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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第132話 御倉沢吹雪-5

 俺は自分の部屋に戻った。

 ベッドに寝転がり、昨日から今日にかけて起こったことについて考える。


 怒涛の2日間だった……。

 そのうち、かなりの時間で意識を失っていたにもかかわらず、あまりにも強烈な出来事が起こりすぎた。

 短期間で激しく酷使された気分で、俺はしばらくの間、ぼんやりとしていた。



 唐突に、誰かが部屋の扉をノックした。


「黒崎和己、入ってもよろしいですか?」


 扉の向こうからは、聞いたことのある声がした。

 この声は、たしか……本宮の姉さん?


「……いいですけど」


 俺がそう言うと、扉が開けられたが、部屋に入ってきたのは声の主ではなかった。


「大変でしたね、和己」

「生徒会長……!」


 御倉沢吹雪は、今まで会った時とは違い、学校の制服を着ていた。

 おそらく、学校帰りなのだろう。


 何だか、新鮮な印象を受ける。

 生徒会長の後ろには本宮の姉さん――本宮霧子がいて、自分が開けた扉を閉めていた。


「貴方が無事であったことや、雫達が死なずに済んだことは、不幸中の幸いでした」

「……蓮田の状態を考えると、素直に喜べませんよ……」

「それは貴方の責任ではありません。貴方は、自分にできることはやり遂げたのでしょう?」

「俺は、何の役にも立ちませんでしたけど……」

「そのようなことはありません。貴方は、宝積寺玲奈に殺されそうになった異世界人を助けたではありませんか」

「……話をしたこともない異世界人ですよ?」

「だからこそ素晴らしいのです。身を呈して、自分とは何の関係もない異世界人を助けるなど、なかなかできることではありません。感謝しています」

「……」


 違和感を覚えた。

 生徒会長は、異世界人が助かったことを、まるで仲間が助かったかのように話したからだ。


 以前聞いた話によれば、この町の人間にとって、異世界人の多くが敵ではないらしい。

 むしろ、優れた子供を産んでくれる可能性があることから、どちらかといえば仲間に加えたい存在だという。

 だが、向こうがこちらの説得に応じるまでは、あくまでも敵対関係ではないのだろうか?


「霧子。貴方からも、労ってあげなさい」

「はい、吹雪様」

「いや、無理に労ってもらわなくても……」


 俺はそう言って断ったが、本宮の姉さんは首を振った。


「誤解しないでください。私は、心から貴方のことを慰めたいのです」

「……慰める?」

「はい。目の前で、恋人が異世界人を惨殺して、貴方はショックを受けたでしょう?」

「……」

「あれが、あの女の本性です。別れる決心が固まったら、麻理恵に相談しなさい。私も、できる限りのことはすると約束します」

「俺は、宝積寺と別れるつもりはありませんけど……」

「何ですって!?」


 本宮の姉さんは、心の底から驚いた様子だった。

 その目には、何故か、恐怖のような感情が宿っている。


「黒崎和己、貴方は……目の前で人体が切断されて惨殺されても、宝積寺玲奈に対して恐怖を覚えなかったのですか!?」

「……俺だって、あれを見せられた時には、吐きそうになりましたよ……」

「それなのに……宝積寺玲奈から逃げたいと思わないだなんて……!」

「宝積寺は、誘拐された俺のことを助けてくれたんですよ?」

「自分を助けるためなら、どれほど残虐なことをしても構わないとでも……!?」

「誰も、そんなことは言ってないんですけど……」

「霧子。貴方は、鈴と水守のことを労ってきなさい。私は、和己ともう少し話をします」

「……かしこまりました」


 本宮の姉さんは、生徒会長に促されて、逃げるように部屋から出て行った。


「和己。貴方は、想像以上におかしな子ですね」

「そうですか?」

「人は、殺人という行為について、もっと嫌悪感を持つものです。普段は人が死ぬことを軽く考えていたとしても、殺人や死体に対する生理的な嫌悪感は、簡単には消えないはずです」

「俺だって、宝積寺のことが怖いと思わないわけじゃないんですが……」

「……」


 生徒会長は、突然黙ってしまい、表情を変えないままこちらを見つめた。


「何ですか……?」

「まあ、いいでしょう。私は、宝積寺玲奈のことを怖いと思ったことなどありませんから」

「生徒会長の方こそ、普通じゃないと思いますけど……」

「当然です。私は御倉沢家の当主ですから」

「……」

「それはともかく……貴方の生命力には驚かされました。いいえ、繁殖力と言うべきでしょうか? 命の危険に晒されると、性欲が高まるという話は聞いたことがありますが……」

「……須賀川から聞いたんですか?」

「あら、相手は鈴でしたか。てっきり、水守だと思ったのですが」

「カマをかけたんですか!?」

「構わないでしょう? あの子達は、私に対して、決して嘘を吐かないのですから」

「……」


 というより……誰かを抱いたことは、俺を見ただけで分かったのか?

 そんなことを見抜かれると、困ってしまうのだが……。


「少し安心しました。貴方と鈴は上手くいっていないように見えましたが、鈴はとても良い女性ですよ。貴方の好みからも外れていないでしょう?」

「……そうだと思います」


 須賀川は、感情的なところがあり、敵対している相手には攻撃的だが、本来的には優しい女性なのだろう。

 それに、真面目で責任感があり、好きな男には尽くすタイプのように思える。

 加えて、美人であり胸も大きい。

 男が魔力量を気にしない世界で暮らしていれば、恋人がいないなんてあり得ない女だ。


「貴方達がそういう関係になったのであれば、話が早いです。和己、貴方は、あの子達と一緒に暮らしなさい」

「えっ!?」

「同棲するための家は、もう手配しました。毎晩、誰かの家に通う必要がなくなって、貴方も助かるでしょう?」

「そんな、いきなり……!?」

「当然のことではありませんか? 貴方は既に、水守と鈴を抱いたのですから」

「でも……蓮田は、まだ意識不明なんですよ? 渡波だって、介護が必要な状態だと聞いてます。それに……引っ越して複数の女と同棲するなんて言ったら、宝積寺がどんな反応をするか……!」

「安心しなさい。宝積寺玲奈は、既に受け入れていることです」

「……!」


 手回しが早すぎる……!


 宝積寺は、本心から受け入れてくれたのだろうか?

 心の底では、不満や怒りを抱えているとしたら……?


「香奈と雫のことは、私達に任せなさい。あの子達は、しばらく、ここで療養することになるでしょう。身体が完全に治らなくても、介護する者はこちらで手配します。貴方に命じることはありませんので安心しなさい」

「……全員と同棲しながら、毎晩交代で抱けって言うんですか?」

「貴方にそれだけの体力があるなら、そうしても構いません」

「あいつらは……大丈夫なんですか? そんな生活を送らせて……」

「無用な心配です。あの子達は、ずっと前からそのつもりですから」

「……」


 そんな生活……俺に耐えられるだろうか?

 それに、もし宝積寺が受け入れたとしても、早見や北上が何と言うだろう?


 不安に襲われたが、いずれこうなるだろうと思っていたことも事実だ。

 少しだけ、楽しみだと思ってしまう自分がいた。

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