第128話 宝積寺玲奈-15
「黒崎さんは……私に、性的なことを期待しているのですか?」
宝積寺は、こちらを窺うようにしながら言った。
「いや、そんなことは……」
「……何もできない女性は、退屈でしょうか?」
「お前には、そういうことを期待してるわけじゃない」
「では、何を期待しているのですか?」
「改めて、そういう質問をされてもな……」
「……私以外の女性には、期待するんですよね?」
「それは……」
「私は……黒崎さんにとって、何なのでしょうか?」
「……」
「……すいません。ただ、男性から性的な目で見られることには、抵抗があるので……」
「……悪かった」
「いえ……。あの……ですが……」
「何だ?」
「……寂しいかもしれません。全く期待をされなくなったら……」
「……そうか……」
「矛盾していますよね……すいません……」
「いや……」
しばらくの間、気まずい空気が流れた。
それから、宝積寺は、顔を逸らしながら言ってくる。
「……あの……どうして分かったんですか?」
「何がだ?」
「……色です」
「下着のか?」
「……」
「……悪い」
「……見えなかったんですよね? それなのに……どうして?」
「それは……ただ、初めて会った時に、白に見えたからだ」
「……」
付け加えるなら、単に宝積寺のイメージがそうだからというのもあるが、目の前にいる女でエロい妄想をしていることを知られたくないので黙っておく。
「……お願いですから、あの時のことは忘れていただけないでしょうか……?」
「そんなことを言われてもな……」
男は、異性に関するエロい経験を、簡単に忘れたりはしないだろう。
むしろ、記憶に刻み込まれてしまうのではないだろうか?
「……天罰かもしれません」
「天罰……?」
「黒崎さんの記憶が改竄されたことについて、何も言わなかったことへの罰です」
「改竄って……じゃあ、やっぱり……!」
「黒崎さんの記憶がなくなったのは、人為的なものです」
「……」
「黙っていて、申し訳ありませんでした」
「いや……お前は、その件に関わってなかったんだろ?」
「……はい。まさか、黒崎さんに、そんな酷いことをしたなんて……。初めて聞いた時には、目の前が真っ暗になりました」
「俺に何も言わなかったのは、神無月先輩に口止めされてたからなのか?」
「……はい」
「そうか……」
宝積寺が、神無月先輩に呼び出された日の翌日の朝……宝積寺は、自分だけ先に登校した。
あれは、俺と一ノ関の関係を誤解したからだと思っていたが、会わせる顔がなかったからなのかもしれない。
だとすると、宝積寺の神無月先輩に対する態度が悪かったのは、春華さんに関する因縁だけが原因ではなかったということだ。
あの時には、俺の記憶を改竄し、自分に対して口止めしたことを恨んでいたのだろう。
そういえば……水沢さんが、神無月先輩のことを「悪人」だと言っていた。
その理由が、ようやく分かった気がした。
「……私のことを、嫌いになりましたよね……」
「そんなことはない。お前は、ずっと、悪いと思ってたんだろ?」
「はい……」
「俺は、やっぱり、女に甘いのかもしれないな」
「……すいません」
「だが……その代わりというわけじゃないんだが、ちょっとエロい話をするのは、許してくれると助かるというか……」
「それは嫌です」
「……」
「……すいません」
「……」
「……」
「……どうしても駄目か?」
「……白でしたよ」
「どっちの時だ!?」
俺が、あまりにも大きな反応をしたためか、宝積寺は、こちらを恨みがましい目で見た。
「悪い……」
「……どちらの時もです」
「そうか……」
「……このことは、2人だけの秘密にしてください」
「ああ、約束する」
「……失礼します」
宝積寺は、顔を真っ赤にしたまま頭を下げ、部屋から出て行った。
1人になって、頭の中を整理しようとする。
だが、色々なことがありすぎて、簡単にはいきそうにない。
何気なく部屋の中を見回し、机の上に、俺の私物がいくつか置いてあるのを発見する。
その中にスマホを見付けて、それを手に取った。
メールが届いている。
確認すると、母親から送られた、何かがあったのかと確認するメールだった。
そういえば、魔物を仕留めてから、既に日付が変わっている。
今日はメールを送っていないため、異変を察知されてしまったのだろう。
どうしようかと考えて、結局、当たり障りのないメールを送った。
今日、メールを送らなかったのは単に忘れただけであり、特に変わったことはない……そんな文章を、不自然にならないように書くために、やたらと時間を使い、非常に疲れてしまった。
その後で、宝積寺からメールが来た。
内容を見ると、早見の家の住所が書かれていた。
それを見て、住所は宝積寺に教えてもらう予定だったことを思い出す。
先ほど、宝積寺から言われたことを思い出した。
早見が、俺に対して恋愛感情を抱いているという話……それについて考えると、正気を失いそうな気分になってくる。
たとえ、それが普通の形ではなかったとしても、好意があるか否かというのは極めて重大なことだと思えた。
しばらく経ってから、部屋の扉がノックされた。
「黒崎さん、起きていらっしゃいますか?」
声の主は北上だった。
「ああ。入ってくれ」
「失礼いたします」
そう言って入ってきた北上を見て絶句する。
「身体の調子はいかがですか?」
「あ、ああ……問題ない」
「そうですか……良かったです……」
「……なあ。どうして、ナース服なんだ?」
北上は、看護師が着る服装をしていた。
だが、これは昔のデザインのナース服だ。
しかも、丈が非常に短く、ニーソックスまで履いており、明らかにコスプレ衣装だと分かるような物である。
短いことは気にしているらしく、北上は顔を赤くして裾を押さえた。
「そ、それは……黒崎さんが喜ぶからと、アリス様が……」
「……」
「……似合いませんか……?」
「いや……」
むしろ、似合いすぎだと思うが……早見の奴、完全に面白がってるな……。
北上の脚をチラ見しながら、あまりエスカレートしないでほしいという考えと、止めない方がおいしい思いができるという考えが、両方浮かんだ。




