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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第144話 水沢由佳-5

「……お久し振りです」


 水沢さんを前にして、平沢は動揺を隠せない様子で言った。


 そういえば、この家は、水沢さんの家の近くだった。

 そして、麻由里さんと水沢さんは同じ年齢のはずである。

 2人が知り合いであることは間違いないだろう。

 だから、平沢には、客が誰なのかの察しが付いたのかもしれない。


 しかし、俺にとっては、水沢さん親子よりも、気まずそうな顔をしている異世界人の方が気になった。


「お前……ミュレイなのか?」


 俺が思わずそう言うと、皆が予想以上の反応をした。


「黒崎君、貴方……前々から思っていたけど、デリカシーが無さすぎるんじゃないの!?」

「黒崎……私の家で、面と向かって長々と話していたのに、それは酷いと思うぞ?」

「黒崎君ったら……こんなに可愛い子を忘れるなんて、意外と硬派なのかしら?」

「……あんまりです。私のことを忘れていたから、会いに来ていただけなかったのですか……?」

「いや、決して忘れていたわけじゃないんだが……」

「……」


 ミュレイは、俺のことを疑っている目でこちらを見た。


「俺とお前が会ってから、何ヶ月も経ったわけじゃないだろ? それに、俺にだって色々あったんだよ……」

「色々というのは……この世界の女の子と遊ぶことですか?」

「……平沢。お前が、でっち上げて話したのか?」


 俺が睨むと、平沢は首を振った。


「そんなこと、私はミュレイさんに言ってないわよ。でも、誰が教えたとしても、でっち上げじゃないと思うわ」

「明らかに捏造だろ! 俺は訓練で忙しかったんだ!」

「……誰かから聞いたのではありません。貴方からは、私が知らない女性の匂いがします」


 ミュレイは、俺を非難するような口調で言った。


「……!?」


 ひょっとして、先ほどの話を聞かれていたのか……?

 そう思ったが、違った。

 唐突に、水沢さんが俺に近付いてから言ったのだ。


「なるほど……覚えのある匂いがすると思っていたが、これはアリスの匂いだな」

「……!」


 俺は、またしても、自分の匂いを確認してしまった。


 早見は、香水を付けているわけではないと思うのだが……。

 この町の住人の嗅覚は、犬と互角以上なのだろうか?


「そっか……アリスちゃんも、由佳ちゃんと一緒に戦ったんだよね。懐かしい……」


 麻由里さんは、遠くを見るような目をしながら言った。

 それを聞いた平沢は、複雑な表情を浮かべた。


「……姉さん。料理をするなら、私も手伝うわ」

「あら、いいのよ? 料理は私だけでするわ」

「姉さんだけには任せられないわよ。紗江ちゃんも含めれば6人分だもの」

「そう?」


 結局、平沢は麻由里さんと一緒に、キッチンに行ってしまった。

 残された俺とミュレイの間に、気まずい空気が流れる。



 ミュレイのことは、もちろん覚えていた。

 だが、異世界人は揃って美人であり、金髪なので、俺には見分けがつかないのである。

 同じ種類の犬や猫を目の前に並べられたら、素人には見分けられないのと同じだ。


 それに、一応は「罪人」であるミュレイのことは、もっと時間をかけて調べると思っていた。

 こんなに早く外に出てくるなんて予想外だ。



 水沢さんは、俺達の気まずい雰囲気を意に介する様子はなかった。

 いや……あえて気にしないようにしているのだろう。


「お前や雫達が異世界人に襲われたと聞いた時には、大変なことになったと思ったが、誰も死ななかったのは不幸中の幸いだった。私も、できれば助けに行きたかったが……自分の娘を守るのが、今の私にとっては一番大事なことだからな」

「母親ですから、当然だと思います」

「そう言ってもらえると助かる。お前を救出したのは、玲奈と桜子だったらしいな?」

「はい……」

「桜子が、他の家の人間のために命を懸けるとはな。3年前からは考えられないことだ。あの子も立派な教師になったんだな」

「……」


 大河原先生が俺を助けたのは、教師としての行為ではなく、私情による行為だったと思うのだが……。

 しかし、それについては黙っておくべきだろう。


 代わりに、俺は疑問に思っていたことについて尋ねた。


「水沢さんと大河原先生って……連絡を取ったりするんですか? イレギュラーの時には、仲が悪かったんですよね?」

「私が、特別に桜子と仲が悪かったわけではない。花乃舞の人間以外で桜子と仲良くしていた人間は、春華やアリスだけだった。人当たりの良いあかりですら、桜子の攻撃的な言動には困らされていたからな」

「……花乃舞の人間って、そういう態度の人間ばっかりなんですよね? 全員まとめて、この町から追い出されないのが不思議なんですけど……」

「花乃舞の人間には、御倉沢にとっても神無月にとっても存在価値がある。あいつらは、暴言は吐くが、嘘は吐かない連中だ」

「本当のことだったとしても、言われたくないことなんて沢山あるでしょう?」

「そうだな。だが、花乃舞が御倉沢を非難している時には神無月が同意していて、神無月を非難している時には御倉沢が同意している。そのおかげで、我々が共存できていることは否定できないだろう」

「……」

「御三家は敵同士だ。普段は、そのことを意識しないようにしているが……憎まれ役がいるから続けられる関係もある」

「でも、先生が生徒会長になる前に言ってたことは、人として許されないレベルのことだったと思うんですけど……?」

「そのとおりだ。本人だって、自分の発言について後悔しているだろう。桜子は、コンプレックスの塊のような女だったから、誰かを攻撃していなければ、精神の安定を保つことができなかったのだろうな」

「コンプレックス……? 大河原先生は、美人でスタイルが良くて……魔力だって相当な量なんですよね? どこに劣等感を覚える部分があるんですか?」

「スタイルが良い、か……。お前はそう思うかもしれないが、桜子は、自分の胸が大きすぎることに悩んでいた」

「そこがいいんじゃないですか」


 俺が思わずそう言うと、ミュレイは顔を赤くしながら睨んできた。

 さらに、水沢さんの娘まで、こちらを非難するような目で睨んできた。

 俺の発言の意味を完全に理解しているかは不明だが、不適切な発言をしたことは分かったらしい。

 水沢さんは、そんな娘のことを宥めるように頭を撫でた。


「黒崎。お前の嗜好を否定する気はないが、私の娘に、男への不信感を抱かせるような発言はしないでくれ」

「……すいません」


 女の胸の大きさを気にする男は多数派のような気がするので、それを知っておくのは悪いことじゃないような気がするのだが……。

 そう思ったが、さすがに、そんなことは口に出さなかった。

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