甘い夢からの目覚め
施術が終わったから、起き上がろうとした時だった。
時計は、60分以上ゆうに過ぎていて…「途中、俺も抜けさせて貰ったし」差し引きがあったのだと分かった。
立ち上がるのを制されて、紙コップを手渡され、中身は水だと気が付く。
「20分くらい次の予約が入っていないから、少し寝ていって? …たまには、ゆっくりしていくといい。」
それだけ先生はいうと、ふっと笑ってゆっくりカーテンを閉めた。まるで、おやすみと言ったみたいに。
先生がその場を離れたと分かった途端、眠気が一気に込み上げてきた。
遠くから、加湿器なのか空気清浄機なのか…モーター音がする。
聞いているうちに、とろとろ…と 意識が微睡んで…どうでもいい想像が アタマを駆け巡る。
医院長先生がもし、恋人だったら…
寝相を想像したり、会話を予想したり、仕草を思い浮かべたり…
いいの、想像だもん、想うのは自由で。
寝返りを打って、身体を少し丸め、いつもの寝相になった途端、こんどこそ眠くなって… 覚えてるのはそこまでだった。
夢、だと思う。
すぐ隣で 先生がスケッチブック片手に絵を描いていて、わたしはそばで昼寝をしていた。
「…その体勢、身体、痛くなるよ?」
最もらしい事をいうけど、疲れてそれを直す気も起きないわたしは「(別に、いいもん…)」と黙って甘える。
苦笑いした先生が、スケッチブックを閉じて、近くに来たかと思うと…顔に息が掛かって…
「高見沢さん、お疲れ様ですー」
明るい声がして、部屋が若干明るくなった。カーテンの向こうからいつも会計をしてくれる別な先生が現れる。
私が見ていた夢は、勿論 知るはずもない顔で「医院長の1時間、どうでしたー??」爽やかな体育会系の明るさで聞かれ。
やだ、変にニヤニヤしてたりとか 見られたくない寝相だったらどうしよう。駆け巡る嫌な予感だったけど。
「医院長の処置は、長ければ長い程、患者さんが寝落ちするんですよねー」
は、良かった…でも、寝た上に 甘い夢を見ました。
あれ、医院長先生は??
キョロキョロ見渡すと、
「カルテ書いてた。ここだよ。」
カーテン向こうから現れた医院長先生が現れた。
その顔は、夢の余韻のまま どこか甘い顔をしていて。
「少し、意地悪したね、俺」
何のことだろう、といい掛けて、口の中の処置だったと気が付く。
「は、恥ずかしかったです…で、でも」といい掛けて 引っ込めた。先生が何か言いたげな顔をしていたから。
「あれは…顎の噛み合わせが悪い時とかに、歯科医師もやったりする。口の中にもコリは、起きるから ほぐしてあげると、頭痛も楽になる。」
相づちを打つように、もう一人の先生が頷く。
「…やる患者さん、選びますけどねー。
生理的に受け付けないだろうなって方には、僕らも切り出さないっていうか…切り出しづらいですよね。
…でも…?」
もう一人の先生が、首をかしげた。
「なんか、血色良くなりましたね。顔の色が1トーン 赤みさして血色よくなった感じですよ。
頭痛とかどうですか?僕、前に医院長に多分同じ処置だと思うんですけど…してもらった時、なんかスカッと頭ん中冴えたような気持ちよさあったです。」
医院長先生は、何となく歯切れ悪く答えた。
「まあな」
後、俺やるから。それだけを、もう一人の先生に言うと、医院長先生は おもむろに私の前にしゃがんだ。大きな身体と真っ直ぐな瞳が 私の顔と近付いた。
遠くで、さっきまでいたもう一人の先生が離れていく足尾とが聞こえなくなった時だった。
「俺に身体預けてくれるのが嬉しくて、さっき…悪ノリした。申し訳ない。」
言い訳なんかしない、清々しくきっぱり言い切る姿があった。
「分かってたんですか?」
やっぱりわざとだったんだ。
「はい。」
だとするなら、
「ひどい」
反応を弄ばれたと思うと、哀しくなる。生理反応をオモチャにされたってことが。
「申し訳ない。…ただ、誤解される前に伝えたかった。」
先生が1拍おいて。瞬きもせず一息に言った。
「好きです。」




