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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第131話 須賀川鈴-6

 俺は、須賀川の部屋の扉をノックした。


「須賀川、起きてるか?」

「……入っていいわよ」


 須賀川の声には、元気がないように思える。

 そのことが気になりながら、俺は部屋に入った。


 一ノ関と同じように、ベッドで上体を起こしていた須賀川は、泣きそうな顔でこちらを見ていた。

 普段の強気なイメージとは異なる様子に、意外な印象を受けた。


「黒崎……良かった……!」

「お前も、無事で良かったな」

「……良くないわよ。身体に何も影響がないのは、私だけなんだから……」


 須賀川は、そう言って俯いた。

 こいつとしては、自分だけが無事だったのが、むしろショックだったらしい。


「そのことは気にするな。そういうことで、お前を恨むような奴らじゃない」

「でも……」

「お前は友達想いだよな。悲しいのは分かるが、今は、あいつらが良くなることを願うべきだと思うぞ?」

「……」


 俺が近寄ると、須賀川は俺の袖を掴んだ。

 まるで、誰かに縋らないではいられないようである。


 やはり、精神的にかなり参っているらしい。


「……あんた、これからどうするつもりなの?」

「どうするって……何のことだ?」

「あんたには宝積寺がいるわ。北上だっているし、早見ともいい関係らしいじゃない。私達がいない間に、そっちに行こうと思ってないでしょうね?」

「お前……俺のことを、どれだけ外道だと思ってるんだ……?」

「だって、あんたは、あの子達のことが好きなんでしょ?」

「いい加減にしてくれ。さすがに、裸まで見せてもらった後で、お前らのことは用済みだなんて言わねえよ」

「……問題は神無月だけじゃないわ。御倉沢だって、あんたに子供を作ってもらわないと困るのよ。ひょっとしたら、私達の代わりの女性を紹介されるかもしれないけど……それでも、私達のことが必要だと思ってくれる?」

「当たり前だ」

「それって……私のことも入ってるの?」

「当然だろ」


 俺がそう言うと、須賀川はベッドから降りてこちらを見上げた。


「だったら……私のことを、抱き締めてくれる?」

「……お前がそういうことを言うなんて、意外だな」

「だからよ。私だけは、そういうことって、今までしてもらったことがないもの」

「……分かった」


 須賀川じゃなくても、一ノ関以外の女子を抱き締めたことなんてないんだが……。

 そう思いつつも、俺は須賀川を抱き寄せた。

 須賀川は、こちらに身体を預けてくる。


「キスして」

「……」

「……嫌なの?」

「……そんなわけがないだろ」


 一ノ関の時よりも身長差があるので、少しやりにくいが、それは大きな問題ではない。

 俺は、目一杯の背伸びをしている須賀川と唇を重ねた。


「……ごめんなさい」

「どうして謝るんだ?」

「だって……こんな時だけ頼るなんて、悪いと思って……」


 俯く須賀川の頭を、俺は撫でた。


「……黒崎?」

「こんな時なら、誰かを頼ることも必要だ。俺なんかじゃ、頼りにならないと思うが……」

「……そうね」

「そこは否定しろよ……」

「だって、あんたには力がないでしょ?」

「……」

「でも……ずっと見捨てないでくれるなら、こんなに頼れる男はいないわ」

「……見捨てねえよ」

「だったら……してよ」

「何をだ?」

「……」


 須賀川は、自分の後ろにあるベッドの方を見た。

 今度は、勘違いではなさそうだ。


「……ちょっと待ってくれ。まさか……」

「無理にとは言わないわ。その気になったらでいいから」

「いや、だが……」

「……やっぱり、私が相手だと、そういう気分にならない?」

「そういうわけじゃないが……できれば、もっと気分を高めてからの方が……」

「具体的に、どうすればいいの? 教えてくれたら、やるわ」

「……いや、改めてそう言われると……」

「いつもは、頼んでもいないのに、私達の胸を見たりするじゃない」

「それは、自然な状況だから興奮するんだ」

「だったら、この状況だと、どうすれば興奮するのよ?」

「……」

「……いいわ。一緒にシャワーを浴びた時みたいに脱げば、そういう気分になるでしょ?」

「……」

「まさか……私が1人で脱いでも足りないっていうの?」

「そういうわけじゃないんだが……」

「……分かったわよ。触って」

「……いいのか?」

「その気になったら、お願い」

「……」


 須賀川に促されて、俺は身体を触った。

 そのうちに、自然と欲求が高まってくる。


 俺は、須賀川をベッドの上に押し倒した。



「……」

「……」



 始めると、ほとんど勢いだけで、最後までヤってしまった。

 一ノ関の時は、何が起こったのか分からないような状態だったが、今回は、非常に生々しい体験だった。


「……服、着るわ」

「……ああ」


 須賀川は、水色の下着を着けなおした。

 そして、患者のための服を着て整えると、こちらを見てから目を逸らした。


「……皆に悪い気がするわ」

「お前は、役目を果たしたんだろ? 一ノ関が、これからの自分達の役割だって言ってたぞ?」

「それは、そうなんだけど……」

「俺は嬉しかった。お前は違うのか?」

「……私も、嬉しかったわ」

「そうか」

「……ねえ。貴方って、私のことが好きなの?」

「お前……よりによって、その質問を、このタイミングでするか?」

「……仕方がないのよ。身体だけの関係だったら嫌だって、今、思っちゃったんだから……」

「……嫌いな相手とは、こういうことはできない」

「だったら、私は、あんたの中で何番目くらいに好きなの?」

「何番目って、お前……」

「……分かってるわよ。水守や宝積寺よりも下なんでしょ?」

「俺は、女に順位は付けない」

「嘘でしょ? あんたって、好みの女が目の前にいると、顔に出るわよ?」

「それは……見た目だけなら、早見が一番だと思うが……」

「あんた……自分が抱いた女の前で、そういうことをよく言えるわね……」

「外見だけなら早見が一番だ。それは誰もが認めることだろ?」

「……納得できないわ」

「気にする必要はない。俺と早見が、こういう関係になるなんて不可能だからな」

「当たり前よ。あんたが、早見に相手にしてもらえるわけがないもの」

「……」

「何よ、その顔……?」

「いや……」


 宝積寺から、早見は俺のことが好きだと教えられたことは黙っておく。

 余計なことは知らないままの方が、誤解を招くことがなくていいからだ。


「とにかく、早見は容姿が一番でもランク外だ」

「……身体の関係にならなくても、一番だと思ってるなら問題よ」

「だったら、お前は、自分が早見より美人だと思うのか?」

「……思わないけど……」

「それなら、どうでもいいことは気にするな」

「……そういうのって、不誠実だと思うわ」

「男が、自分の恋人よりも芸能人の方が美人だと思うことはおかしくないだろ?」

「私は、そういうのは許せないわ」

「お前、わがままだな……」

「わがままですって? 当然のことじゃない!」

「……」


 早見が美人なのは明らかなのに、その事実を口にするなとは……おかしな女だ。

 だが、俺は面倒臭くなってきたので、須賀川の頭を撫でて話を打ち切ることにした。


「……子供扱いして誤魔化さないで」

「俺はお前を愛してる。それでいいだろ?」

「……」


 ストレートに言われて照れたらしく、須賀川は俯いた。

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