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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第149話 黒田原飛鳥-1

 帰りのホームルームが終わって、俺が廊下に出ると、そこにはいつものように宝積寺がいた。

 そして、その隣には桐生がいた。


「桐生……? 俺に何か用か?」

「うん。実は、玲奈さんと一緒に、蓮田さんのお見舞いに行こうと思って。黒崎君も一緒に行かない?」

「!?」


 とんでもない提案をされて、俺が宝積寺のことを見ると、宝積寺は気まずそうな顔をして俯いた。


「……蓮田さんのご迷惑になってしまうと、お止めしたのですが……」

「そんなことないんじゃないかな? クラスメイトなんだから、入院した人のお見舞いには行かないと。黒崎君も、蓮田さんとは仲がいいって聞いたけど?」

「……」


 宝積寺は、助けを求めるようにこちらを見た。

 だが……俺だって、この状況で何と言って桐生を止めるべきかなんて分からない。

 まさか、「俺と宝積寺は付き合っているが、俺と蓮田は結婚してたんだ」などということを、外から来た桐生に話すわけにはいかないだろう。


「よろしいではないですか。皆でお見舞いに参りましょう」


 いつの間にか俺の後ろに立っていた早見が、笑顔でそう言った。


 朝の出来事もあったので、俺は早見から距離を取った。

 そして、宝積寺は、俺や蓮田の事情を知っているのに余計なことを言った早見を睨んだ。


「アリスさんも行くの?」


 桐生は、友達に話しかけるように言った。


 この2人に交友関係があったことは知らなかったが、早見が誰と友達であっても違和感はない。

 誰にでも好かれる早見は、誰とでも親しくなれるからだ。


「はい。ぜひ、ご一緒させてください」


 早見は、俺や宝積寺の反応は無視して、桐生の手を取りながら言った。


「ちょっと待って! 貴方達……玲奈さんを連れて、病院に行くつもりなの!?」


 平沢が、血相を変えて駆け寄ってくる。

 俺達の関係や、蓮田が死にかけていたことを知っていれば当然の反応だろう。


「構いませんでしょう? 私達は、喧嘩をしているわけではないのですから」

「アリスさん……! 貴方は、黒崎君の事情を軽く考えすぎよ! いいえ、それよりも……今、病院には……!」


 焦った様子の平沢の口に、早見は人差し指を立てて押し当てた。


「いけませんわ、麻理恵さん。神無月の事情に口出しをなさらないでください」

「……」


 平沢は、不満そうな顔をして後ろに退いた。


「黒崎君は御倉沢の人間よ?」

「分かっておりますわ。ですが、事情が事情ですから、黒崎さんをお貸しいただけると助かります」

「……」


 平沢は、早見に頼まれて、渋々といった様子で引き下がった。


「アリス様……」


 教室の中から数人の女子が近寄ってきて、その中の1人が早見に声をかけた。


 この女子は黒田原(くろだはら)飛鳥(あすか)だ。

 矢板と同程度の長身で、長い黒髪の一部を三つ編みにしており、その先端のあたりには小さな白いリボンを結んでいる。

 口数が多いタイプではないのだが、とにかく特徴が多いため、クラスにいるだけで印象に残る女だ。


「あら、飛鳥さん」

「……本日は、見送っていただけないでしょうか? 小鳥(ことり)が病院の手伝いをしておりますので……トラブルになると困ります」

「ご安心ください。小鳥ちゃんのことは私が守りますわ」

「……」


 黒田原は、不安そうな顔のまま、宝積寺の方を見て、その後で俺のことを見た。

 こいつは……俺達が、病院で殺し合いを始めるとでも思っているのだろうか?


「……妹さんのことが心配でしたら、飛鳥さんもご一緒にいかがですか?」


 宝積寺がそう言った。

 黒田原は、意外そうに宝積寺のことを見る。


「よろしいのですか?」

「妹さんも、飛鳥さんが来たら喜ぶと思いますので……」

「……そうでしょうか?」

「そうですわね。それが良いと思いますわ。妹という立場の子の気持ちは、この中では、玲奈さんが一番分かるはずですもの」

「……」


 早見の言葉に、自身も妹の立場である平沢は、複雑な表情を浮かべた。

 そして、黒田原は少しの間、考え込むような仕草をした。


「……そうですね。ぜひ、ご一緒させてください」


 黒田原がそう言うと、成り行きを見守っていた桐生は顔を輝かせた。


「よろしくね。えっと……黒田原さん」

「……飛鳥でいいです」

「そう? じゃあ、私のことも名前で呼んで」

「はい、美咲さん。私達は神無月の人間なのですから、今後とも……」


 突然、黒田原がそんなことを口走ったので、俺は慌てた。


「お、おい!」

「……何か?」

「何かって……いきなり神無月なんて言っても、桐生は何のことか分からないだろ?」

「……?」


 黒田原は、困惑した様子で早見と宝積寺を見た。

 すると、宝積寺は気まずそうな表情を浮かべて、顔を逸らしてしまった。


「飛鳥さん。黒崎さんは御倉沢の方ですから、私達が美咲さんをどのように扱っているのかについては、何もご存知ないのですわ」

「アリス様も玲奈さんも、黒崎さんとは大変親しいご関係なのでは……?」

「そうであったとしても、美咲さんのプライバシーを侵害するようなことは致しませんわよ」

「そうだったのですね……」


 早見と黒田原の会話を聞いて、俺は混乱しながら桐生を見た。

 すると、桐生は不思議そうにこちらを見ていた。


「黒崎君……私、神無月家に行ったことがあるよ?」

「!?」

「その時に、愛様とお会いして、御三家の話とか、異世界の話を聞いたんだけど……」

「お前……いつの間に……?」

「……美咲さんには、この町のことを、折りを見ながら、私や天音さんがお伝えしました。そうしなければ、美咲さんの身の安全を守れませんでしたので……」


 宝積寺がそう言った。


 言われてみれば、この町の住人は魔獣と遭遇するリスクがあるのだから、桐生にも、この町の状況について説明する必要があるだろう。

 それにしても……こいつらは、どんなに親しい関係でも、俺に何も教えてくれないらしい。


「……申し訳ありません」


 俺の不満が伝わったらしく、宝積寺は頭を下げた。


「玲奈さんが謝る必要はございませんわ。黒崎さんが、世間話をしたがるような女性を好むはずがありませんもの。それなのに、黒崎さんとは何の関係もないことを話せというのは理不尽ですわ」


 早見は、宝積寺を抱き締めて、慰めるように頭を撫でながら言った。

 宝積寺は、どさくさに紛れて自分を触る早見のことを、とても迷惑そうに見た。


「黒崎君……玲奈さんをいじめたら駄目だよ?」


 桐生は、本気で俺を窘めようとしている様子で言った。


「いじめてるわけじゃないんだが……」

「皆様のご関係は、とても複雑なのですね……」


 黒田原は、俺達のやり取りを観察して、困惑した顔をしながら呟くように言った。

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