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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第113話 渡波雫-3

 話題を変えようと考えていると、遠くで木が倒れるような音がした。


「……!」


 皆に緊張が走る。


「あっちよ!」


 須賀川が、そう叫んで走り出した。

 俺は、魔法で加速しながら並走する。


「黒崎君は、魔物から距離を取って。無理をして近付いては駄目」


 一ノ関が、俺にそう念を押してくる。


「だが……お前達が戦ってるのを、後ろで見てるってのは……」

「気にしないで。貴方の仕事は、私達が異世界人と接触した時に相手を説得することだから。魔獣を倒すのは、私達の仕事よ」

「……」

「そうだよ。私もいるんだから、任せて。そのために来たんだから」


 渡波が、俺を励ますように言ってくる。


「雫……さっきから気になってるんだけど、あんたの黒崎への態度って、この前と違うんじゃないの?」


 須賀川が、不思議そうに尋ねた。


「それは……吹雪様のお話を聞いたから……」

「えっ? あんた……吹雪様に何を言われたの?」

「……黒崎君のことを、よろしくって……」

「……」


 須賀川は、かなり動揺したように見えた。

 蓮田と一ノ関も、強いショックを受けたようである。


「ごめんね。こんな話、魔獣と戦う前にする予定はなかったんだけど……」

「なあ、渡波。それは……生徒会長がお前に、俺の女になるように指示したってことか?」

「そうなの。突然呼び出された時には、ビックリしたけど……」

「……」

「やっぱり、雫ちゃんって、期待されてるんだね……」


 蓮田が、寂しそうな口調で言った。


「雫は、私達よりも魔力が多いもの……。仕方のないことだわ」


 一ノ関は、自分を納得させるようにつぶやいた。


 渡波は、平沢や本宮と違って、御倉沢の幹部としての扱いを受けていない。

 だが、立場的に同格でも、魔力の量の差で、扱いが変わるということなのだろう。


「……この話は後にしましょう。今は、魔獣を倒すことに集中すべきだわ」


 一ノ関がそう言ったので、話は終わった。


 確かに、今は戦いに集中すべきだ。

 余計なことを考えるべきではない。



 木が倒れる音がする。

 どうやら、魔獣がいる場所に、かなり近付いてきたようだ。

 そう思った直後に、木々の隙間から、赤い巨体が見えた。


「あの魔獣は……!」


 須賀川が、動揺した様子で言った。


「あれは……エビか?」

「どちらかといえば、ザリガニに近いかな。脚はたくさんあるけど……」


 渡波が言ったとおりだった。

 赤い巨体と大きな一対のハサミは、巨大なザリガニに近い。

 だが、脚はエビのように、数十本も生えている。


「どうしよう……。この魔獣には、私の魔法は効かないと思う……」


 蓮田が、困った様子で言った。


 エビのように多数の脚がある魔獣には、一部の脚を沈めても効果が乏しいだろう。

 今までのように、蓮田の魔法で動きを止めることはできないということだ。


「私の魔法で、身体の左側の脚を全部凍らせる。皆は、あいつの動きをなるべく止めて」


 渡波がそう言った。


「お前……敵を凍らせる魔法が使えるのか?」

「あれ? 黒崎君には言わなかったっけ?」

「……よくあることだ」

「分かったわ。雫、お願い」


 作戦はまとまった。


 巨大なザリガニは、ハサミで木を切り倒し、その葉を食らっている。

 こいつ……水中の生き物にしか見えないが、草食なのか?


「行くわよ!」


 そう叫んだ須賀川が、傘を捨てて水柱を放った。

 周囲の木が魔物によって切り倒されているために、雨を集めやすくなっているのだ。

 須賀川にとっては好都合だろう。


 水柱がザリガニに突き刺さった。

 その巨体が、水圧に押されてぐらつく。

 その隙に、渡波が魔光を放った。


 ザリガニの脚が、1本凍り付く。

 簡単に溶けるような凍り方ではない。これで、この脚は動かせないだろう。


 俺達の襲撃を受けて、ザリガニは逃げだした。

 直進して、木の間を縫うように走る。

 俺達は、邪魔になる傘を捨てて後を追った。


 ザリガニは、時々、木をハサミで切り倒した。

 それにより、道を切り開きながら、こちらを足止めするつもりだろう。

 俺達は、倒れてくる木に圧し潰されないように注意しながらザリガニと並走する。


 須賀川が水柱を放つ。

 しかし、木が生い茂っている場所に来たため、初撃ほどの威力はない。

 ザリガニの巨体が止まることはなかった。


 渡波は、何度も魔光を生み出して放つ。

 それにより、ザリガニの脚は、次々と凍り付いた。

 さすがに、雨の日に戦うことに向いている人材として、平沢が推薦しただけはある。


「行くわ!」


 そう叫んで、一ノ関が跳んだ。


 ガラ空きになっているザリガニの背中に剣を突き立てる。

 勢いよく刺した剣は、かなり分厚いように見える甲殻を貫いた。


 ザリガニは、一ノ関を振るい落とそうとして、身体をくねらせるような動きをする。

 剣を引き抜きながら、一ノ関はザリガニの背を蹴って飛び降りた。


 ザリガニが苦悶している様子はない。

 だが、余計な動きをして減速した隙を突いて、須賀川が水柱を放ち、渡波が新たな脚を凍らせる。


 蓮田は、ザリガニの頭に近い場所まで走り、地面に魔光を広げる。

 それにより、ザリガニは、つんのめるような状態になった。

 須賀川と渡波は、そのタイミングで、さらに追撃する。


 足を次々と氷漬けにされて、ザリガニも必死だ。

 俺達から逃れようとして、ハサミで泥を跳ね上げる。

 ただの泥とはいえ、ザリガニの巨大なハサミによって撒き散らされた物なので、量がハンパじゃない。

 俺達は、生き埋めにならないように足を止めた。


「逃がさないわよ!」


 須賀川が、時間をかけて集めた雨をザリガニにぶつけた。

 その水圧に負けないように、ザリガニは踏ん張るような状態になる。

 渡波は、より身体の前方の脚を凍らせた。


 ザリガニは、左側の脚が動かなくなってきたため、徐々に左側に逸れながら走るようになってきた。

 左で並走している俺達の方に近付いてきたのを狙って、一ノ関が跳ぶ。

 一ノ関が再び背中を刺すと、ザリガニは、左向きに身体を大きく傾けた。

 ザリガニの巨体に潰されないように、一ノ関は剣を引き抜きながら背中を蹴って跳ぶ。

 そこで、渡波はザリガニが体勢を立て直す前に、脚を次々と凍らせた。


 またザリガニが走り始める。

 だが、もはや直進できなくなっていた。

 左に弧を描くようにしながら、何度も体勢を崩して走る。


「黒崎君、剣を貸して!」

「は?」


 驚く俺から剣を奪い取り、渡波はザリガニに向かって跳んだ。

 そして、ザリガニの左のハサミの根本を狙って斬り付けた。

 斬った位置が良かったのか、ハサミは一撃で斬り飛ばされる。


 さらに、一ノ関が跳んで、ザリガニの頭に近い位置を突き刺した。

 この一撃は致命的なものだったらしく、ザリガニは苦しそうに悶える。


 渡波と一ノ関は、一旦飛び退いた。

 そして、2人はまた跳んで、それぞれが頭に近い位置を突き刺す。


 ザリガニは、2人を振るい落そうとしたが、円を描くように暴れた後で、ついに力尽きて倒れた。

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