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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第121話 黒崎和己-11

 カーラルは、ため息を吐いてから言った。


「その話は、そろそろ良いでしょう? それよりも……貴方が御倉沢の人間なら、私達のことは、花乃舞に紹介していただけませんか?」

「……花乃舞に?」


 その申し出に、俺は困惑した。


 申し出自体が意外だったわけではない。

 異世界人が、この世界から異世界に移住しようとしている花乃舞に接触しようとすることは、自然な発想だろう。


 だが、俺と花乃舞には、ほとんど接点がない。

 先生とは親しいと言っても良いが、個人的に頼み事ができる関係かといえば微妙である。


「待って、カーラルさん! 花乃舞は、私達の世界から来た人間の子孫を、根絶やしにしようとしているのよ!?」

「ですが、花乃舞の方々は、助けを求めた私達を殺したりはしないはずです。あちらだって、魔力を高めて、私達の世界に移住しようとしているのですから」

「でも……! 紹介してもらうなら、神無月の方が……!」

「神無月は、魔力を基準に選り好みをします。忌むべき差別主義者です」


 カーラルのその言葉に、俺は驚いた。

 神無月の連中に対して、そんなイメージを抱いたことはないのだが……?


 ファリアも、カーラルの言葉には納得できない様子だ。


「それはおかしいわ。魔力が多い人が好きなのは自然なことよ。そうやって、人類は子孫を残してきたんじゃない。それが続いていくことを望む方が、遥かに正常だと言うべきじゃないの?」

「好みで人を分別するなんて、恥ずべきことです」

「無茶を言わないで。当然のことよ」

「……貴方は、男に手を出しすぎて処刑されたのでしょう? 少しは反省したらいかがですか?」

「男が好きなことが悪いっていうの?」

「いいかげんにしてください! 貴方が彼を勝手に連れてきたせいで、私達の予定は狂ったのですよ!? 御倉沢に協力していただくことで、差別のない、理想的な社会を構築できるはずだったのに……!」

「何よ! 元の世界で理想の社会を作れなかったから、戦いもせずに逃げ出したくせに!」

「……!」


 カーラルは、一瞬、激しい殺気をファリアに向けた。


「……よく分かりました。貴方のような人とは、これ以上、共に行動することはできません」

「あら、私を切り捨てるの? 光を操れるのは私だけなのに?」

「重要なのは魔力の多さです。原住民に危害を加えた貴方がいなければ、私達は御倉沢に保護していただくことができるでしょう。貴方は、彼らの処罰を受けてください」

「……そう。分かったわ。貴方達は勝手にすれば? でもね……」


 そう言って、ファリアは再び俺の顔に触れた。


「こっちの世界でも捕らえられて、処刑されるなんて御免だわ。私は、この子と一緒に、この町の外へ行くつもりよ」

「!?」


 とんでもないことを言われて、俺は動揺した。


「待ってください! 貴方がその子を連れて行ったら、御倉沢がどう思うか……!」

「知らないわよ、そんなこと。私、この子が気に入ったの」

「あんた、ちょっと落ち着け! もしも、この町の外に、あんたが行ったら……あらゆる人間から注目される環境で暮らすことになるぞ!?」


 俺は慌てて止めた。


 日本の普通の街をファリアが訪れたら、ハリウッド女優よりも注目されてしまうだろう。

 髪や顔を隠すことは可能でも、この女は背が高いため、目立たないように振る舞うことは不可能に近い。


「安心して。私は、魔法で姿を消すことができるわ」

「だとしても、ずっと消していられるわけじゃないんだろ?」

「大丈夫よ。なるべく人目に付かないようにするから」

「それで済む問題じゃ……!」


 なおも言い募ろうとした時。

 俺の言葉は、下の階で、何かが破壊される音によって遮られた。


 3人で顔を見合せる。

 何者かが、この家を襲撃したらしい。


 分かっている。

 こんな状況なのだから、素直に考えるなら、誘拐された俺のことを、誰かが助けに来たのだろう。


 しかし、そんなことがあり得るだろうか?

 この町の人間が、この家にいる異世界人に、投降を呼びかけた様子はない。

 何故、一度も交渉せずに、強行突入を決断したのか?


 異世界人は、この町の住人よりも、遥かに多くの魔力を保有している。

 俺を助けようと考えたとしても、異世界人に正面から戦いを挑むのは得策ではない。

 実際に、水沢さんの家にミュレイが立て籠もった時、御倉沢の連中はうろたえるばかりで、救出作戦を展開することはなかった。


 もし、俺を救出するために、異世界人と正面から戦おうとする人物がいるとしたら……正面から戦っても、異世界人に負けない自信があるのだろう。

 そして、俺のことを、一刻も早く助け出したいと考えているに違いない。


 そんな条件に当てはまる人物など、1人しか思い浮かばなかった。


「……逃げろ、あんたら!」


 俺が叫ぶと、2人の異世界人は驚いた様子を見せた。


「逃げろって……これは、貴方を助けに来たんでしょ?」

「だからヤバいんだ! お前ら……殺されるぞ!?」

「……へえ。貴方って愛されているのね」


 ファリアは、俺の言葉を全く信じていない様子だった。

 この世界の住人は魔力が乏しい、という余計な知識のせいで、事態の深刻さに気付いていない。


「信じてくれ! この家を襲撃してるのは、魔女を4人も殺した化け物なんだ! あんたらが敵う相手じゃない!」

「……魔女? 貴方は……何を仰っているのですか?」

「どうやら、かなり混乱しているみたいね」

「!?」


 こいつらは……魔女のことを知らないのか!?

 ファリアはともかく、事情通らしいカーラルですら、魔女のことを知らないとは……。

 完全に想定外である。


 俺が、何と言って危機的状況を伝えようかと迷っていると、下の階から、誰かが駆け上がってくる音が聞こえた。


 終わりの時が訪れたかと思ったが、違った。

 部屋の中に、先ほど下の階に行った、異世界人の片方が入ってくる。


 その異世界人は、異世界の言語で何かを言った。

 すると、カーラルは部屋の外を示しながら、不快そうに何かを言い返した。


 おそらく、カーラルは、仮に戦闘が発生したら防衛してもらおうと考えて、2人の異世界人を下の階へ行かせたのだろう。

 それなのに、実際に襲撃されたら上の階に来るのでは、下の階に待機させていた意味がない。


 カーラルの表情や仕草からは、そんな感情が読み取れた。


 下の階に戻るように指示された異世界人は、涙目になって立ち尽くす。

 その姿は、俺が初めて会った異世界人と被った。


 こいつらのメンタルは、特に強いわけではないということを思い出す。

 動かない異世界人に、カーラルは、さらに何かを言い放った。


 そのタイミングで、窓が割れた。

 そして、カーテンを引き裂きながら、何者かが部屋に飛び込んできた。

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