもいいでしょ?」

「面倒だと思ってるわけじゃないんだが……」


 松島は、唐突に俺の手を取った。


「……!?」

「黒崎先輩。雫さんは頑張っていたのですから、優しくしてあげてください」


 そう言いながら、松島は俺を促して、車椅子を押させた。


「お前……意外と、男の扱いに慣れてるんだな……」

「そうなんですか?」

「黒崎君……渚ちゃんは、狙ってやってるわけじゃないと思うよ? そういうことができる子じゃないから」

「そうなんだろうな……」


 こういうタイプの女子が、男に取り入ることに長けていたら、他の女子に嫌われるだろう。

 だが、ナチュラルに男心を掴める女子というのも、厄介な存在である。

 そう思って松島の顔を見ると、松島は、こちらに微笑みかけてきた。


 そういえば……俺の周囲に、こういう反応をしてくれる女子はいないな……。

 松島の自然な笑顔を見ながら、そう思った。

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