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第一章




ミリアは中学を卒業後、そのままエスカレーターで高校に入学し、本人いわく適当に彼を二、三人つくっては別れ、それなり楽しい高校生活を歩んだのち、大学に入学したという。高校ではナーガとはコースが違っていたため、顔を合わすことはあっても中学生のころのように毎日一緒に遊ぶことはなかったらしい。




高校三年生のころ、同じクラスのイケメンが志望しているというだけで受けた大学に合格し、いざ通ってみると同じコースにナーガがいて、昔ほどではないが遊ぶ回数が増えたのだとか。



一方ナーガは中学を卒業後、ミリアと同じくエスカレーターで高校に入学したが、彼女とは違うコースに入った。三年間とくに彼女をつくるわけでもなく、ただひたすら自分の好きなことに専念し、同じコースの男友達の家にいりびたっていたらしい。彼もまさかミリアと同じコースになるとは思いもしなかったらしい。



お互い短い時間ではあるがそれぞれの道を歩んでいたようで、なぜかほっと胸を撫でおろした。

俺も少しではあるが中学卒業後について二人に話した。誰とでもすぐに仲よくなるタイプの自分がまさか引越し先で少しとはいえ疎外感や寂しさを感じていたとは言えず、新しい土地でもうなくやっていたということだけを話した。実際今はもううまくやっているし、今ごろみんなはそれぞれの街の会場で成人式に参加しているのだと思うと、そちらに顔を出したくもなる。




「そうそう、イスターも同じ学部なのよ。コースは違うけれど」



 その名前を聞いて思い出すのは黒く肩まである髪を後ろで束ねているのが特徴的な男の子だ。昔から華奢で色白くて髪も長かったせいで女の子だと言われていた。彼は中学のころ外部から編入してきた生徒で、毎日一緒にいた仲というわけではないが、同じ趣味のナーガが仲良くなり、ナーガと仲のいい俺やミリアも自然と話すようになった。



 イスターはずいぶんと消極的な性格であまり遊ぶことはなかったものの、学内で会えば普通に話すし、たまにナーガと三人で近くのゲームセンターに行ったり、テスト勉強をしたりしていた。





「式に来てるかわからないけど、同窓会には参加するわ」


 他の友人について聞くと、二人とも何人か知っているようだった。幼いころからナーガと仲が悪いようで良かったノイラは高校卒業後、企業するといって進学せずに社会人になり、小学生のころからミリアにくっついていた控えめ女子のカノンは中学卒業後、自分を変えるためにとか何とかいって外部の高校に入学後、派手なグループの一員となり、今では雑誌の読者モデルになっているらしい。



中学生のころでは考えられないような道に進んでいる者も多く何度も驚かされた。みんな自分の夢に向かって必死に生きているのだ。スタートは同じだったのに、知らない間にみんなきちんと目標を決め、人生をつき進んでいる。その点、ミリアとナーガはまだ自分と同じ場所にいるような気がして安心した。





「みんなすげえな。俺ももっとなんか見つけねえとな、目標とか。それで……」


 肝心な人の近況がまだ聞けていない。自分から聞くのがいやで二人のどちらかが話してくれるのを期待していたが、肝心な人の名前は出てこなかった。


「あ、そろそろ会場に入ったほうがいいわ」ミリアが見るからに高そうな腕時計を見ながらそう言った。

 高校時代に付き合っていた年上の彼氏からのプレゼントらしい。たしかにいくら二十歳といっても大学生が持つにはすいぶん高いブランドのものだった。それを高校生のころにもらっているのだから、彼女はいろいろな意味ですごいのだろうと思った。




 三人はコンビニから離れ、式が行われる会場へと向かう。周りの新成人たちも一様に会場に向かって歩

き出している。もしあいつが来ているのであれば、中で会うかもしれないという期待をこめて、会場に向かう人々を注意深く見ながら歩いた。




 あいつと出会ったのは幼稚園の入園式の日だったので詳しいことは覚えていない。ただはじめてあいつを見たとき、とてもきれいな顔だと思った。幼稚園児が幼稚園児に対して思ったことだから大人から見ればちょっと可愛い男の子くらいにしか見えないだろう。しかし、同じ年同じ目線で同じ世界を見ている当時の俺にとってはそう見えた。もちろんきれいな顔だと思っただけで、それ以外の感情はとくになかった。だから、いつから彼に対して特別な感情を抱くようになったのかは定かではない。




同じクラスだったのでいつの間にか話すようになり、一緒にいるようになった。はじめはそれだけだった。そのときミリアとナーガも同じクラスだった。

 



小学生にあがるころには四人でいることが多くなり、そのまま平和に六年間を過ごした。おそらく自分中であいつに対する感情が変わったのは中学生のころだ。そのころにはもとからきれいだったあいつの顔はさらにきれいになり、まるで人形のようになっていた。



 長い間一緒にいるうちにあいつのきれいな顔をきれいだと再認識することがなくなっていたし、ずっと見ていたからそれが当たり前になっていた。もちろん顔が同じなので当たり前なのだが。だがそれを再認識させたのは一人の女の子だった。この学園は外部からの編入は中学からできるようになっており、俺たちのクラスに外部から来た生徒は十人ほどいた。外部から来た者にとって、あいつはとてもきれいな顔の男の子という認識だったのだ。

 



中学一年生の秋、あいつは外部から編入してきた同じクラスの女子生徒に告白をされた。いやもしかするとあいつにとって女性からの告白ははじめではなかったのかもしれない。ただ俺があいつがが女子から告白されたと知ったのはこのときがはじめてだった。本人がその場で断わると、女子生徒は大声を出して泣き結局彼女が泣き止むまで帰ることができなかったそうだ。




  話を聞いたミリアは冷やかし、ナーガはわざと悔しそうな顔をし、三人は笑っていた。そのとき自分だけが笑っていなかったことには気がついていた。笑うどころか胸のずっと奥のあたりに何か重いものを乗せられたような感覚に襲われ、三人の声はまったく頭に入ってこなかった。今まできれいだった川にとつぜん泥水が流れ込んできたかのように、重くのしかかってきたそれは、彼の胸の中を黒く汚していった。

 




それが一度で済むはずがなかった。外部の女子生徒からさんざんイケメンだの美形だのと言われていたあいつは、それからも何度か女子から告白されていた。すべてを知っていたわけではないが、その度に一年生の頃、はじめてあいつが告白されたことを知ったときのように思い何かがのしかかってきた。いつの間にかそれは黒い塊となって自分の中にあり続け、普段は隠れて見えないところに隠れているのに、ちょっとしたことで表に現れるようになった。




自分でもそれが何なのかはわからない。ただ俺の中に黒いものができたことにいち早く気づいたのはナーガだった。詳しいことは聞いてこなかったけれど、察していることはわかった。だからといって彼に助けを求めようとはしなかったし、彼も気の利いたことをしてくれるということはなかった。

 



そのまま時間だけが過ぎて行き、何も変わらないまま中学二年生になった。そのころになると四人でいる以外にそれぞれに友達も増え、少しずつ一緒にいる時間が短くなっていった。それは俺も同じで、もともと誰とでも仲よくなるタイプだったので、常に一緒にいる三人とは別の友達も多くいた。三人それぞれの人間関係を詳しく知っているわけでなく、ときどきミリアが知らない女子生徒と遊んでいたり、ナーガが知らない男子生徒となにやら趣味について話していることもあった。そしてあいつの人間関係も詳しくは知らなかった。




俺たちと共通の友人もいれば、そうでない者もいた。だから、彼があの人と繋がりがあったことも、あいつがその人物をどう思っているのかも知らないまま俺はすべてを壊してしまった。といえばおおげさかもしれないが、やった本人は罪の意識にさいなまれつづけることになった。


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