第14話 宝積寺玲奈-3
「ねえ、玲奈さん。水守さんたちのことを、許してあげてくれないかしら?」
平沢はそう言った。
これで、宝積寺が許すと言えば、一ノ関たちが重い罰を受けることもないはずだ。
しかし、宝積寺は首を振った。
「駄目ですよ、麻理恵さん」
「そんな……! あの子達は、アリスさんに騙されただけなのよ?」
「……私は、一ノ関さんたちに罰を与えることを望んでいません」
「だったら……!」
「ですが……あの3人が黒崎さんに迷惑をかけたのであれば、黒崎さんが望む罰を受けるべきだと思います。ですから、3人には、黒崎さんが望む通りの罰を与えてください。それより軽い罰も、重い罰も、私は望みません。御倉沢家にも、そのようにお伝えください」
「……ちょっと待って」
宝積寺の言葉を聞いて、平沢の顔から表情が消えた。
そして、平沢は俺の方を一度見てから、宝積寺の顔を覗き込む。
「……玲奈さん、本当にそれでいいの? もしも黒崎君が、お仕置きと称して……あの3人に、エッチなことをしたら……」
「……!」
宝積寺は、顔を蒼白にして、身体を震わせた。
「い、いや……しねえよ、そんなこと……!」
思わずそう叫んだが、平沢は俺の方を、疑わしそうな顔で見る。
そして、宝積寺は、何故か悲しそうな表情をした。
「……それが、黒崎さんの望みでしたら……私は止めません」
「おいおい……!」
「玲奈さん……それは、あんまりだと思うわ……」
「……私は、昇降口で待っています。後のことは、黒崎さんにお任せします。失礼します」
宝積寺は、平沢に、続けて俺に対して頭を下げてから、教室を後にした。
残された俺と平沢の間に、重たい沈黙が訪れる。
「……それで、どうするの?」
全ての感情を消したかのような口調で、平沢が尋ねてくる。
「今回の件で、お仕置きはなしだ。御倉沢家とやらに、そう伝えてくれ」
「……本当に、いいのね?」
「当然だろ? あの3人を、どうにかしようとは思わねえよ」
俺はため息を吐いた。
まともな人間であれば、この状況で、3人の身体を自由にする、などと言うはずがない。
これで、一ノ関たちが何の罰も受けずに済むのであれば、良かったと思うべきだろう。
「……そう。良かったわ」
平沢は、ホッとした表情で呟いた。
「お前は、俺を何だと思ってるんだよ?」
「……危険人物よ」
「おいっ!」
「貴方は外の人間だもの。警戒するのは当然じゃない」
「1人の女を怒らせただけで、3人を死刑にするような連中には言われたくねえよ!」
「……とにかく、早く玲奈さんの所に行ってあげて。今度は私達の関係を疑われたりしたら、私……潔白を証明するために、自殺するかもしれないわよ?」
「そんなに嫌なのかよ……」
「当然じゃない」
平沢は、真剣な表情で言った。
こいつは、まともな女だと思っていたのだが……どうやら、その認識は改める必要がありそうだ。
俺は、再びため息を吐いてから、教室を後にした。
俺が昇降口に行くと、宝積寺が、こちらを窺うような目で見てくる。
「……あの3人は、無罪放免だ。それよりも重い罰は、望まないんだったよな?」
「はい」
宝積寺は、安心したような、嬉しそうな表情を浮かべた。
……こいつも、俺があの3人に対して、エロい要求をすると思ったのだろうか?
だとしたら、少しショックである。
「……帰るか」
「はい」
俺達は、いつもどおりに、並んで歩き出した。




