表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/290

第130話 一ノ関水守-13

 北上は、俺の部屋から遠く離れた部屋に連れて行ってくれた。


「こちらです」

「助かった。ありがとな」

「いえ……。では、私は黒崎さんのお部屋でお待ちしております。決して、お邪魔はいたしませんので……」

「……ああ」


 気を遣ってくれたらしく、北上は立ち去った。

 エロいことをしに来たわけではないので、要らない気遣いのようなきもするが……。


 俺は、部屋の扉をノックする。


「一ノ関、起きてるか?」

「……入って」


 中から声がして、俺は部屋に入った。


 一ノ関は、ベッドに寝たところから、上体を起こしていた。

 沈んだ顔をしていたが、俺を見て笑顔を浮かべたように見えた。


「黒崎君……貴方が無事で良かったわ」

「お前も、生きていてくれてよかった。……身体の具合はどうだ?」

「……手に力が入りにくいの。自然と回復すればいいのだけど……」


 その言葉から、一ノ関も、魔法が使えない状態であることを察した。


「そうか……ショックだよな……」

「大丈夫よ。そんなに気を遣わなくてもいいわ」

「……強いんだな、お前は」

「そうじゃないの。私は、もう戦うことはないんだもの」

「……まあ、当然だよな。魔法を使えなくなった人間を、戦わせるわけにはいかないだろうから……」

「違うわ。御倉沢は、戦って傷付いた人を手厚く守ってくれるのよ。身体が不自由になれば、介護する人を付けてもらうこともできるわ。そういう保障があるから、私達は安心して戦えていたの」

「……そうか」

「これで、私の残る役目は、貴方と子供を作ることだけになったわ」


 そう言った一ノ関が目を落とした。

 そして、一ノ関の身体の下にはベッドがあるので、俺は焦った。


「ちょっと待ってくれ。まさか、ここでか……?」


 俺がそう言うと、一ノ関は驚いた顔で首を振った。


「……誤解よ。さすがに、今すぐにだなんて……」

「だよな……」

「……でも、貴方がそういう気分になったのなら……嬉しいわ」

「そ、そうか……?」


 一ノ関は、何かを期待しているような顔でこちらを見つめた。

 何をすべき状況なのかが分からず、やはり押し倒してしまうべきかと考える。


「……そこで私の胸を見るのが、黒崎君の駄目なところよ」

「……仕方ないだろ……」

「ムードを壊さないで。私は、キスしてほしいと思ったんだけど……」

「……分かった」


 一ノ関は、顔を少し上に向けて目を閉じた。

 俺は、一ノ関の唇に、軽く唇を重ねた。

 さすがに、長時間重ねたままにするのは難しかったからだ。


「……貴方らしいわね」

「どういう意味だよ?」

「馬鹿にしているわけではないの。まだ、女の子に慣れていないみたいで……少しだけ、安心したわ。貴方が、他の女の子と親しくしていると不安だったのよ」

「……」


 すでに初体験を済ませたのに、女に慣れていない、というのはどうなんだろう……?

 そう思ったが……よく考えてみれば、俺が自分から、女に何かをした経験は少ない。


 改めて考えて、一ノ関に言われたことの正しさを認識して、自分のことだというのに驚いてしまった。

 目の前にいる女との経験だって、いまだに現実感に欠けるというか……本当に自分があんなことをしたのかと思ってしまうのだ。


「女の子に慣れても、キザなことを言ったり、変なテクニックで喜ばせようとしないでほしいわ。黒崎君は、今のままでいいの」

「そうなのか……?」

「だって、黒崎君は、たくさんの女性と子供を作ることになるんだから……そんなものをアピールされても、嫌味のようにしか感じないわよ。それに、鈴や香奈も……そんなもので喜ぶような子たちではないわ。宝積寺玲奈や北上天音も、きっと同じよ」

「……まあ、そうかもな」


 一ノ関が言うとおり、あいつらに対してプレイボーイみたいなセリフを吐いても、幻滅されるだけだろう。

 俺が女子達に積極的なアピールを望んでいないのと同じで、女子達も、俺に「女の扱いの上手さ」のようなものを期待していないことは理解できる。


「ところで……黒崎君は? 身体は大丈夫なの?」

「ああ」

「……貴方を助けてくれた宝積寺玲奈には、感謝を伝えなくてはいけないわね」

「何……?」

「黒崎君が無事なのは、あの子のおかげなんでしょう?」

「……そうだな」

「貴方が、宝積寺玲奈のことを肯定する理由……ようやく、少しだけ分かった気がするわ」

「……」

「……現金な女だと思うかしら?」

「いや……」

「私達には、異世界人に襲われても、どうすることもできないわ。早見アリスですら、敵わないかもしれない。確実に勝つことができるのは、春華さんがいなくなった今では、あの子だけだもの」

「……」

「でも……あの子が嫉妬に駆られて私や鈴たちを殺さないという確信は、今でも持てないわ」

「それは大丈夫だ。そのことは、生徒会長も保証してくれた」

「……」


 一ノ関は、まだ安心できない様子だった。

 宝積寺には、突然キレて他人を半殺しにした実績があるので、大丈夫だと言われても信用できないのだろう。


 俺は、一ノ関の頭を撫でた。


「……黒崎君?」

「安心しろよ。俺が大切にしているものを、宝積寺が奪うなんてことはない」

「……」


 俺は、一ノ関の頭を繰り返し撫でた。

 一ノ関の赤い髪は、見た目に反して、細くてサラサラだった。



 自分の部屋に戻ると、北上は、背筋の伸びた綺麗な姿勢で座っていた。

 常にこんな姿勢では疲れてしまいそうだが、こいつは、この姿勢でいることが苦ではないのだろう。

 本物のお嬢様というのは、こういうものなのかもしれない。


「……一ノ関さんは、大丈夫でしたか?」

「ああ。お前の治療のおかげだ」

「……いいえ。一ノ関さんは、ずっと黒崎さんに会いたがっていました。人の心は、身体を治す時には無視できない要素ですから、黒崎さんに会うことができて良かったと思います」

「……」

「須賀川さんに会う前に、少し休みますか?」

「……いや。すぐに会いに行く」

「分かりました。では、須賀川さんの部屋にご案内します」


 そう言って、北上は俺を案内した。

 連れて行かれた部屋は、一ノ関の部屋のすぐ近くだった。


「こちらです」

「ああ。ありがとな」

「……では、私は失礼いたします」


 そう言って、北上は立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ