第115話 渡波雫-5
「おいおい……それは、さすがにマズいだろ……」
とんでもない提案をされて、俺は動揺した。
「でも、私達を優先してもらって、黒崎君が風邪をひいたら嫌だよ」
「……見るなと言われても無理だぞ?」
「分かってる。いいよ、見ても」
「……ちょっと待って。皆で裸になろうってこと? 黒崎君の前で?」
蓮田は、声を上擦らせて言った。
「香奈ちゃんは嫌なの?」
「だって……」
蓮田は、救いを求めるように須賀川と一ノ関を見た。
須賀川は、少し迷った様子だったが、俺の方をじっと見てくる。
「そうよね……ここはあんたの家だもの。あんたを後回しにするのは、人として問題よね……。これは不可抗力だわ」
「……いいのか?」
「お互いに気を付ければいいと思うわ。エッチなことがしたいわけじゃないんだから」
「……そうね。でも……欲情するなと言っても、黒崎君には無理だと思うわ」
「……」
一ノ関の言葉を否定できなかった。
見るなと言われても無理だし、エロい気分になるなと言われても無理である。
目の前にある、様々な色のブラジャーに覆われた膨らみのことだって、見て興奮するなと言われても無理なのだ。
「それは……仕方がないと思うしかないんじゃないかな? 私達の裸を見ても嬉しくないって言われたら、将来的には、そっちの方が困るよ?」
「……そうね」
「あのさ……不可抗力なんだよね? だったら……エッチなことは考えてないことにしてくれないかな?」
「……分かった」
俺は、女子を脱衣所に案内しようとした。
御倉沢の家と神無月の家では造りが異なるため、宝積寺のように、自分で脱衣所に向かうことはできないはずだ。
しかし、渡波は、廊下でネクタイを解くと、スカートを脱いだ。
「……!」
「ちょっと、雫ちゃん……!」
「構わないでしょ? こんなに濡れてたら、畳むわけにもいかないんだし……」
「でも、こんな場所で……!」
「いいでしょ、窓もないから。覗かれる心配は要らないし、ここには黒崎君しかいないんだから」
「いや、それはさすがに……」
俺は咄嗟に制止した。
すると、渡波が意外そうな顔をする。
「……嫌なの? 私達がここで脱ぐのが? あっ、分かった。『後ろを向け』とか言われるのが嫌なんでしょ?」
「そうじゃない。お前達には、脱ぐべきじゃない場所で脱ぐとか、そういうことはやらないでほしいんだ」
「……そうなの?」
「黒崎君は……本当は、清楚な女性が好きなのよ」
一ノ関が、そんなことを言った。
「それって、たまたま、玲奈ちゃんや天音ちゃんと仲がいいだけでしょ?」
「そうじゃないわ。全ての女性に関する好みの問題よ」
「えっ、そうなの? 女の子のおっぱいとか、下着が見えると喜ぶのに?」
「私達の下着を見た時に、黒崎君は喜ぶけど、気が咎めるような顔もするわ。他の言動から考えても、積極的に見せようとする女性が好きなわけじゃないはずよ。羞恥心の無い女性は、黒崎君の好みから外れることになるでしょうね」
「……」
一ノ関の指摘は的を射たものだった。
大河原先生は例外で、あの格好は、先生だから許されるのだと言うべきだろう。
早見であれば、あの服装でも似合いそうだが、一ノ関や北上に、先生のような格好をしてほしいとは思わない。
「黒崎が嫌がるのは、自分に後ろめたいところがあるからでしょ? 私達は、あんたにサービスしてるわけじゃないのよ?」
須賀川がそう言った。
「いや、だが……俺が見てない場所で脱げばいいだろ?」
「……あんた、そういうことじゃなくて、私達の身体を心配できないの? さっきから、すごく寒いんだけど……」
そう言って、須賀川は身震いした。
「服が濡れてるんだから、寒いのは当たり前だよ。早く脱いだ方がいいと思うよ?」
「……そうね」
そう言って、須賀川は服を脱ぎ始めた。
話の流れに戸惑った顔をしながらも、一ノ関と蓮田も服を脱ぎ始める。
俺の目の前で、女子達は下着姿になった。
しかし、そのタイミングで、全員が手を止める。
さすがに、全てを見せることには抵抗があるらしい。
誰かが脱ぐべきなのかと考えて、俺も服を脱ぎ始めた。
すると、女子達は動揺した様子を見せる。
「ちょっと……! どうして、あんたがここで脱ぐのよ!?」
「……ここじゃない方がいいのか?」
「当然じゃない!」
「……というより、私達が脱いでる時に、気を利かせるべきだったと思うんだけど……」
蓮田が、自分の胸を抱くようにしながら、涙目になって言ってくる。
「……期待させてごめんね? さすがに、目の前でこれ以上脱ぐのは、ちょっと……」
渡波も、恥ずかしそうに言ってくる。
少し残念な気もしたが、羞恥心があることに安心した。
俺は、今さらながら、脱衣所の中に移動して服を脱いだ。
「……あんたが先に入って」
「ああ」
浴室に入って、俺はシャワーを出した。
その後で、女子達が浴室に入って来る。
浴室は、5人も入ると手狭だ。
詰めすぎたらしく、一ノ関が俺に接触する。
素肌が触れ合って、思わず飛び退きそうになった。
俺の顔を窺った一ノ関は、すぐに俯いてしまう。
シャワーを全員に回した。
身体が冷えていたのは俺も同じなので、生き返るような気分だった。
少しずつ、当初の緊張感が弛んでくる。
悪いと思いながらも、俺は、女子達を眺めてしまった。
この4人は、体型はバラバラだが、共通点がある。
それは、肌が綺麗なことと、身体に余分なものが付いていないことだ。
いや……加えて、大きさが違っても、胸や尻の形が良いのも素晴らしい。
シャワーを浴びる女子達を見回して、夢を見ているような気分になってきた。
「黒崎君……見比べるのは、さすがにマナー違反よ?」
一ノ関が咎めるように言った。
「……勘違いしないでくれ。誰が劣っているかを確認してるわけじゃない。全員が優れていることを確認してるんだ」
「貴方……このことを知られたら、宝積寺玲奈に、なんて言い訳するつもりなの?」
「……」
返答に窮していると、須賀川が言った。
「水守……今日は許してあげてくれない?」
「鈴……さっき、雫に何を言われたの?」
「……そのこととは関係ないのよ。自分でも不思議なの。何だか、気分が高揚してるっていうか……戦って興奮したせいかしら?」
そう言って、須賀川は、俺のことをじっと見つめた。
その目が、妙に熱っぽい感じで、俺の心臓が高鳴った。
「……鈴もなの? 実は、私も……」
胸の辺りを押さえながら、蓮田がそう呟いた。
「香奈まで……?」
「そっか。皆、そういう気分になってきたんだね」
渡波が、何故か楽しそうに言った。
「面白がるなよ……」
「だって、そろそろ、将来のことを考えるタイミングでしょ?」
「……将来?」
「私達は、子供を作るために集まってるんだから。1回は、裸の付き合いをするのも、いいんじゃないかと思って」
「お前……俺達に、エロいことをさせるつもりか?」
「そういうわけじゃないけど……黒崎君の魔力量は多いから、裸になって近くにいられたら、本能が呼び覚まされるのは仕方がないんじゃないかな?」
「……結局、俺の魔力は多いのか? 本宮の姉さんからは、乏しいと言われたんだが……」
「霧子さんがそう言うのは当然だよ。黒崎君は、ボーダーラインの上にいる人の中では下の方だから。ちなみに、私はボーダーラインの下ではかなり多い方だから、私達の魔力量は大差ないの」
「……ボーダーライン?」
「魔力量に関する経験則があってね。人の魔力量は、ある水準に達すると、急に多くの人に好かれるようになるの。その水準がボーダーライン。それより上の魔力量があれば、努力しなくても皆から好かれるから、幸せな人生が約束されるようなものなんだよね。私も、あと少しだけ魔力が多ければ、もっといい人生を送れたんだけどなぁ……」
そう言いながら、渡波は羨ましそうに俺のことを見た。




