第10話 黒崎和己-1
伊原の話を聞いていて、何かがおかしい気がした。
最初は、それが何なのかが分からなかったが……しばらく考えて答えが分かった。
どうして、平沢のことは何も言わないのだろうか?
伊原は、違うクラスの女子や、上級生や教師、おまけに、高校に併設されている中学校の女子の名前まで挙げていた。
そこまで守備範囲が広いのであれば、性格が最悪な早見はともかくとして、平沢について何も言わないのは不自然だ。
平沢は美人だし、スタイルだって、一ノ関や早見と比較すれば見劣りするものの、決して悪くないように見える。
加えて、頭がいいし面倒見もいい。多少口うるさいところはあるが、理不尽なことを押し付けてくるわけではない。
うちのクラスにいる男子ならば、最初に気になる人物であるはずだ。
そんなことを考えながら、注意して伊原の話を聞いていると、あいつが名前を挙げる女子は偏っているような印象を受けた。
うちのクラスの女子で、名前を挙げられたのは半分程度である。
そして伊原は、俺が知っている女子の中では、北上の名前も挙げなかった。
理由を直接尋ねても、伊原は誤魔化そうとするばかりだった。
ならば、その法則性を突き止めてやろうと考えて、クラスの女子を観察したのである。
そこを、一ノ関に見られてしまったのだろう。
非常に迂闊だった、と言うべきである。
ちなみに、俺の分析では……伊原は、スカートの短い女が好きなようだ。
伊原が名前を挙げた、うちのクラスの女子は、皆がミニスカートだった。
須賀川や蓮田も同様である。
逆に、伊原が名前を挙げなかった平沢や北上や早見、そして宝積寺は、揃ってスカートが長めで、膝下まである。
おそらく間違いないだろう。
ひょっとしたら、伊原には、女の脚に対する、何らかのこだわりがあるのかもしれない。
ただ、同程度のミニスカートを履いていても、名前を挙げられなかった女子が何人かいた。その理由までは分からなかったのだが……。
それにしても、一ノ関にエロいことができる機会を逃すなど……俺は、なんて勿体ないことをしたんだろう。
せめて、胸だけでも触っておけば……。
寝る前に、そんなことを考えながら悶々としてしまった。
翌朝になってから、宝積寺が、昨日のうちに訪ねてこなかったことに気付いた。
謝罪に来るなどとメールに書いていたが、予定が長引いて、来られなかったのだろうか?
そんなことを考えながら、俺は、毎朝の日課になっている近況報告のメールを実家に送ろうとした。
すると、宝積寺が今朝になってメールを1通送ってきていたことに気付き、文面を確認する。
『申し訳ありません。本日は、先に登校させていただきます』
そこには、簡潔な言葉が書かれていた。
……ひょっとして、俺は避けられているのではないだろうか?
そんなことを考えて、不安になってしまった。




