表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/289

第119話 ファリア-1

 階段を下りながら、家の鍵を開けた時に、違和感を覚えたことを思い出した。


 ……そうだ!

 俺は、玄関の前で待っていた宝積寺に驚き、説得することに集中して、鍵をかけないまま学校に向かった。

 なのに、俺は先ほど、鍵を開けて家に入ったのだ。


 ということは、何者かが、家の中から鍵をかけたのだろう。

 つまり……家の中に、誰かがいる……!



 リビングに入ると、一ノ関たちが倒れていた。

 渡波が、須賀川を抱き起こしながら、周囲を警戒するように見回す。

 3人を襲った何者かの姿は見えない。


 渡波がこちらを見た時に、その目が動揺するように動き、口が動き始めたように見えた。


 その言葉が発せられる前に。

 そして、俺が後ろを振り返る前に。

 何者かに後頭部を触れられた。



 ……どれほど眠っていただろうか?

 自分の近くで、複数の女が言い争う声を聞いて、俺は目を覚ました。


 俺が寝かされている部屋の中で、金髪の女が4人、聞き慣れない言語で会話をしている。

 その口調は、口論しているように感じられた。

 どうやら、全員が異世界人らしい。


 異世界人は美人揃いだな……。

 我ながら呑気だが、そんなことを考えてしまった。


 金髪の女や異世界人に、慣れてきたのかもしれない。

 何故か、初めて見るはずの異世界人に、親近感のようなものを覚えてしまったのだ。


 周囲の様子を確認する。

 窓には黒いカーテンがかかっている。

 家具は置いておらず、空き家のような印象を受けた。

 見たことのない部屋だが……構造は、俺の家と大差ないように思える。


 そして、俺が寝ているベッドは、本体の上に毛布が敷いてあるだけのようだ。

 長時間寝かされていたらしく、身体が痛い。


「気が付いたのですね?」


 険しい顔で何かを話していた異世界人の1人が、俺の様子に気付いてそう言った。

 他の異世界人も、話すのをやめてこちらを見る。


「良かった。なかなか目を覚まさないから、心配したのよ」


 異世界人の1人が、笑みを浮かべながら言った。

 その顔立ちが、少しだけ早見に似ている印象を受けた。


 最初に話した方の異世界人が、後に話した方の異世界人を睨んでから、他の2人に、異世界の言語で話しかけた。

 すると、2人は頷いて、部屋の外に出て行った。


 部屋を出た2人が、階段を下りて行くような音がする。

 どうやら、この部屋は2階にあるらしい。


 2人を見送ってから、場を仕切っている様子の異世界人は、こちらを見ながら言った。


「申し遅れました。私はカーラル。こちらはファリアさんです」

「気分はどう? 身体に問題はない?」

「いや、大丈夫だ。……そうだ、俺と一緒にいた4人は!?」

「……」


 カーラルという異世界人は、何も言わずに、ファリアという異世界人の方を見る。

 その目から、ファリアを非難する意図が感じられた。


「大丈夫よ。今頃、貴方と同じように目を覚ましていると思うわ」


 ファリアが、俺を宥めるように言ってくる。


「……あんたが、俺達を襲ったのか?」

「貴方達を眠らせたのは私だけど、襲ったわけじゃないの。家の中で食料を探していたら、貴方達が入ってきて、様子を見ているうちに逃げられなくなったから、仕方がなかったのよ」

「様子を見てたって……俺達が風呂に入ってる間に、逃げれば良かったじゃねえか」

「そう言われても……。貴方達が、廊下で裸になって浴室の方に向かったから、これから何が起こるのか気になったのよ」

「……」


 俺達は、こいつの下世話な好奇心のせいで襲われたのか……。

 それにしても……まさか、見られていたとは。


 俺は男だし、全裸になったのは脱衣所に入ってからだ。

 だが、女子達は廊下で全裸になったのである。

 こいつが男じゃなくて良かった、というべきか……?


 そういえば……この町の男の中に、光を操れる奴がいたら、どうするんだろうか?

 少なくとも、覗きはやり放題だろう。


 つい、そんな余計なことを考えてしまってから首を振った。


「本当に、渡波や一ノ関たちに怪我をさせてないんだろうな?」

「信用してくれないの? あの子達を傷付けても、私に得はないでしょ?」

「……だが、俺と一緒にリビングに行った渡波は、あんたの顔を見たんじゃないか?」


 俺は、異世界人の顔を窺いながら言った。


 異世界人は、女優のような演技をするという。

 騙されないようにするためにも、疑問に思うことは、きちんと確認しておかなければならない。


「貴方達は、向こうの世界から来た人間のことを、手厚く保護しているんでしょ? 気を失わせた程度のことであれば、口封じをする必要はないはずだわ」

「そんなことを、どうして、あんたが知ってるんだ?」

「カーラルさんに教えてもらったの」

「……?」


 俺は、カーラルという異世界人の方を見た。

 こいつは、この世界に来たばかりではないのか?


「この世界の話は、向こうの世界にいた時に聞いていました。貴方達は、3つの家に分かれて派閥争いをしていて、我々を仲間に引き入れることで、自分達の勢力を増そうとしているのでしょう?」


 カーラルは、当然のことのように言った。

 どうやら、この町の事情に、かなり詳しいようだ。


「そんなことを、あんたは誰から聞いたんだ?」

「この世界を出て、向こうの世界に行った人間からです」

「!?」


 この世界から……異世界に行った人間!?

 そんな人間が存在する、などという話を聞いたのは初めてだ。


「やはり、こちらの世界では、私達の世界との交流は伏せられているのですね? 3つの家の中で、花乃舞家に所属している方々だけが、私達の世界に派遣されるのですが……」

「……この世界の人間は、あんた達の世界に行って、何をしてるんだ?」

「こちらの世界から多くの人間が移住した際に、問題なく受け入れるように求めているようですね」

「……」

「しかし、私達の世界の指導者達は、受け入れに難色を示しています」

「……そうだろうな」


 異世界の住人の立場になれば、こちらの世界の住人を受け入れるメリットは乏しいだろう。

 こちらで最高レベルの天才とされている早見ですら、ようやく異世界人と渡り合える程度なのだ。

 そんな提案をして、何故受け入れられると思ったのか、理解に苦しむレベルの話である。


「私は賛成よ? この世界の原住民には、男が女と同じだけ生まれるんでしょ? その血が入れば、男が増えるから、女が退屈しないで済むようになるじゃない」

「……どうして、貴方は、いつも自分の快楽を最優先にするのですか? この世界の人間は、魔力が乏しいのですよ?」

「魔力が劣っていても、男を増やすのは大事なことよ」

「簡単に言ってはいけません。違う世界の住人が共に暮らすのは、とても困難なことです。魔力が少なければ、なおさらです」

「でも、男がいない生活なんて退屈だわ。こっちの世界には、こんなに可愛い子がいるのに、もったいないわよ」


 そう言って、ファリアは俺に手を伸ばし、頬を撫でた。


 神無月先輩や早見で経験があるものの、異世界流のスキンシップには、なかなか慣れない。

 特に、俺の顔に触れている女は、早見と同レベルの、華やかな美人である。


 本当は、もっと危機感を覚えるべき状況なのかもしれないが……正直に言えば、悪い気がしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ