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弱気な私の弱気な恋  作者: 黒田 容子
11/11

今が天職

ある日のお散歩の事だった。


クラスの子供たちを連れて、皆が大好きな公園に向かったのに。

軽トラが横付けされ、何人もの人が草むしりに枝の伐採をしていた。



子供たちは、遊ばせられない…引き返そうと思った時「自治会の者です。」二人の男性に話し掛けられた。


二人とも知ってる。…商店街店主会の書記長さんと…他でもない仁さんだった。


すぐに子供たちが騒ぎだした。

「やっぱ、かれしー?」「いけめーん」

「うちのゆーこせんせーが いつも おせわに なってましゅ!」

相変わらず余計な事を言うのが1名いるのを、仁さんは目を細めて笑っていた。


「ゆうこ先生、どういうこと?」

細めるどころか、つり上がってるのは同僚…背後で負のオーラが立ち込めていた。


仁さんが、平然と話を始めた。

「パンダ公園近くの保育園の皆さんですよね。…申し訳ないのですが、今日は草むしりと伐採清掃なので。園児さんたちには危ないですから…」

店主会の書記長さんが「みんな、ごめんね」と優しくいう。

「大丈夫です、ありがとうございます。」

みんなも、ありがとう言おうねと振り返ったのに。

「おにーさん、絵、描いてくれないのー?」

「ねーねー、ゆうこ先生すきー?」

なにこの空気… 子供たちは 空気を読まず勝手気ままを言い始めた。


「…ゆうこ先生、貴方のお知り合い?」

背後では、教師スイッチが入った先輩がいる中、仁さんが屈んで、子供たちをみた。

「公園の草むしりと伐採…と言っても分からないか。

髪が伸びたらチョッキンするだろ? 葉っぱもチョッキンしているんだ。チョッキンした枝が、ひゅーって落ちてきて頭にブス~しても大変だろ?」

身振り手振りで説明してる。効果音に笑ったり、怖がったりする子もいて納得した者半分。…が。

「絵、描いてくれるっていったー!」

納得してない中でも特に口達者が反発。

「じゃあ、砂場で描いてあげるよ。あそこの時計の長い針が一番下に届くまでね。

…先生方が良かったら、の話だけど。」

目線で「どうする?」私と他の先生を見渡すから…別な先生が手をあげて、引き受けますと合図すると、子供たちとその場を離れて行った。


残ったというか、残りたかったんだろう先生は、キッとこっちを見た。


「貴方、今の人どういうご関係?」

「彼氏です。お付き合いしています」

「子供たち、知ってる風だったけど、勤務時間中に会ってたってこと?」

「たまたまです。この近くに職場がある人なので。」


何故か、怖くなかった。

一昔前は、何かにつけてドキドキしてたのに。

そんなことすら、思い出せないほど、私は淡々としていた。


昔の自分だったら、このまま言われ続けて萎れてったと思う…でも今は違うんだね。


きっと、仁さんがいるからだ。

きっと、私を好きでいてくれる子供たちがいるからだ。

きっと、私を見守ってくれる保護者がいるからだ。


「誤解ですが、表面的にみたらおっしゃる通り不適切ですね。申し訳ありません。」

「そうよね、どうかと思うのよ!それ」

キャンキャン騒ぎ立てる先生をゆっくりと遮って話を続けた。

「彼は、駅前商店街の店主会にも出入りしていますし、元々『地域住民』なんですよ。

生活圏にいれば、当然、子供たちとも会う機会はありますよね?」


お母さま、さんざん心で罵っちゃったけど、今だけあの時の力を真似させてください。


「保育士は、恋人の住所地も問われるんですか?私の彼である以上、自由な出歩きも制限されるのは、考え方に異常さを感じます。」

「そ、そこまで言ってないわよ。…節度をって話で。」

「年頃の女の子だったら、そういう話に結び付けたがりますし、たまたま事実その通りだった。…ただそれだけの話ですよね?

節度を保ったところで、面白おかしくする環境なんですから、元から。」

ついに先輩が折れた。

「もういいわよ、どうして貴女、わたしにそう突っ掛かるの?貴女らしくないじゃない。」

折れた先輩を、静かに眺めやりつつ何かふつふつと込み上げる感情に気が付く。

「…私を疑ったからですよ。」

先輩達の中に潜在していた、なにかのヒエラルキーが見え、そして下克上を始めた私の怒りが、目の前の先輩を怯ませようといる。

「簡単な原因だと思いますけど?」

それだけ言い捨てると、私は子供たちの隣に戻った。いつまでも下っ端で言いたい放題される立場でいて貰えると思うなよ。


ふう、と息を吐いた。

もう、優しい「ゆうこ先生」に戻ろう。


あと…3分だから。

時計の長い針が一番下に届くまで。




翌日、子供たち経由で「ゆうこせんせ~の彼氏に会った~ お絵描きじょうずだった~」と知られ、保護者からは「へ~」と生ぬるい視線を浴びることになったし、勿論、同僚の先生方からも色々あったけど…

一人言い負かした自信は揺るぎなくて、

「彼は地域住民なので、会うこともありますよね?何か問題でも?」

冷ややかに言い続けて堂々としていたら、なにも言われなくなった。


遠回しに「怒ると不機嫌になる『今っ子』」とは言われたけど、もう気にしない。

私は、私で有りたいから。




ある日のスーパーのこと。

「よせ、そっちいくな!バカ!忖度しろ!」

聞きなれた声が、陳列棚の向こうから聞こえてきた。

「なんですかあ~」

…間違いない、あの親子だ。お母さま、ご自分の子供は、やっと3歳になった幼児さんですよ?『忖度』なんて。

ついつい笑ってしまう風景に、仁さんが「どうした?」聞いてきた。

かたや、例の親子の会話が今も聞こえてくる。

かあさんは今、君に『プライベート』という言葉を教えたいと思っているよ。」

「やだにょ~!」

パタパタと近付いてくる足音…そして、ほどなくして、可愛い声の主が現れた。

「せんせ、こんにちは!」

満面の笑みを浮かべて、駆け寄ろうとした例の彼は。


私たちを見るなり一言。

「おかーさーん、ゆーやくんは、3さーい!何の事だかさっぱり分かんなかった事にしとくー!」

そのままの笑顔で手を振ってお母様の元に帰っていった。


好きな人がいて、見守られてそして 私が見守る子供たちもまた大きくなっていく。

弱気だった私が、歩んできた今がここにある。


もう大丈夫。私は今が天職。

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