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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第12話 北上天音-1

 その日の放課後、俺は、またしても平沢に呼び止められた。

 用件を尋ねても答えてくれず、訳が分からないまま、教室に2人だけ残る。


「今日は、貴方と話したい、という人がいるの」

「俺と……?」

「入ってきて」

「……失礼いたします」


 平沢に呼ばれて、教室に入ってきたのは北上天音だった。


 俺が何かを考える前に、北上は俺に対して跪く。

 薄いブラウンの髪が、教室の床に広がってしまうが、北上は気にする様子を見せなかった。


「申し訳ございません!」

「……」

「アリス様の言葉を真に受けて、蓮田さん達に、いい加減な情報を伝えてしまったのは私です。謝って済むことではないことは、重々承知しておりますが……私には、こうすることしか……」

「天音さん、それくらいにして」


 平沢は、呆れた、と言いたげな様子である。


「ですが……」

「貴方がどうしても謝りたいと言ったから、仕方なく許可したけど……今回の件は、私達で解決するわ。水守さん達に謝る機会は、後日設けるから」

「……ご迷惑をおかけします」


 平沢は北上に、立ち上がるように促した。

 北上は、平沢に手を貸してもらいながら立ち上がり、スカートに付いた汚れを払い落とす。


 平沢は、北上の髪の汚れを、指先で慎重に取り除きながら言った。


「1つだけ忠告させて。貴方は、他人の言葉を鵜呑みにするところがあるわ。悪意のある嘘を吐く人がいることを認識しないと、同じミスを繰り返すことになるわよ?」

「アリス様は……ご冗談を仰っただけです! 黒崎さんが、あのような発言をする方ではないことを見抜けなかった私が悪いんです!」

「……」


 言っても無駄だと悟ったらしく、平沢は、北上に退室を促した。

 北上は、何度も申し訳なさそうに頭を下げながら、教室を後にした。


「……そういう訳よ。天音さんは、アリスさんに騙されて、誤った情報を香奈さん達に伝えてしまったの」

「諸悪の根源は早見か……。何て迷惑な女なんだ……」

「貴方がいやらしい話をしていたから、それを聞いたアリスさんが不快になったんでしょ? 少しは反省して」

「エロいことを言ってたのは伊原だけだ」

「貴方だって、この学校の女子の顔や身体の話を聞いてたんじゃない。酷いいじめだわ。それに、立派なセクハラよ」

「そこまで言うのは理不尽だろ……」

「貴方、状況が分かってるの? 貴方が原因で、水守さん達3人は、当分の間、謹慎させられることになったわ」

「……ちょっと待て。どうして、あの3人が謹慎するんだ?」

「それは……不用意に貴方に接触して、玲奈さんを怒らせる危険を招いたからよ」

「お前らは、宝積寺のことを怖がりすぎだろ」

「……貴方は何も知らないのね」

「宝積寺が小学生だった頃の話なら聞いたぞ?」

「それだけじゃないのよ……。まあ、その話はいいわ。このままだと、あの3人は貴方のせいで、厳しいお仕置きを受けることになるのよ? 少しは悪いと思いなさい」

「……お仕置き? 反省文でも書かされるのか?」

「その程度で済むわけがないでしょ? 玲奈さんが本気で怒っていたら、許してもらうために、罰は重くする必要があるわ。最悪の場合……命の保証はないわね」

「ちょっと待て! 宝積寺を怒らせないために人を死刑にするって……おかしいだろ!?」

「それが、何もおかしくないのよ、この町では……」

「気は確かなのか!? 犯罪じゃねえか!」

「……黒崎君。貴方はこの町で、警察官や交番を見たことがあるの?」

「いや……」

「この町には、外の世界の司法制度は適用されないわ。貴方も覚えておいて」

「何だそりゃ!?」

「昨日、この世のものではない化け物や、魔法で戦う水守さん達を見たんでしょ? 外から来た貴方でも、大体の事情は察することが出来るはずだわ」

「……」


 確かに、この町が普通の場所ではないことは明らかだ。

 地球上の、日本という国の中にありながら、得体の知れない化け物と女子高生が戦っているような場所なのである。

 そういう場所ならではの、独自の制度が適用されていたとしても、そちらの方が自然なことだろう。


「念のために言っておくけど、公的な機関やマスコミに通報したり、ネットに書き込んだりしても無駄よ。どうせ誰も信じないでしょうし……最悪の場合、貴方の命が危うくなるわ」


 平沢が、真顔で、とんでもないことを言い放つ。


 そういえば、この町に来てから、ネットへの接続が不安定な気がする。

 ずっと、僻地だからだと思っていたのだが……何らかの方法で、検閲でもしているのだろうか?


「不都合な人間は消すってことか……。完全に、悪の組織じゃねえか」

「そうね……。私達が善良だと主張する気はないわ。でも、この世界にとって必要なことをしているのも確かよ」

「知るか! そもそも、秘密が漏れたら困るような連中が、外から学生を受け入れるんじゃねえよ!」

「貴方のことは……私達は知らなかったのよ。神無月(かんなづき)家が勝手に呼び寄せたから……」

「……神無月家?」

「まあ、とにかく……私は、水守さん達の罰が軽くなるように嘆願するつもりよ。玲奈さんにも、慎重にお詫びして、許してもらう必要があるわ。貴方にも、いずれ本家に来てもらうことになるから、そのつもりでいて」

「……なあ、お前らが言う本家って何なんだ?」

「貴方に対して、色々なことを説明するためには……本家の許可が必要なのよ」

「おい、いい加減に……!」

「……待って! そこにいるのは誰!?」


 突然、平沢が声を上げ、教室の扉へと向かう。


 平沢が扉を勢いよく開くと、そこには宝積寺が立っていた。

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